恩返し
「なんだよ、忙しいのに」
「すまない」
場所はエンゲージの会議室で、夜の20時。
「しかし、バーチャル配信者って本当色々準備大変なんだな」
「まぁ衣装1つで結構変わっちゃうからね」
「そうなんだよなぁ。んで今日はどうした? 急に時間とって欲しいなんて」
「ああ、えっとね、ちょっとこれ見てくれる?」
俺は鞄からノートパソコンを出して、文化祭の莉乃愛の動画再生した。
「りのあちゃんだね」
「そう、これね、直人にもらったMOVファイルじゃないの」
「うん?」
「なんかさ、ネット動画ってどうしても画質落ちちゃうじゃん? あれなんかもったいないなと思ってさ。OPEXとかすごい綺麗なマップだし」
「う、うん??」
「だからネット動画で直人の会社で編集したレベルの画質の動画を見れるように、新しい動画の圧縮形式を作ったの」
「はい?」
「これ直人からもらったファイルと見比べてみて。ほとんど画質変わらないから」
「え?」
そう言うと、俺は直人からもらったMOVファイルを再生した。
「えっと、うん、全然変わらないように見えるけど、ごめん全然頭が追いつかない」
「えっと、新しい動画圧縮の方法を作ったから、調べたらこれ特許とれそうだから、特許とってどっかの会社に売れないかなって」
「ええ???」
「これってさ動画圧縮の新形式だけど、これだけだと正直何にもできないんだよ。今俺のこのパソコンでしか再生できない。皆が使うには動画配信サイト側とかがこの形式に対応しないといけないから」
「な、なるほど…」
「それで、これだけ画質があがってる世の中だから、どっか会社興味あるんじゃないかなーと思ったんだけど……」
「あ、う、うん」
「それでもし興味ある会社があって売れたら、直人の会社でそのお金もらってもらっていいから。いくらになるのか見当もつかないから、大した金額にはならないかもしれないけど、今回の件含めて中学からのお返しができればと思って」
「あ、お、おう、それはありがたいというか、そんなのは俺が好きでやってたことだから別によかったんだけど、え? おれにどうしてほしいと?」
「えっと、特許申請を直人の親父さんの会社とかで手伝ってもらえないかなって。申請費用は俺払うからさ。それで売れたら直人の会社がそのお金をもらうのも普通でしょ?」
「え、うん、そうかもしれんが、わかってきたぞ。まず新、お前うち何屋さんか知ってるか?」
「総合エンタメ企業」
「いや芸能事務所だぞ?」
「でもネットの記事に『エンゲージ総合エンタメ企業へ!』って書いてあったよ?」
「そ、そうかも知らんが、畑が違いすぎるだろ流石に……」
「でもほら、映像のことだし。説明とかは俺がやるから」
「あーもう、わかったよ! とりあえず親父に聞いて弁理士さん探すわ…」
「ありがとう」
「親父さんに頼めばよかったんじゃねーの?」
「親父に頼るのはなんか嫌だ」
「今までりのあちゃんのこととか、散々頼ったのに?」
「ぐ…あれはやむにやまれずだ…」
「そういうもん?」
「あと親父ほとんど1人会社だから、結局できない」
「なるほどな。まぁわかったよ。そもそも売れるのか俺もわからんし」
「うん、そこら辺から探る感じなるとは思う」
「まぁ、それは弁理士さんに任せよう。しっかし、お前またなんて斜め上な…」
「そうかな?」
「普通今出来ないからって、作れるもんじゃねーだろ」
「まぁ今回はちょっと偶然が重なった結果でもある…そもそも俺がプログラムの技術を向上させるためのただの勉強目標だったから、出来ちゃって調べたら特許とれそうだしと…」
「勉強目標が高すぎるだろ…わからんけど…」
「でもおかげですごく向上した気がする」
「そうかよ…もうお前の頭の中は全然わからんから、後は親父の会社の人に任せることにするわ」
「さんきゅ」
そうして、その後しばらくVゲージのことについて話して、家に帰った。
翌日に直人から連絡が来て、早速その分野に強い弁理士さんを紹介してくれるということで、更に直人の親父さんの会社の法務部の人が対応してくれることになり、日程調整してその人と一緒に弁理士さんに説明した。
一通り説明すると、「すぐ調べますが、多分売れますね」とのことだった。
