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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第1章 猫の行方
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3.レジスタンス本部

 床に広げた(かばん)の中身には魔法具のような装置(そうち)が沢山あって、その中から、短い枝のような棒を手に取った。

 

 リトは近くの壁にドアノブのようなものを描き、その回りに私たちが通れる程度のドア枠も描いた。

 最後にツンと触れると本物のドアが出来上がった。

 逆にこの世界ではあまり見かけない形状の出入口だ。

 ドアを開けると見知らぬ建物の部屋の前のようだった。

 一応壁に枠線があるけれど、やっぱりわかりづらい。


「ど◯でもドア!?」

「なぁにそれ?」

「いや、何でもない。 魔法みたいだね」

「魔法じゃなくて、全部科学技術だよ」


 そんなこと言われても、どう見てもファンタジーだ。


 リトは(とびら)をノックして、

「入るよ~」


 手をかざすと認証パネルが現れ、壁は半透明になった。

 何度通っても慣れないけれど、仕方なく二人で通り抜けた。



「ノックはしたな。けど名乗ろうぜ~。着替え中だったらどうすんのよ?」


 軽い感じの声が響いた。

 地味な鉄板壁に、両手を広げたくらいの幅の幕板付き事務机。

 ちょっと寒そうな、一見(さび)しい見た目の事務所だった。

 ママの事務所と全然違う。


「あっ」


 私は思わず声を上げた。


「お~。さっきの嬢ちゃんじゃないか。おかえり」


 さっきドーナツ屋の上の階で助けてくれた、あのカウボーイハットに似た帽子をかぶった犬の人だった。

 帽子を取ると焦げ茶色の八割れな毛色で、鼻筋にかけては白っぽいというのがわかった。

 首もとにはスカーフ。白いワイシャツの上に重ね着した茶色い革のベストには細いベルトが三つ。よれよれのボトムスを何本かのベルトで絞めて、カラビナでいくつかのポケットを(つな)いである。

 その上にくたびれた黒いケープコートを身にまとっていた。


「一応本部長のヨースケ・アルヒ・フレームアウトさんだよ」

「ヨースケと呼んでくれ」


 ふざけた名前に聞こえたけど、この世界では変じゃないんだよね。

 言葉についてあまり意識してなかったけど、日本語? 音が同じように聞こえてるなら、ノリで付けた名前のようにも聞こえる。

 

「さっきは有難うございました。助かりました」

「いいってことよ! それより、ここに来るのは初めてだろうから、他のメンバーにも紹介しよう。こっちにおいで」


 ヨースケさんは踵を返すと、軽くかかとを鳴らした。

 すると部屋の様子が様変わりした。

 物の配置は同じだけど、壁紙や机の材質など、全体的な雰囲気が、ママの事務所と同じになった。


「行こう」


 リトが(うなが)してくる。

 もう色々聞くのがしんどくなってきたから、こういうものだと受け入れることにする。


 それぞれが思い描く、自分が落ち着ける空間というコンセプトの、何かかな。と考えることにした。


 何もないように見える空間に、半透明の壁を通り抜けるように吸い込まれるヨースケさん。


 リトのコートの(すそ)をぎゅっと(にぎ)って、私は目を閉じてついていった。


 目を開くとそこは、ざわざわとした(にぎ)やかで広大な事務所だった。

 さっきと同じようにママの事務所と同じような雰囲気だけど、規模が違う。


 獣の顔をしていたり、人の顔に獣の耳や動物の特徴があるパーツがついていたり、色々な人たちが忙しそうに動き回っていた。


「おーい。みんなこっちを見てくれ。ディアフルス支部がぶっ壊されて異動(いどう)になった、リトル・サ・ゴジョーと、ミシェルだ。宜しくなー」


「ほーい。よろしく~♪」

 鹿の獣人の女の人、

「おー、可愛い二人だねぇ」

 腰の曲がった小さなお(ばあ)さん。

 他にも猿、鳥、馬、ハムスターなど、軽く20人以上はいて、半数は完全な動物顔だった。


 半獣と全獣の種族でもあるのかな。

 そんな感想。

 それよりディアフルス支部?

