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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第11章 宙空都市アルス・マグナ
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6.幕間 カルマとポロリ

 茶トラのふわふわした猫がアルス・マグナの草原を歩き回っていた。


 緑色で細長くまっすぐ上に尖った葉っぱがたくさん大地を埋め尽くしている。ところどころ岩が地面から出ていて、日向は温かく日陰は冷たい。

 目の前の岩に跳び乗って、ちょうど平たくなっているところがあったので、茶トラの猫はしばらくごろごろ転がって、気が済んだところで毛づくろいを始めた。

 この茶トラ猫、ユーキの飼い猫で、名前をカルマといった。

 毛づくろいが済むと、また岩から降り、何をするでもなく歩き始める。

 少し歩いた先に(しずく)型の葉っぱが3~4枚くっついた草が生えていて、小さな薄紫っぽい花びらが玉状になった花が咲いていた。

 軽く前足で触れてみると揺れる。そして戻る。何回か叩く。やっぱり戻る。

カルマが転がり、転がりながら下からパシパシ。

 そのうちどんなに叩いても戻ってくるだけの花に飽きて、合間に生えている尖った細長い葉っぱをむしゃむしゃ食べた。


 時々赤い実や青い実があったらそれも食べてみる。小さな生き物が這っていればそれも食べてみた。

 固いやつもいれば、柔らかいのもいた。

 妙な乗り物から飛び出して、この草木が多い大地に降り立ってからは、食べるものに困る事はなかった。



 金色のいい匂いの女の子のバッグに入って寝ていたら、何やらふわっと浮かび上がるような感覚。

 一度顔を出してみたが、降りたら死ねる高さだったから中に引っ込んだ。

 ブラブラと落ちつかなかったが、しばらく中で寝ていると固いところに落ちるような感覚があった。


 それからは落ちつかない冷たくて固い床ばかりで、ふかふかの土がある場所に出るまで、ドタバタとうるさい場所だった。

 規則正しい足音と共に、妙な輩がカルマに手を伸ばしてきた。


「お前、どこから来たでありますか?」


 顔はどう見ても鳥。

 空を飛んでいたあの小さいやつらだ。

 (くちばし)はちょっと曲がっていて、カラフルなやつ。

 前にこんな顔のやつが、家にいたことがあった。

 成長すると大きくなるものなのだなと、カルマは感心して匂いを嗅いだ。

 ユーキや母さんたちと同じくらいの大きさだった。


「にゃーん」


 カルマはとりあえず鳴いて返しておいた。


「初めて見る生き物でありますね」

「でもどこかで見たことあるような…、あ! グルスデン中尉の顔とそっくりであります!」


 グルスデン中尉は、三馬鹿の1人、虎顔のクラインの叔父で、現在国境付近の出入国管理官をやっている。


「グルスデン中尉は、ドライフルーツが好きでありますので、この生き物も食べるかもしれないでありますね」


 がさごそと腰のあたりのポシェットを探る鳥頭。

 ポシェットから黄色い何かの欠片が出てきた。

 鳥頭はそれをつまんでカルマの鼻先に持ってきた。

 匂いを嗅ぐカルマ。


「おっ、食べたでありますね。自分はポロリであります。お前は何というのでありますか?」


 普通に喋って返すと思っているのか、尋ねてくる。


「無口なやつでありますね」


 返事がないので首をかしげるポロリ。

 返事の代わりに、カルマはポロリの手に顔を擦り付けた。

 ポロリの手は、翼の先端に付いている。普段は折りたたまれた風切り羽を広げると、更にその倍くらいの大きさの翼となる。

 空を飛ぶことも可能な種族だった。


「そういえば昨日、国の名前がミズホ国からカルマ帝国となったでありますよ歴史の変革期に立ち会えるなんて、ラッキーであります」


「にゃーん」


 耳をピンと立て、カルマという単語に反応するカルマ。


「ん? どうしたでありますか? 名前が気になったのでありますか?」


 姿勢の良いお座り状態でじっとポロリを見るカルマ。


「ミズホ?」

 返事がない。

「カルマ?」

「にゃーん」


「カルマという響きが好きなのでありますね」


 若干かみ合わない。


 デルムロント城の回廊の一角、城内の巡回中だったポロリは、急に職務を思い出した。


「あっ、しまった! 仕事中だったのであります!」


 ポロリは慌ててカルマに手を振り、廊下を走り去って行った。


 ポロリが当番になっている次の仕事は装置の拭き上げだった。

 一見格納庫に見えない、屋根付きの塀に囲まれた場所だった。

 屋根が付いている側の半分は石畳のようなタイル、屋根のないもう半分は中庭のような土と芝生のような短い草が生えていた。

 国王しか使用法を知らないという不思議な卵型の装置で、大人が2人くらい入れるほどの広さ。中にはふかふかした座席があった。


 カルマはしれっとポロリについてきていた。

 卵型の装置の拭き上げ作業をするポロリを横目に、芝生エリアに植えられた木の根元で丸くなっていた。


  適当に散策して、また同じ木の下あたりでくつろいでいたりすると、時々ポロリがドライフルーツを運んできた。


「お前の名前は『にゃーん』なのでありますね」


 違うから沈黙していたカルマだったが、通用しないようだ。


「にゃーん、自分の分を分けてあげるでありますよ」


 何かの種を沢山持ってきてくれたが、カルマが好むものがなく口をつけないでいると、別のものも出してくれた。


「やっぱりドライフルーツがいいでありますか」


 今度は緑色の欠片を鼻先に出された。

 試しにかじってみると、やたらはにくっつく。

 歯にくっついたのを前(あし)で取ろうとしていると、ポロリは笑い始めた。


「ふふふ! お前可愛いでありますね」


 どちらかというと時々地面を這っている小さい生き物の方が食べごたえがあったが、わざわざ持ってきてくれるので、お付き合い程度には食べてあげようという、カルマなりの気遣いだった。


