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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第2章 猫を求めて
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2.シンクロニシティ

 壁や建物間の中空のいたるところに管が伸び、あちらこちらで白い蒸気を吹いている。

 青い空には時折(ときおり)ザザッと不自然なノイズが走る。


 (せま)路地裏(ろじうら)()け抜けるのは小柄な少女。

 金髪緑眼の猫耳美少女が、驚異的(きょういてき)な身体能力を駆使(くし)して巨大な相手と戦っていた。


 大剣を振り回す大柄なネズミ男とのアクロバティックな格闘。

 圧倒的な体格差をものともせず、テクニカルな動きで相手を翻弄(ほんろう)し、見事に昏倒(こんとう)させていた。



 俺は推してるアイドルのことをそんな形で、久しぶりに夢で見た。



 あと二日で約束の一週間。

 不純な動機って、すごいかもしれない。

 課題は既に、ほぼ片付いていた。

 頭の()えが意味不明なくらいだった。


 溪村瑞希・クリスティーナ。瑞希がいなくなった今、瑞希の話が本当だとすると姉の方の溪村ラファエラ・クリスティーナなはず。



 約束の一週間は瞬く間に過ぎ、全部課題を片付けた俺は、昼休み、再び職員室へと向かった。


 「失礼しまーす」


 課題の山は一旦足元に置いて、ガラッと扉を開ける。



 目に飛び込んだのは、松澤秀吉(まつざわひでよし)(あご)に、 御条先生の上段()りが見事に入っていたところだった。


 それを止めようと後ろから羽交(はが)()めにしている知らない先生。

 明るい茶色のミディアムヘアーで、ウルフレイヤーとでも言うんだったか、何だか凄くあか抜けてるが、大人可愛い感じの先生だった。


 見たことない。


「だから、ノック! 名乗れ!」


 松澤先生が伸びているのは放っておいていいとして、

「あ、すいません! 課題持ってきたんすけど」


 (まゆ)がめんどくさそうに八の字になって、御条先生は指でチョイチョイっと「こっちこい」と言っていた。


 また応接室。課題をどっさり応接室用ローテーブルに置いて、ドヤッと先生を見た。


「ま、よかろ」

「中身見ないんすか?」

α(アルファ)クロニクル事務所の社長兼マネージャーの、溪村桐葉(きりは)さんだ」


 御条先生は軽く俺の質問をスルーして、近くに立っていた女性を紹介してくれた。


「宜しくね☆」


 元モデルのお母さん。

 言葉も交わす前から漂ってくるこの雰囲気、瑞希そっくりだ。


「私の中学からの馴染みで、まぁその辺もあって川西瑞希の転入を受け入れたんだ」


 なるほど。大人たちの意外な繋がりが明らかになって、色々と()に落ちる。


「しかし、瑞希は奇妙な失踪(しっそう)。最近になって、もう一人失踪していることがわかった。君のクラスの神﨑陽介君。そっちは別で調べるとして、溪村瑞希・クリスティーナは今、ここ最近奇妙な夢に悩まされているそうだ」


 (うなず)いた溪村桐葉は、その後を続けた。


「実は、瑞希の記憶がないのよ。志織から話を聞かされて、驚いたわ。けれど、クリスから夢の話をされていたから、同じ名前が出てきて、自分の方が変な状態なんだってすぐに確信したの」


「夢って、どんな夢なんすか?」


 俺の(のど)はカラカラになっていて、話を聞いている間ずっと口が空いていたことに気づいていなかった。


「双子の妹、溪村ミシェル・瑞希が、猫耳と尻尾が付いた姿で、近未来な世界で戦っている夢だそうよ」


 俺は耳を疑った。

 まさか同じ内容の夢を、別の場所で別の人が見ているなんて!


