【中里雪菜視点】活動休止
『太田:ゆきはさんも急にそんなことを言われても困ると思います。ゆきはさんの意見も聞きましょう』
『南:しかし、もう周年まで時間がありませんから決めて頂かないと』
『太田:周年までに時間がないことと、ゆきはさんの意見を聞かないことは同義語ではありません』
『南:わかりました上司と相談します』
アークさんから今後の方向性を聞いた。
正直私はどうすればいいのかわからない。
でもアークさんが言ってた通り、太田さんが戻ってきてくれた。
これからホロサンジがどうなっていくのかわからないけど、私はその様子をちゃんとみつつ、どうするか決めよう。
スッキリはしないけど、やることは視聴者さんに寄り添って配信を継続することだ。
しかしアークさん、本当に斜め上な方法だなぁ。
私じゃ思いつきもしない。
本当に同じ年でこの前まで高校生だった人なのだろうか…。
そんなことを思いつつ、その日は眠った。
それから、私は配信を続けていった。
そしてもう少ししたらゴールデンウィークという、バーチャル配信者にとっての稼ぎ時が見えてくる4月の半ば頃になると、もう南さんは私に個別で連絡してくるようになった。
『ゆきはさん、そろそろ記念ボイスの録音がしたいのでスケジュールを教えてください』
ただ、太田さんはふっきれたかのようにこれまでみたいに私を守ってくれていて、『個別に連絡が来たら、太田さんと相談してくださいって言っていいから!』と言われている。
『太田さんとご相談いただければと思います』
『太田は関係ありません』
私はそのまま返信せずに、今日の配信は何のゲームをやろうかな~と考え出した。
アークさんと太田さんが私の味方だと思うと、不思議と南さんのことは気にならず、私は配信活動を続けられた。
しかし、他の配信者の方々はそうでもないようで、なんとロイドさんとまりんさんが会社との方向性の違いを理由に4月末で配信活動を休止すると発表した。
それからは、もうネットは大騒ぎだ。
『ホロサンジでストライキ』
『ホロサンジ分裂か!』
しかし、ホロサンジでもトップクラスの登録者の2人が休止するとなって、それに続けと他の配信者も何人か休止を発表した。
あることないこと書いてある掲示板はもうすごいことになっており、ホロサンジの会社へ視聴者さんから抗議も来ていると太田さんが言っていた。
私にはアークさんと太田さんと言う強力な味方がいるので、休止はしない。
「こんゆきー! 今日はメインクラフトでOPEXの建物作ろうと思って! よろしくお願いしまーす!」
『ゆきはちゃん大丈夫?』
『無理してない?』
『ゆきはは大丈夫なのか』
とコメント欄も最近は、近頃のホロサンジの騒動を気にしているものも出てきている。
本当優しい視聴者さん達に恵まれてよかった。
とりあえず、それらのコメントには触れずに私はそのままメインクラフトの配信を行った。
そして4月の終わりころに太田さんから電話がかかってきた。
「おつかれさまですー」
「ゆきはさんお疲れ様! 毎日頑張ってるね!」
「アークさんと太田さんが味方だと思うと気にならなくなりました(笑)」
「それならよかった! でもねー、ごめんね、私はここまでになっちゃうの…」
「え…」
「5月からゆきはさんの担当外されちゃってさ…」
「そ、そうなんですね……」
「他のグループ1の担当も全員外されちゃったからいよいよって感じかな…」
「そうですか…よくならないですね……」
「難しいかもねー、視聴者から抗議もきてるけど、どうもホロサンジは現在の方向性とは違う方向を目指すっぽいね」
「そうですか……」
「それで、ゆきはさんの担当外れるならって、退職願だしたから、私は6月からはあっちかな」
「そうなんですね…」
「今小平がエンゲージさんと色々段取りしてくれてはいるみたいなんだんけどねー」
「そうですか………じゃぁ、私も休止します!」
「いいの?」
「はい! 太田さんがいなくなるのには納得できません!」
「そっか…できる限り視聴者さんに迷惑かけない結果にするから…!」
「わかりました! 太田さんを信じてます!」
「ありがとね! こんなこと言っちゃったら会社にあれだけど、これからも個人的に相談のるからさ、南さんからなんか言われて困ったりしたら連絡して!」
「ありがとうございます!」
電話を切った後、私は配信の準備をして『重大なお知らせがあります』というタイトルで急遽配信をおこなった。
「皆さん重大なお知らせがあります……………………。ここまで頑張ってきましたが、やはり私も会社との方向性の違いに納得できず、4月末で配信活動を休止させていただきます」
『ゆきはちゃんもか』
『ホロサンジまじでどうなってるんだよ』
『いい加減にしろよホロサンジ!!!!!』
「皆さん本当にごめんなさい…。でも私は皆さんと過ごしてきた時間を忘れませんし、これからも皆さんと楽しい時間を作っていきたいと思っています。だから、もしよければ待っていてもらえると嬉しいです!」
『待つけども…』
『一体いつまで……』
『ホロサンジ凸ろう』
南さんからのLIMEのメッセージや着信を無視しつつ、こうして日向ゆきはは4月末で配信活動を休止することになった。
高校1年からバーチャル配信を続けてきて、初めての配信活動の休止だった。