メディア発表
その日は配信を終えると、なんだか非常に疲れてしまいそのまま寝てしまった。
翌朝起きると、デスクの上に、「お風呂に入ること!」と莉乃愛の字で書かれたメモが置いてあった。
確かに…。
もう3日風呂に入ってないことになる……。
すぐに久しぶりにシャワーを浴びて、久しぶりに歯磨きをした。
そしてキッチンでコーヒーを淹れて、部屋に戻った。
それから俺は、例のプログラムがなぜうまくいったのかを調べだした。
とりあえず、その記述が何をするものなのかは分かったが、ここでこの処理をすることで全てがうまくいった理由がなかなかわからない。
そもそも、これ実は上手く言ったように見せかけて、実は開けないとかだったら失敗である。
俺は、調べるのをやめ、今度は.vsjの動画ファイルを再生するための、動画再生のプログラムを作り出した。
これもまたちょちょいとできるものでもないので、2徹しないように注意しないと……
それからは、動画再生のプログラムを作り出したが、ちょくちょく直人から連絡が来たり、雪菜さんから連絡来たりすることもあって2徹はしないで進めることができた。
配信の方も、長時間ではないが再び毎日できている。
ゴールデンウィーク開けすぐに、ホロサンジとエンゲージから、現在ホロサンジに所属する11名の配信者が、7月1日付でエンゲージの子会社であるVゲージに移籍することが発表された。
ネットも大手メディアも、老舗芸能事務所のエンゲージが関わってるとあってか、非常に注目を集めた。
『ホロサンジにホワイトナイト現る!』
『エンゲージ、新興市場へ進出!』
『新旧業界再編か!』
こんな記事がネットにあがってる。
更にホロサンジはそれとほぼ同時に、今回の配信者の休止に関する謝罪を発表した。
そして更に、7月放送開始予定の、兼ねてから注目されていたアイドルアニメの全てをホロサンジが買い取り、アニメ放送と同時に登場キャラクターがバーチャル配信者として活動することが発表された。
『やばすぎ』
『それは楽しみすぎる』
『ホロサンジ今回の件は許せんが、これは歓迎する』
これもまた非常に注目を集めた。
ちょっと想像しただけでもわかる。
上手くいったら凄そうだが、めちゃくちゃ大変そうだ。
だって、あくまでアニメのキャラクターがアニメ放送外で活動するということだ。
きっと、日常の生活音とかアニメキャラとしてあり得る範囲でしか、多分しちゃいけないんだと思う。
それに、配信で話す内容までキャラクターイメージを維持しなきゃいけないから、声だけじゃなくキャラクターに本当になり切らなくてはいけない。
ただ、本当にうまくいったら凄いだろう。
この発表をするためにホロサンジも急いでいたのか。
でも、確かに、アニメキャラのバーチャル配信となると、大分商業的になるから、これまでのホロサンジの方向性とは違う。
詳細は分からないけど、きっとこれが次のホロサンジの方向性なんだろう。
移籍予定の配信者は、移籍準備の為と動画配信活動は休止したままだが、SNSでの発信等は再開している。
直人の会社では、既に何名かの元ホロサンジの社員の方が合流し、ホロサンジの許可の元移籍予定の配信者と打合せを重ねているようだ。
どうも、全員分の新衣装を準備して、7月1日に一気に公開するようだ。
直人の会社へはメディアの取材等もきているそうだが、正直誰も受けれる余裕がないからと、親父さんの会社の人に頼んで受けてもらっているそうだ。
華蓮さんは、りのあのマネジメントのサポートと、Vゲージの雑務全般となっているようで、現状はほとんどがVゲージの仕事みたいだが、学校が終わったらほぼ毎日行っているらしい。
莉乃愛が言うには、「なんだかお祭りみたいで楽しい!」と喜んで遅くまで働いているようだ。
雪菜さんからは、「華蓮ちゃんもう太田さんとかと完全に打ち解けてるみたいですごい」と聞いた。
まぁ、華蓮さん勢いとコミュ力の塊だもんな…。
莉乃愛は、ゴールデンウィーク開けから、エンゲージが動いて今までのwiwi以外にも雑誌の撮影なんかに行っている。
ちなみに莉乃愛の撮影には、華蓮さんは必ず来るそうだ。
華蓮さん専門学校大丈夫かな…
そして雪菜さんはというと、
「お疲れ様ですー」
と、ディスボで話したいと言われて、決めた時間にチャンネルに入ると、ゆきはさんが既にいた。
「あ、アークさんお疲れ様ですー」
「どうですか移籍の方は?」
「活動休止なんて初めてで、暇でなにしたらいいのかと思ってたんですが、ゴールデンウィーク開けからは、もう新衣装やらで忙しくて…」
「そうですか。でもよかったですね!」
「はい! それで今日なんですけど、アークさんにお伝えしておきたいことがあって」
「どうされましたか?」
「実は私、モデルもやることにしました…!」
「そうなんですね!」
「直人くんにお願いして、Vゲージじゃなくてエンゲージの方でモデルの仕事斡旋してもらって、今度YukiとしてWebメディアの記事に出ることになったんです」
「おお、そうなんですね! 雪菜さん綺麗だし絶対大丈夫ですよ!」
「そ、そうだといいんですが…」
「そうすると日向ゆきはは?」
「えっと、最初は少し頻度が落ちちゃうんですが、しばらくしたら、日向ゆきははモデルのYukiだよって公表することにしようということに、直人くんや小平さんや太田さんと相談してなったんです」
「それはまた前代未聞ですね…」
「そうなんですが、なんか文化祭のりのあちゃん見てたら、なんか顔出してもいいかなとか思って…」
「そうだったんですね」
「ちょっと視聴者さんがどうなるかはわからないんですが、バーチャル配信者日向ゆきはも続けつつ、顔出し配信も時折やりつつって感じで行こうかなと」
「なるほどですね」
「どう思います?」
「んー…そうですね、ちょっと本当に予想もできないですが、バーチャル配信の割合ですかね? あまりバーチャル配信がおざなりになると、なんかよくないことが起こるかも?」
「あ、はい! 基本はバーチャル配信者として配信していこうと思ってます!」
「それならきっと大丈夫なのではないかと…ちょっと自信ないですが…」
「視聴者さんからすると、中身は知らない方がいいのかもしれませんが、逆に隠したままモデルの活動するってのもどうなんだろうと…」
「非常に難しいところですねそれは…」
「そうなんです…」
「でもゆきはさんは雪菜さんですし、エンゲージが入るなら、危険なことからも守ってくれるかと思いますし」
「そうですよね!」
「とりあえず俺は応援しますので、やってみましょう!」
「はい! 今日はそれがお伝えしたくて!」
「そうでしたか! 結果的にどっちもできるエンゲージになってよかったですね!」
「はい! 少し視聴者さんにはご迷惑おかけしちゃいましたが…」
「そこは7月1日に丁寧に伝えるしかないですね」
「はい、そうですね! 楽しみにしててくださいね!」
「はい、もちろんです」
「今日はこれをお伝えしたかった感じですので、ありがとうございます!」
「いえいえ、ありがとうございます!」
そう言ってディスボを抜けた。
そして暫くすると、夏服のトレンド予想のweb記事に、Yukiとして雪菜さんが載った。
発売はまだだが、どうもwiwiにも莉乃愛と一緒に、RinoとYukiで載るらしい。
一体どうなるか本当に予想もできないが、きっと雪菜さんの性格を知っている視聴者さん達は受け入れてくれるんじゃないだろうか。
と思いつつ、俺は明日の直人との打ち合わせに向けて、ノートパソコンにプログラムを準備した。