「あの! すぐにでもクリスさんと会わせて下さい! 聞きたいことがあります!」


 俺は立ち上がって、瑞希の母に頼んだ。


「えーっと、もうそこにいるんだけど、なかなか出てこないのよ。オフの時は超人見知りだから。

 ほら、クリス。このために来たんだから、ちょっと顔出しなさい」


 存在すら見えていなかった左側奥のパーティションの端に、チラッと金色の髪が見える。

 さっきまで(のぞ)いていたっぽい、髪の揺れだ。


 奥には給湯設備があるようだ。


 スタ、スタ、スタと、早足で桐葉が行って、容赦(ようしゃ)なくぐいぐい引っ張り出そうとしている。


 そういえば瑞希ちゃんが人見知りだとか言っていた。


「大丈夫だよ~。おいでおいで~」

 瑞希と、うちの猫カルマにだったらこのノリでいける。


「猫じゃないんですから!」

 プリプリ怒ったような顔で、反撃がきた。


「うまいな」

 御条先生は感心した様子で俺を見、桐葉さんは爆笑していた。

「ヤバい! 我が娘ながらうける!」


「あっ……」

 顔が真っ赤になり、うつむくクリス。


 やっぱり双子。

 瓜二つだ。

 流れるような金色の髪に、深緑の瞳。

 入れ替わりながら芸能活動しても、バレないわけだ。

 今はその事実が、無かったような状態なわけか。


「あの、夢の中で瑞希ちゃん、ネズミ男と戦ってませんでしたか?」


「た、戦ってました。猫耳と尻尾があって」

 (たた)み掛けるようにお互い食いぎみに言葉を掛け合う。

「びっくりするような身体能力で」


「大きな剣を軽々と叩き落として」

「膝を(じく)にして足払い」

「大きなネズミ男は仰向けに倒れた」


 腕を組んだ御条先生と、桐葉さんが顔を見合わせた。


「同じ夢?」

「シンクロニシティ…だな」


「エルブンシスターズは、一旦休止で、今度はみんな猫耳でいこー」


 桐葉さんが軽いノリで言っている。

 確かにある種の人気は得られるだろうけど、今はそんな場合か?


 パコン! とコントのツッコミのような一撃が、桐葉さんの頭に入った。

「お前がセンターな」

「いやいや、この年でやっちゃうと放送事故でしょ。どうしてもやれっていうなら、しおりんセンター、まきっぺとあたしで両サイド囲むよ」


 パコン! 

「素人巻き込むな」

「いたい~」


 また殴られてる。

 大人たちの関係性もだんだん見えてきた。


 でも十分いけると思ってしまう。

 背徳(はいとく)感を感じてしまった俺は、ブンブン頭を横に振って妄想(もうそう)()き消した。


「それから鹿川、お前は次、これをやってくるように」


 また大量の学習教材。

 それから、進学先の指定をされた。


「色々材料は集まってきたが、私の予想ではまだ何年もかかる。それまでに我々の域に来なさい」


 桐葉さんやクリスちゃんとも連絡先を交換した。


「そういえば、しおりんは御条志織先生のことだよな。まきっぺって誰だ?」


 帰りの電車で、ふと聞き覚えのない名前があったことを思い出した。


 うちの母さんの名前が真樹(まき)だけど、まさかな。

 ふと母親の猫耳を想像してしまい、


「ないないないない!」


 おえ~……。

 全身に鳥肌が立った上に、言葉にならない寒気を覚え、残った体力が全部吸いとられたような感じがした。

 

 家に着いたら、母さんが寝ていた。

 腹の上にはうちの茶トラ猫のカルマが丸くなっている。


 外見についてあまり気にしたこと無かったが、俺と同じ真っ黒な髪のショートボブで、横髪は長い。

 左側の目の下に泣きぼくろが一つ。

 目尻に小じわとかあっても良さそうなのに、考えたら母さんも年齢不詳な見た目だ。


 でも女手一つで俺を育ててる苦労人だよな。


 ヨースケもいなくなって、バカやれる相手もいないし、俺も一丁、馬鹿になってみるか。

 っていうか、あいつどこ行ったんだよ。



 

 アイドル番組を見ると、ダンスや歌は飛び抜けているのに、しゃべると()み噛みで恥ずかしがりやなクリスが、猫耳スタイルで頑張っていた。


 ドラマなどの路線は減り、音楽活動がメインな感じだった。





 瞬く間に2年が過ぎ、俺は指定された超難関、帝東(ていとう)大学第三科に合格した。


 それが瑞希を探し出す唯一の手掛かりだと言われたのだから、それはやるしかないだろう。


 ついでに文武両道になっておきなさいと無茶ぶりされて、加治先生が趣味でやってる、総合格闘技の道場にも通った。


 この2年間、今までの怠惰(たいだ)さが何だったのかというほど、頭と体をフルで活用した。

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