 『dear 古巣』?

 親愛なる古巣? 考えすぎ?

 

「さて、早速今日一匹仕留めたんだってな」


 窓際のデスクの後ろの椅子に、ヨースケさんは腰かけた。


「あれはほとんどミシェルが仕留めた感じだよ。オイラはパワーで押し負けて防戦になってたし」


「免疫の力か」


「多分そうだね。ミシェルには、最初から解除後の姿が見えていたんだと思う」

「『解除!』って、そういえば叫んでたね」


「あの前後で、何か変わった?」

「変わってないよ」

「おぉ。やっぱすげぇな」


 ヨースケさんが嬉しそうに目を輝かせる。


「どうして私にはその…免疫っていうのがあるの?」


「永き封印より目覚めし者は、真実を見抜き、世界を平定へと導くであろう」

 と、ヨースケさん。


「福音書の一節だね」

 リトが補足(ほそく)した。


「ある種の予言さ。封印ってので、昔話に出てくるような、失われた技術のコールドスリープで眠っている人間でもいるはずだと、俺たちは探し求めていたんだ」


「ちょうど相手は(うそ)と本当の(さかい)を無くしてしまおうと画策(かくさく)している組織ときた」


「それらしい遺跡は探し尽くしたと思われていたんだけど、天才科学者ユーキ・ディアフルスが、何重にもセキュリティをかけられた異空間に、君が封印されていたのを見つけたんだ」


 ユーキ…これは偶然?

 音がたまたま日本語の優樹に似てるだけ?


「リトからの報告によると、2年間の記憶がないんだな? その代わり、レジスタンスが目覚めた。あー、あれだ。さっきから言ってる、VR支配に対する免疫のことだ」


 なるほど。何だかめんどくさくなってきて、とりあえずウンウンうなずいておいた。


◇ ◇ ◇


 割り当てられたオフィスビルの一室の窓辺で、ひらひらと花びらが舞っているのを、私はウズウズしながら(なが)めていた。


 思わず飛び付きたくなって、反対の手で自らを制した。

 ふとリトこと、リトル・サ・ゴジョーに尋ねてみた。

 ちょうど寝起きで、朝ごはんを食べていたところだった。

 ローテーブルとソファが設置された応接セットで、厚切りのトーストに、分厚いベーコンをのせてかぶり付いている。


「猫耳だけど、あたしは猫じゃないよね?」

「え? 半分猫だよ」

 手についた脂をなめながら、リトはさらりと答えた。


「え?」

「え?」


 何言ってんの? みたいな顔だけど、逆に何言ってんの?

 多分私の目は、今大きく見開いていたことだろう。


「半分猫なの?」

「うん」

「いつから?」

「生まれた時から」


 まだ知らない、この世界の当たり前が隠れていた。


「戻った記憶だと、人間に猫や犬の耳は付いてないんだよね」

「そうなんだ」

「うん」

「でも不便じゃない?」

「何が?」

「あ、待って、それって封印前の記憶?」


 今度はリトがソファから立ち上がって食い付いてきた。

 勢い余ってローテーブルに置いていた紅茶がこぼれてしまう。


「あっ、もったいない」

 言いながら、リトは近くに置いていた布巾でさっさと拭いてしまった。

 やらかしても片付けるまでが早い。


「封印ってのは記憶にないんだけど、車にはねられるまでのことなら、話せるよ」


 そう前置いて、これまでの経緯を簡単に話して聞かせた。

 優樹さんのことも、アイドル活動のことも、双子の姉がいて…ということもこの際話してみた。


「そんなことがあったんだね……」

 呟いたかと思うと、リトはボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「そ、そんな、泣かなくても」

 私が泣かしたみたいで、罪悪感で(あせ)ってしまう。


「だっでざー。ミシェルはお姉ちゃんやお母さんにも会えなくなって、急にミシェルいなくなって、優樹さんもいっばい泣いただろうし、おうち帰りたいよね~…あぅぁぁあ~~……」