ただ、相手が大きい会社になりそうだから証券会社を入れた方がいいと言われた。
そしてすぐにその法務部の方が、証券会社にも連絡してくれて、再度証券会社の方にも後日説明した。
そして暫くすると、弁理士さんからは「特許とれるのですぐ申請しましょう。あと主要先進国でもとれそうなので、そっちでも申請しましょう」ともらい、証券会社からは「通信キャリアとテレビ局とネットメディア大手が興味があるようだ」ともらった。
価格は正直わからないので証券会社の人に一任している。
弁理士さんに説明しつつ特許用のプログラムシーケンスとかを書いたりして、またしばらく経つと、「各国特許申請中になりましたので、進めて頂いて問題ないです。周辺も含めて広めに申請できました」ともらい、証券会社の人が興味のありそうな会社との打合せを設定してくれた。
そして1社目に訪問した際に、初めて金額を聞いた。
完全売り切り、追加請求等一切無しで20億。
やばすぎでしょ……。
計算ロジックは、動画配信等で差別化が可能になることで、それにより見込める従量課金で得られるであろう収益から算出しているらしい。
しかし、その金額を聞いたその会社の人たちは別に引かなかった。
俺はデモをしながら説明すると、「社内で本当に実行可能か検証したい」と話をもらい、一旦今回はご紹介と言うことで持ち帰りになった。
そして、他にも何社か説明したが、どこも金額についてひっかかることはなく、逆にどこも「検証したい」という回答だ。
実機検証できてるのに何を検証したいんだろう…と俺がぼやいたのを聞いた証券会社の人からは「日本は大体こうですよ」と苦笑いしながら話していた。
検証は面倒くさいなぁと思いつつ、家に帰りしばらくすると直人から連絡がきた。
「おい、やばいことになったぞ」
「どうしたの?」
「アメリカの巨大Web企業から、「申請中の特許を買い取りたい。買い取り可能なら今すぐ日本に行く」ってエンゲージに連絡来た」
「おお」
「一応法務の人が、売買検討中ですって返したら、今から行くからそれまでは決めるのは絶対待ってくれって」
「まじで?」
「まじっぽい。ということで、明日の16時エンゲージで打合せになった」
「あ、うん、わかった」
そして翌日、16時前にエンゲージに行き、待っていると、本当に来た。
どうも技術を統括している? 役員? っぽい白人のおじさんと、対象事業の責任者っぽい白人のおじさんと黒人のおじさん、後は法務周りか白人のおじさんの4人だった。
俺の拙ない英語で、法務の人が呼んでおいてくれた通訳さんにも手伝ってもらいながら、今回の技術を説明した。
持ってきたノートパソコンで実際に再生もして見せた。
すると、しばらく先方があーだこーだ議論を始めた。
訳はできるので、俺が聞こえた感じだと、間違いなく買い取るべきだとかなんかそんな感じだ。
そして、白人の役員っぽいおじさんが証券会社の人に話しかけ、お金の話を始めた。
そしてやり取りが終わると、正式に買い取りたいと言われた。
日本円換算で、従量課金なら1年約1億2,000万円で、20年で約24億円。
もし従量課金じゃなくて一括でもいいのであれば、約40億円出すと。
従量課金が安い設定になっている事がよくわからないでいると、証券会社の人がコソッと「アメリカでは従量課金がメジャーなのですが、従量課金の場合は、今後の開発による周辺特許でかなり加算される場合がほとんどなので安めになるのです」と説明してくれた。
そして全員が俺の方を見た。
え、もちろんOKですよ! 検証しなくていいみたいだし!! 今後の開発の予定もないんで高い方の一括で!!!
と心の中で思いながらうなずいた。
その日は、これ以上他の会社に本件での話をしないこと等が記載された書類に直人の親父さんがサインして終わりとなった。
要はもうこれで決まりだからな、価格のつり上げとか情報流出とかするなよと言う感じの書類だ。
なんて準備がいいんだ…。
てかそんな直ぐにできるものでもないんだろうから、常備されてるんだろうな…。
こうして、俺の作った動画圧縮技術はアメリカの巨大Web企業に売却されることとなった。




