あったねそんな話…
雪菜さんに状況を説明して以降、雪菜さんとはちょくちょくディスボで話してる。
どうも太田さんが完全復帰したようで、南さんのことは気にならなくなったようだ。
しかし、直人から話を聞く感じ、状況が好転することはなさそうだ。
小平さんは、直人の親父さんと話した翌日に会社に辞表をだし、すぐに有休消化に入り4月中旬に退職になるらしい。
ホロサンジ初期から支えてくれた人なので、社長さんも「こんな形になって残念だけど」と、特に変な制限をかけなかったようだ。
社長さんどんな人なんだろう…。
話を聞く感じ、正直今回の件を聞いて「なんかお飾りなのか?」とかも思ったけど、小平さんへの反応を聞くと結構ちゃんとした人のような気もする。
そして、4月半ばに、まりんさんとロイドさんが同じタイミングで、会社との方向性の違いを理由に、4月末で配信活動を休止することを発表した。
それに伴い、他に5人ほどのバーチャル配信者も配信活動の休止を発表した。
ネットではホロサンジの事務所について、様々な憶測が飛び交っており、公式のSNS等は荒れに荒れている。
きっとホームページからの抗議や、下手したら会社へ直接抗議なんかもきてるんだろう。
どんな苦情が届いているのか、メールサーバー見てみたいな…。
そんなことをふと思ったが、俺は頭を切り替えて動画圧縮のプログラムを書き出した。
正直今回は俺ができることは、雪菜さんの話を聞くぐらいで、何もない。
他は全部直人と直人の親父さんがやる。
直人は、大学に通いだしたが、会社の準備で小平さんや太田さんと頻繁に打合せをしているようで、「合コンなんて1ミリもやる暇がないぐらい忙しい」とぼやいていた。
結局、どう考えても直人しかいないということで、新会社は直人が社長になることになった。
元々親父さんの跡を継ぐということは決まっていたし、それが大分早くなって跡を継ぐのではなく新規立ち上げになったってだけだから大丈夫だろう。
結構違う気もするけどまぁいいか……。
と思いつつプログラムを書いていると部屋のドアが開いた。
「ねーねーあっくん」
莉乃愛がそう言いながら部屋に入ってきた。
今回はまだ集中してなかったので気が付いた…。
「直人に聞いてくれた?」
と莉乃愛が言った。
完全に忘れてた………。
しかも結構前じゃん………。
「あー!! その顔は忘れてたんでしょ!」
「ご、ごめん…」
「もう雑誌の編集さんに言っていい?」
「ま、待って! この後連絡するから!」
「本当―? んじゃお願いねー!」
と莉乃愛が部屋から出ていったので、忘れないうちにと直人に電話した。
「なんだよー! 忙しいんだよー!」
「それは良かった」
「まじで大学生活を1ミリも謳歌できそうにない!」
「ちゃんと授業を受けていれば謳歌できるでしょ」
「俺は合コンやサークルをーーーー!!!!!」
「ご愁傷様」
「それで今度はなんだよ!」
「りのあが事務所を検討したいと」
少しの沈黙の後、
「まじかよーーーーーーーーー!!!!!!!!!! このタイミングかよーーーーーーー! このクッソ忙しいタイミングにーーーーーーー」
「実は言われたのは2週間以上前で、雑誌の編集さんにもう連絡していいかとさっき言われた」
「ちょ、まじでーーーーーーーーーー!!! 待ってー!!!! すぐ調整するから! また仕事が増えたーーーーー!」
「嬉しい悩みだね」
「お前ひとりだけなんか平和そうでムカつくわーーーーーーー」
「すまないが、そういうことなんでよろしく頼む」
「あーーーもう! わかったよ! りのあちゃんに俺から直接連絡していいか?」
「うん、それで大丈夫」
「りょーかい、んじゃこの後小平さんと打合せだから切るな!」
と言われて電話は切れた。
そして俺は莉乃愛の部屋に行きノックをすると「はーい!」と返ってきたので中に入った。
「直人に連絡したよ。遅くなってごめん」
「おーそれでー?」
と、ベットに腰かけながら莉乃愛が言った。
「えっと、すぐ調整するって。直人から直接連絡来ると思う」
「おっけおっけー!」
「んじゃ後はがんばって…」
「ちょ、あっくんも一緒だからね?!」
と振り返って部屋を出ようとした俺の袖を莉乃愛がつかんだ。
「え、俺も?」
「そうだよ?」
「なんで?」
「難しそうじゃん?」
「直人だしそんなことないかと…」
「でも話すとき直人もいるんでしょ?」
「多分そうだろうね」
「ほら、直人がいるならあっくん必要じゃん!」
と莉乃愛がドヤっと言った。
あったよ…。
あったよそんな約束!
もう1年ぐらい前じゃないか?!
むしろなんでこれはこんなに覚えてるんだよ……
「…あったねそんな話…」
「だからもちろんあっくんもだよ!」
「わ、わかったよ…。直人には今色々お願いしてるし、なんかご馳走でもしようかな…」
「あ! それならわたしもわたしもー!」
「うん、いいよ」
「華蓮も呼ぼーっと!!」
そう言うと莉乃愛はスマホをいじりだした。
俺は高校時代と変わらないこのやりとりに、莉乃愛は莉乃愛だなぁ…と思いつつも部屋に戻りプログラムを再開した。
なんか、あと少しでヒントがつかめそうな感じなんだよな…。
良いところまで来てる気もするし、全く見当違いのことをやっている気もする。
そもそも、既存の仕組みの延長線上で考えてるのがよくないのか?
俺はそう思い、今までとは別アプローチの物理の参考書を読みだした。
最近は毎日2~3時間ほど配信をして、それ以外の時間はほとんどすべてプログラム構築をしている。
別に期限があるわけじゃないが、結果的にのめりこんでしまって、睡眠時間を削っている。
プログラムは面白い。
まだまだ俺が知らないことが多いからかもしれないが無限の可能性を感じる。
プログラムから派生して、ハードウェアなんかにも興味は出てきたが、今はまずプログラムで仕事ができるぐらいにはなろう。
そう思いつつ俺はプログラムを書き出して、再び徹夜をしてしまった。