 泣き声になって、鼻水も()らし始め、もう何を言ってるかわからない。


 私は泣いているリトを見て、頭をよしよし()でていた。

 弟がいたら、こんな感じだったんだろうか。


 コンコン。


 ノックが聞こえた。

「はーい。どうぞー」


 壁の一部が半透明になって、ヨースケさんが現れる。

 もう一人、カラス天狗(てんぐ)彷彿(ほうふつ)とさせる黒い羽根をオールバックっぽく生やした、翼を持った人が一緒だった。


 (くちばし)もしっかりある。

 鳥人もいたんだ…。

 何かリトとの話で引っ掛かってたことがあったような……。



「じゃまするよ……て、おいおい! 窓まどー!」


 言われるまま窓の方を振り向くと、巨大な鳥が私たち目掛けて突っ込んでくるところだった。


 派手な音をたてながらオフィス内に転がり込む巨鳥。


「敵の能力未知数! よって全員距離をとれ! サーチスコープで解析(かいせき)! 俺は戦力外だから、一旦引き、装備を整えてからサポートに入る!」


 早口で言って、ヨースケさんは部屋から退避する。

 リトはモノクルに手を触れ、後ろに下がろうとしたが足を(ひね)っていたらしく、そのまま転がる形でソファ脇へ引っ込んだ。


 割れたガラスの破片を避けながら、私は何とか同じソファ付近に転がり込むことができた。


 巨鳥が体を起こし、鋭い眼光を向けてくる。明らかに獲物(えもの)を見()える猛禽類(もうきんるい)の目だ。


 ヨースケが連れてきた鳥人は、私たちを庇うように前に立つ。

 鳥人が自分の手首のリング状端末に手を触れると、仮想施錠の大型版が浮かび上がる。

 無言でこちらに振り向いたが早いか、巨鳥じゃなく私に向かって放ってきた。


「しまっ…がはっ」


 胸部に拘束具が食い込む。

 

「まさか! ミシェルに仮想施錠は効果がないはず!」

 リトが叫んだ。


 鳥人の裏切りよりも、そっちがインパクト強めだったみたいだ。


「これ…多分本物…」

 息が詰まって、私は小さな声を絞り出すのが精一杯だった。


「くえぇーー!」

 巨鳥が()く。


 壁が半透明になり、転がり込むように入ってきたヨースケさんが、銃のような機械をぶっぱなす。

 先端には厚いレンズが装着され、一点に光が収束し、一気にまばゆい光線が発射された。

 ヨースケさんはゴツいゴーグルを装着し、背中には何かの装置と思われるタンク状の機械を背負い、そこから配線が伸びた銃火器は、正確には銃というより大砲だった。


「ぎぇーー!!」

 片翼にかすめ、悲鳴をあげた巨鳥は、無造作に私を(くわ)え込むと、大きく羽ばたいた。


「ミシェルー!」

 リトが叫び、ヨースケさんが舌打ちしながらもう一発装填し、放つのと同時に鳥人が周囲のガラス片を盾状に変換した。

 ヨースケさんの銃から放たれたレーザー砲? を受け、ガラス片は一瞬赤く輝いて、半球状の盾となる。


 逆に熱を利用され、より丈夫な盾を与えてしまった。


 さらに羽ばたく巨鳥。

 鳴り響く暴風音に、破片たちが壁やデスクにぶつかる音がうるさい。

 鳥人が巨鳥の足につかまる。


 ヨースケさんの帽子が飛ばされる。


 巨鳥は破壊された窓の外へと舞い上がった。

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