幕間・猫キック
俺とクリスは、それからお互いに見た夢の話をメッセンジャーで送り合い、どちらからともなく文章に書き起こしていった。
ある種合作で、物語ができていった。
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青い空には時々ノイズが走り、その下には工場やオフィスビルから無骨なパイプが建物群のあちこちから突き出たアンバランスな街並みが広がっている。
背の高い建物の一つにはアンティークな時計台があり、町の人たちに日々時刻を告げている。
「まてー!」
元気な声と共に、路地裏の壁を蹴りながら、凄まじい追い上げを見せる金色の猫の耳と尻尾をもった太い三つ編みの少女。
追われていたのは大人の背丈より随分大きなゴリラだった。
握った拳と、親指が別れた後ろ足を必死に動かして追っ手を撒こうとしていたが、追っ手の方が圧倒的に速い。
見た目の凶悪さ基準でいけば、立場はあべこべだろうとツッコミたくなるが、金色の猫は瞬く間にゴリラの左足の膝裏にタックルを食らわせ、巨体のバランスを崩した。
つづいて、頭上の細いパイプにつかまって大回転をしたあと、痛烈な蹴りをお見舞いした。
「ぐほっ…」
顎辺りに一撃を受けたゴリラは、そのまま白目をむいた。
「はい、解除」
手首のリストバンドを触ると、ゴリラは猿っぽい大きな耳をした痩せぎすの小男に変わった。
「ミシェル~……。は、早すぎるよぉ」
ゼェゼェ肩で息をしながら、ヨタヨタ追いついてきたのは、どんぐりの皿のような帽子をかぶった巻き髪ショートの、小さな男の子だった。
「はい、また出番なし」
口を尖らせる男の子。
「大丈夫。リトには大事な仕事あるでしょ」
「はいはい、支部と警察に報告、手続きね」
面倒なことは丸投げか! とリトと呼ばれた男の子の顔にかいてあったが、金色の猫耳娘ミシェルはそのまま路地から出ていってしまった。
「あっ、おいしそー♪ おじさん、これくださいな」
「あいよ! お嬢ちゃん可愛いから一個おまけな!」
「わーい、ありがとー!」
路地裏から出てすぐのアイスクリーム屋で、シングル頼んだらダブルを貰い、飛びきりの笑顔になったミシェルを眺め、軽くため息をつきながら、リトは猿顔の小男に仮想施錠をかけて拘束した。
仮想施錠は、非物理的な拘束具で、視覚と触覚を司る脳の各所を刺激することで拘束を可能にするーー
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ここまで文字に起こして、俺は手を止め、クリスと同期してあるサーバーに保存する。
リレー小説のような感じになっていた。
日々明確になっていく夢を交代で記録していきながら、俺もクリスも瑞希は異世界に飛ばされてしまったのだと、ほとんど確信していた。