親父ではない
「あ、華蓮こっちー! あと、マネージャー的なポジションができた!」
と莉乃愛が親指を立てて言った。
直人にご馳走するだけのつもりだったが、莉乃愛も一緒にということになり、それなら華蓮さんも一緒にと言うことで、4人で少し高級な焼肉屋さんに来た。
直人にご馳走する会ではあるのだが、莉乃愛が焼肉が食べたいということで、焼肉に決まった。
店で待ち合わせで、先に着いたので中に入って待っていて、華蓮さんが少し後から合流して席に座った瞬間にこれだ。
華蓮さんはポカーンとしており、しばらく沈黙した後に、
「どゆこと?????」
と、え? え? みたいな感じで聞いてきた。
「えっとそれは俺から説明を…」
と直人が言い、とりあえず注文だけして説明しだした。
「というわけで、りのあちゃんが、華蓮ちゃんと一緒に働けるなら、うちの事務所に所属すると言ってね…」
「なーるほど!!! りのあナイスすぎ! もちやる!」
「そ、そっか…。いいの? 美容系の専門学校行ってるんでしょ?」
「あたし本来は、りのあ系専門学校だから!」
と、腕を組んで、ウンウンと言う感じで言った。
なに、りのあ系専門学校って……。
「そ、そうなんだね、じゃあOKってことだったら、働き方とか条件とか…」
「直人に任せる!」
「いやいや、待って! 一応俺雇用主になるから、そこら辺はちゃんとしといたほうが…」
「ちゃんとするなら直人かあっくんがやった方がいいでしょ! だってあたしちゃんとしてないし!」
「えぇ…」
「なんてね! でも直人が決めていいよ! 別に悪い感じにならないと思ってるから!」
「そ、そう…。わかった、新と相談して決めとくね…一応お給料と言うか、専門学校の間はバイト代みたいな感じのが出るから…」
「俺巻き込まないでよ…」
「あーーー、専門どうしよ? やめようかな???? でも流石にそれはなぁ…」
ウーンウーンとうなりながら華蓮さんが悩みだした。
そして頼んでいたお肉が運ばれてきて、皆で焼肉を食べながら話した。
「しかし、直人、合コンどうすんの? 本当にやんの?」
「いや、流石に無理だ…。今まじで忙しくて、なんなら授業も何回か休んでしまった…」
「そっかー、社長だもんねー。でもお金持ちでいいじゃん!」
「その社長イコールお金持ちってのは本当に違うんだけど…」
「まぁあたしは、りのあとまた一緒にいれるのが嬉しい!!」
「わたしもー!!」
そう言いながら、2人ともご飯片手にお肉でほっぺたを膨らましながら、「ねー!」って感じになってた。
「まぁ、なんかそれならよかったよ…」
「でもさー、あたし何やんの?」
「詳細は決まってないけど、多分りのあちゃんのマネジメントのサポートと、俺が新しく始める動画配信系の事務所の全体的なサポートかな」
「んんー、なにやるかさっぱりだけど、勢いで乗り切りるわ!」
と華蓮さんは言った。
そうなんだよなぁ…。
俺とか直人とかはあれこれ考えるんだけど、それが無駄かのように莉乃愛や華蓮さんはかるーく勢いで突破していってしまうことがあるんだよなぁ…。
「そう言えば、動画配信系ならあっくんは直人の事務所に所属しないの?」
と、莉乃愛が聞いてきた。
「しない」
「そなんだ」
すると直人が、
「りのあちゃんもっと言ってやってよーー!!! ただでさえ立上げだから、登録者の多い配信者がいないのに、こいつ俺が打診した時も速攻断ったんだぜ?!」
「しょうがない。今の俺のメインはプログラムだ」
「まじでお前ってやつは……」
「ただ、色々お願いした自覚はあるので今日はご馳走する」
「くそぉぉぉ! おれの大学生活、焼肉一回かよぉ!」
「「あっくんごちーー!」」
と莉乃愛と華蓮さんはモグモグしてニコニコしながら言い、直人はうなだれた。
女子2人が、莉乃愛は雑誌の他に何をやるべきかみたいな話で盛り上がりだしたところで直人が、
「いよいよ、今週末大詰めだ」
「ゴールデンウィークじゃん」
「そうなんだけど、小平さんがホロサンジの社長さんに最速でアポ取ってくれて、いよいよ交渉しに行くんだよ」
「そっか。確か人数が多くてうまいことやるってのは難しいからって、もう移籍の話で行くんだっけ?」
「うん、うちの弁護士たちと移籍金の算定も終わった」
「うまくいきそうなの?」
「小平さんから聞く感じ、別に社長さんは正気じゃないとかそういうわけじゃないらしいから、現状の状況を考えると大丈夫だと思うと」
「そっか」
「ただ、同席するであろうコンサルの人は正直わからないって」
「なるほどね。とりあえずそのコンサルがうちの親父ではないことは確認した」
と、俺が言うと直人は驚愕の表情をしながら、
「そ、そうか…。その可能性あったのか…」
「まぁ、マリンスノーの箱舟の大会をりのあと見てたみたいだから、流石にその二人に迷惑かけるようなことはしないとは思ってたけど、一応」
「ちなみにもし親父だったらどうしたんだ?」
「どうしてただろうか…雪菜さんに迷惑をかけた報いは受けてもらわないとだから、とりあえず母さんに言って家と車の鍵と銀行口座は没収して、単身赴任で毎月100万死ぬまで請求するぐらいは確定だろうね」
「やべーな。東京で働いてて単身赴任で、しかも金まで持ってかれるとか……」
「まぁその可能性はないから大丈夫」
「ま、まぁよかったよ。とりあえず、休止している人を移籍対象としたから、金額抑えられて、親父も大丈夫だって言ってた」
「それならよかった」
「あぁー稼がないとなぁー。なんか親父に借金あるみたいな雰囲気になるもんなぁ」
「頑張ってくれ社長」
「お前が持ち込んできた話なんだけどなぁぁぁ!!!!」
と、再びヘッドロックされた。
「あっくんと直人は仲いいねー」
「りのあとあたしには劣るけどねー」
と、向かいの席に座る2人はそんな俺達をみつつニコニコしながら話してた。
焼肉をご馳走して解散し、莉乃愛と家に帰り、その後OPEXのソロ配信をした。
しかし、いよいよ直人達が表に出てくるのかと思うと、特に俺が何かできるわけではないけど、気もそぞろで配信は2時間ほどで終わった。
今週末か…。
俺は本当にもう何もできないけど、直人なら大丈夫だろう…。
ソロ配信を終わらせて、そんなことを思いながら俺はそんな気分を紛らわすかのようにプログラムを書き始めた。