【中里雪菜視点】所属の条件
次の日、転生かーと思いながら学校に行くと、
「なんだぁ、白風さんは何かお悩みか?」
「ちょ、ちょっと詩織! 学校でその名前で呼ばないでよ!」
「ごめんごめん、それでなんかあった? 東の菅谷と決戦対決か?」
「いやいや、なんで決戦しなきゃいけないのよ…。実はさ、事務所から所属しないかって連絡もらって昨日事務所の人と話したの」
「へー、どこなの?」
「ホロサンジ」
「最大手じゃん! めっちゃいいじゃん! 雪菜もついに億万長者かー」
「なんでそうなるのよ…で、昨日話したんだけど、所属する条件の一つに転生しないといけないってのがあるんだよね…」
「へー、なんで? 別に炎上してるわけじゃないし、そのままじゃダメなの?」
「苗字は違うけど、あげはって名前のバーチャル配信者さんがもうホロサンジにいるんだよ」
「あー、そりゃ流石に無理だね…。んでどうするの?」
「悩んでてさー。やっぱりホロサンジのサポートがあったらゲーム配信以外にももっと色んなことができるんじゃないかって思うし、スケジュール調整とかもやってくれるみたいだし、仕事的なのもお願いすることはあっても強制することはないって言ってたし。」
「へぇ、いいことばっかりな気がするけど、なんで悩んでるの?」
「折角応援して書いてくれたアバターが変わっちゃうのが申し訳ないなぁと」
「ああ、そんなこと! 別にいいんじゃない? 多分全然気にしないと思うけどー」
「でも、イラストレーターさんからすれば子供みたいなもんじゃんきっと?」
「んー、イラスト科に3年もいながら、そういう心がまるでわからない! んじゃ聞いてみるよ!」
「ありがとうー」
『姉さん、前にバーチャル配信者のアバター書いてもらったの覚えてる?』
『覚えてるよー。白風あげはちゃんでしょ? 私も何回か見たよー!』
『それでね、今大手事務所から引き抜きが来てるんだけど、転生前提なんだって』
『おーー! すごいじゃん!』
『そんで、応援して書いてもらったアバターなのにって悩んでる』
『あはは! 全然気にしないでー! 最後の配信の時にでも、このアバターは誰に書いてもらったぐらい言っといてくれれば全然オッケー!』
『おー流石姉さん』
『まぁ寂しい気持ちもあるけど、より大きく羽ばたくのを見守る親鳥の気持ちさ』
『流石ビブリ』
『え、ごめん、どこら辺が?』
『すいません、適当に言いました…』
「全然オッケーだって! 最後の配信の時にでも、誰に書いてもらったアバターです! って言ってくれたらうれしいなってさ」
「それぐらい全然いいけどさー、本当にいいのかな」
「いいのいいの!」
「うーん、ありがとう。そしたら、所属してみようかな…」
「おーがんばれー! あー、でもそうするとまた0からのスタートになるのか」
「転生だから普通はそうなんだけど、私今炎上しているわけでもないし、昔から見てくれたリスナーさんもいるから、告知を条件にしてみようかなと思ってて」
「おー、転生します!って告知なんて聞いたことないけど、面白そうだしいいじゃんw」
「まーそうなんだけどね(笑)」
詩織と相談して、家に帰ったら妹とも相談して、そして両親に状況を伝えた。
両親は、ちょっと心配だけどやりたいならってことで、事務所との話し合いに同席してくれると言ってくれた。
そしていよいよ事務所との打ち合わせの日になった。
場所は事前にお父さんに事情を説明するということで、太田さんが電話し、そこで東京なので事務所で大丈夫ですとお父さんから話してもらい、事務所で打合せすることとなった。
「あ、白風さんいらっしゃい!」
受付で待っていてくれた太田さんが声をかけてくれた。
受付には所属しているバーチャル配信者のパネルやグッズが飾られていた。
「あ、こんにちは。今日はよろしくお願いします!」
「よろしくね! ご両親もお忙しいところありがとうございます! 会議室にご案内します!」
そう言うと、太田さんが先導してくれ、家族で後を着いていった。その途中で彩春が小声で、
「ねーねー、お姉ちゃんのグッズもできるのかな?」
「頑張ればできるかもしれないけど、わからないねー」
なんて話しながら会議室についた。
「では、こちらにおかけになって少々お待ちください」
そう言われたので座って待っていると、少し太り気味のおじさんと太田さんが入ってきた。
「今日はお越しいただきありがとうございます。私はホロサンジのマネジメント部門の責任者をしている小平と申します。」
そう言って名刺を出してきた。とりあえずお父さんが受け取り、それからお母さんと続き、私も真似して名刺をもらった。なぜか彩春も…。
「本日はお時間ありがとうございます。概要は太田の方からお伝えしているとのことなのですが、改めて簡単にご説明いたしますと、現状個人のバーチャル配信者として活躍してらっしゃる娘さんに、是非弊社に所属していただき活動していただけないかと思っている次第です。」
「ありがとうございます。娘からは前向きに検討したいともらっておりますので、条件等のすり合わせをさせて頂ければと思います。」
「ありがとうございます。まずホロサンジからご提供させていただくものは、配信活動に必要な各種機材のご提供及び、配信時及び投稿動画のコメント欄の監視、またアバターのご提供やアバター用衣装のご提供及び担当者の設置となります。登録者数が多くなってきましたら、スケジュールの管理等のマネジメント業務もサポートさせていただきます」
「なるほど、ありがとうございます。」
「あ、はいはーい! コメント欄の監視って常時ですか?? 長時間配信とかだと無理くないですか?」
「ちょ、彩春…」
「なにおねーちゃん、大事なことだよ!」
「妹さんのおっしゃる通りですので、何でも聞いてください! コメント欄の監視につきましては、出来る限り行いたいとは思っているのですが、中には24時間ぶっ続けで配信されたりする方もいるので…正直常時とは言えません。なので、出来る限りという形になります。ただし、配信中に一度も監視に来ないということは、配信時間が極端に短くない限りはありません」
「ありがとうございまーす!」
「では次に、逆に所属頂く上でのこちらからの条件になりますが、こちらの資料をご確認ください。」
そう言って太田さんが出してきた資料には、様々な条件が記載されていた。
1.週に5日以上の動画配信もしくは5本以上の動画投稿
2.現在のバーチャル配信者白風あげはとしての活動を停止し、新しいバーチャル配信者としての活動に専念
3.本人が特定できる情報の非開示
4.顔出し配信の禁止
・・・
おお、顔出し配信が逆に禁止されてる…。
そう思って太田さんを見るとウインクしてくれた。
なるほど私が気にしてたから逆にいれてくれたのか。
他にもお金のことや、契約形態みたいなのが色々書いてあったが、それはわからないのでお父さんにお任せすることにする。