 明るくなると木の根元の草むらで寝て過ごし、暗くなると城のあちこちを散策した。


 ポロリ以外も鳥頭の奴らが多くいたが、今のところカルマの存在に気付いていて放置しているのか気付いていないのか、とぼけた顔の者が多いから分かりづらい。

 夜は地面や壁をチョロチョロしてるやつらの大きい版が、ギョロギョロした目て巡回している。


 鳥頭だけじゃなく、トカゲ顔のやつもいることがわかった。

 伸びをしようと壁に前肢をかけるとそのまま壁を通り抜けてしまい、小さな部屋に入り込んでしまった。

 そこには赤い髪の男がいて、椅子に座っている。耳に何やら当てて何かの音を聴いているような様子だったが、すぐにこちらに気づいたようだ。

 布で両目とも覆われていて、目がギョロギョロしてるかわからなかったが、ユーキたちと違うのは長い尻尾だけ。

 ギョロ目の奴らと同じ感じの尻尾だ。

 鮮やかな赤い髪の男だった。

 立ちあがり、静かに真っ直ぐ歩いてくる。


 カルマは動かずじっとしていた。


「リグーリア?」


 男は尋ねてきた。

 カルマはまだしばらく見ていた。


「違うね。もっと小さい。子ども? 迷子かい?」


 赤髪の男は近くの棚に手を伸ばし、手探りで幅広のヘアバンドのような変わった形のサングラスのようなメガネを取り、装置した。


「不思議な生き物だな。あ、ユーキが言っていた猫? カルマだっけ?」


 メガネを付けると姿が見えているような口ぶりになった。


「にゃーん」


 正しく名前を呼ばれて、頭を擦り付けるカルマ。

 ゴロゴロと喉を鳴らしている。


「俺と違ってふわふわしてる」


 しばらくカルマは撫でられ続けていたが、不意に近くの塀に跳び乗り、小さなすき間からその向こう側へと降りた。


「ホントに気ままなんだね。またね」


 立ち去ったカルマに向けて赤い髪の男が声をかけた。



 卵型の装置の近くに戻ってきたカルマは、また木の下の寝床に転がろうとしていた。

 すると、卵型の装置の入口が開いていた。

 カルマは転がるのをやめて、卵型の装置の中を覗き見る。

 ふかふかの座席があって、奥の方にも何か布のようなものがいくつかあった。

 座席に座ろうとして、滑ってしまったカルマは、座席下の布状のものの上に転がってしまった。


 懐かしい匂いがした。

 いつも一緒に寝ていたユーキの匂い。

 それは国王ユーキのコートだった。

 コートの下にもぐり込んだカルマは、ものの数秒で眠りこんでしまった。


「ちょうどいいところにいた。確か、お前はポロリだったな。ちょっと頼まれてくれないか?」

「か、かっ閣下……じゃなかった陛下! なんでありますでしょうか? 自分は決してサボっているわけではなく……」

「声が大きい。少し小さい声で頼む」

「はっ、小さい声にしましたであります」

「ちょっと俺は今から所用があって、この装置で移動するんだが、移動先で俺が留守の間、この装置の番をしていてほしい」

「お安い御用であります!」

「ありがとう」

「もったいない言葉! 光栄しゅごくでふて※△…」


 噛み噛みなポロリ。

 国王ユーキは全く気にする様子もなく、装置に乗りこみ、奥にポロリが乗り込んだ。

 装置の周りを、まるで画像処理の際のエフェクト効果を施しているかのような、不思議な現象が包み込んだ。

 効果としてはブラックアウトだ。

 一瞬だった。


「では、留守の間を頼んだ。もしもお前の身に危険が及んだ場合は、この装置は破棄してよろしい。このファーオールを使って帰還しなさい」

「イェッサー!」


 ファーオールというのは、卵型装置の座席奥に格納されていた、ファーとよく似た形の乗り物だった。

 それだけ言い残すと、国王ユーキは不思議な光の輪に頭から包まれて消えてしまった。


 空間転移方法もいくつかあるようだ。


「さて、にゃーんにドライフルーツを持ってきたのでありますが、カルマ帝国国王直々の命は絶対であります。上官にはサテブで送信しておくであります」


 サテブというのは、支給されている通信機器で、スマートフォンと形状はよく似ていた。

 薄い画面に触れると、ホログラムのようなパネルや立体が浮き上がる。


「国王呼び出しを受けたであります……と。よし、これでサボりと思われないですむのであります」


 卵型の装置から降りると、そこは広い平原だった。

 ちょうどうまい具合に、岩と木と茂みの間に転移したようで、一見するとそこに装置があることがわからない。


 日はずいぶん暮れかけていたが、ぽかぽかと温かい。

 始めこそシャキッと座席に座って番人的な様子だったが、迫りくる睡魔に勝てず、あえなく撃沈。一応手に持っている槍に寄りかかって寝こけてしまった。


「この…お腹いっぱいな……負けないであります……ぐぅ」


 羽を膨らませながら寝言を言っているポロリを尻目に、座席下に落ちていたユーキの上着の下からゴソゴソ出て来たカルマは、卵型装置から外に出てみた。

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