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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第1章 猫の行方
5/60

2.眼鏡のひみつ

 私は飛び降りていったリトを目で追った。

 近くの建物の(かべ)()りながら降りていき、もう着地寸前だった。

 ここから同じように飛び降りて追いかける…?


 無理ムリ無理ムリ!


 私は走って出口へ向かった。


 入ってきたところは…壁だった。

 確かリトは認証パネルのようなものに、手をかざして…パネル…パネル…。

 壁を触って変わったところを探すけれど、わからない。


(じょう)ちゃん。もしかして、下に降りたいのかい?」


 カウボーイハットっぽい帽子をかぶった、犬顔の(いや、むしろ犬が帽子かぶってる!)おじさん? が話しかけてきた。


「は、はい。頭ぶつけて度忘れで…」


「そりゃ仕方ねぇな」


 そう言って、犬のおじさん? は自分の手首を壁にスライドした。

 認証パネルが浮かび上がる。


「ほれ。今音声認識にしたから、入ったら自分で行き先を言いな」


 いい人! 適当な(うそ)を信じてくれた!


「有難う!」


「いいってことよ」


 おじさん? はウィンクしながら見送ってくれた。


 私はエレベーター? に入り、

「1階の外への出口!」と叫んだ。

「1階の外への出口ですね。了解しました」


 調教しつくされたボーカロイドのような、流暢(りゅうちょう)な音声。

 リアルタイムでナビゲーターがサポートしているかのような錯覚(さっかく)を覚えた。


 一瞬、ヴン…の音に近いような電子音が響き、背後の壁がガラス状の色に変わる。

 頭をぶつけてもいいように、覚悟を決めつつ、飛び込む。


 外だった。

 勢い余って転がってしまう。

 そういえば雨がやんでいた。


 方向感覚が狂っている。

 上から見えたものと、同じものを探した。


 あった!


 意識はしてなかったけど、赤い色の煙突が向いている方向に、リトが向かうのを見たような気がする。


「リト~!」


 叫びながら路地を走った。

 想像よりも体が軽くて、何かが体から抜けてしまいそうな変な感覚。

 思わず壁に激突しそうになって、手をつくと、条件反射で体が動いた。


 (ひじ)がバネのように働き、L字になった曲がり角のもう一辺の壁を()って方向転換した。


 人が倒れていて、それを(かば)うように抱えるリト。

 向こう側には鉄パイプを持った、ねずみっぽい風貌(ふうぼう)の小柄な男? が、まさに鉄パイプを

振り下ろそうとしていた。


「リト!」


 地を蹴り、ゆうに大柄の大人3人分の背丈くらい離れた場所から一気に距離を詰め、下ろしきる前に相手の肘の内側に手を添え一気に全体重をかけて引き下ろす。

 反動で鉄パイプの重心は後ろへ返り、さらに地に着いた膝を軸にして、膝の後ろから足を払った。

 派手に後ろに倒れたネズミ男(とりあえずそう呼ぼう)。

 

「ぐぁはっ!」

「解除!」


 ネズミ男がうめき声をあげて倒れるのと、リトが叫んだのが重なった。

 砂ぼこりが舞い上がり、小さなネズミ男(多分男)は目を回して倒れていた。


「いったい何だったの?」


「あれはある種のバーチャルリアリティだよ。視覚(しかく)触覚(しょっかく)嗅覚(きゅうかく)聴覚(ちょうかく)まで支配して、現実のものとしているんだ。

 どういう理屈か、脳に直接情報を送り込んでるらしくて、この装置がないと、区別がつかない。視覚障害の人用に開発された技術の応用だね」


 リトはモノクルに触れながら解説してくれた。


「何の話?」

 私には見当外れな内容に聞こえる。


「あ、そうだった。免疫(めんえき)あるんだった。じゃあ、これ見て」


 モノクルを渡され、私は眼鏡を外して着けてみる。


 片方だけ少しクリアな感じの変な状態だ。


「はい、再生」

 リトは言いながら、モノクルに軽く触れた。

 映像が再生される。

 さっきのこの場の映像だ。


「ネズミ男でっかい! 鉄パイプじゃなくてでっかい剣だ!」


「そう。オイラたちはそんなのと戦ってたんだ。でも、今までミシェルも認識して戦ってたんだけどなぁ」


 リトは近くの太い配管の上に無造作に置いた、私の眼鏡を見た。


「もしかして」

「ん?」


 眼鏡を拾い上げ、


「これ、かけて」

 どうやら私の眼鏡はただの伊達じゃなくて、私用の補助機能があったらしい。

 電源オフになっていたので、オンにしてみる。

 

 周囲の景色が変わった。

 薄暗かった空は晴れ渡り、周囲の建物の無骨な壁には、動くCM広告が映し出される。

 他にも今まで無かったもの、鳥や蝶など、いなかったはずの生き物まで見え始めた。


 死んでいるようにも見えた町並みが、生き生きとした生命力に(あふ)れて見える。


 これがVR……?

「オイラたちには、これが裸眼で見えてるんだ」

 区別付かなくなるなるわけだ。

 私が選ばれし勇者的な感じにされた理由が見えてきた。


「うぅ」


 リトが膝に抱えていた人がうめき声を上げた。


「この子が襲われてたんだ」


 遠目で特徴がわからなかったけれど、羊のような巻き角を持った女の子だった。

 この世界は、獣人が暮らす世界なのだろう。何だかワクワクしてきている自分がいた。


「自分で帰れる?」

「うん。お兄さん有難う」

 リトは巻き角の女の子の頭を()で、にこやかに手を振って見送った。


「それで、あのいつもの身のこなし、色々思い出したんだね?」


「え? 何が?」


「なんだ、違うのか」


「あ~、咄嗟(とっさ)に体があり得ない動きをしたんだよ」


 2年間、リトと記憶喪失な私は一体何をしてたんだろう?


「急に置いて行かないでくれる? あの店から出るのも大変だったんだから…。

 あと、いつもこんな危ないことしてるの?」


「あ~ごめん。君なら一緒に飛び出して来るって、思い込んでた。

 まぁ、これがオイラたちの仕事だしね。散布する前になんとかなった。

 今回は未遂だね。あの子はたまたま居合わせたみたいで、口封じされかけてたから保護したんだ」


「どういうこと?」


「ナノマシン散布だよ。例の組織がやろうとしてる支配の第一歩で、小悪党が小遣い稼ぎでやってたりするんだ」


「へぇ。それって、いたちごっこじゃない? 防げてるの?」


「実際問題無理ゲーだね。ナノマシンが脳に到着したら、気づかないうちに支配をうけてしまうらしいよ。

 このモノクルはナノマシンが発する特殊な振動波を割り出してくれるけど、正直追い付かない」


 闇の組織に対抗して、掃討(そうとう)部隊が組織されてるけど人員不足だし、政府に代わる団体がきちんと出来ないと、治安は悪くなる一方…といったことを、リトは続けたけれど、だんだん面倒な話になってきたので、何となく聞き流した。



 頭の中で整理すると、新生国家として支配を進めている組織があるけれど、ナノマシンで精神支配という強引な方法でやろうとしているから、悪の組織としてリトや私で抵抗している。


「あたしたちはレジスタンス(抵抗勢力)のような感じってこと?」


「大体合ってるかな」

「本部とかあるの?」

「あるよ。元々これからいく予定だったから、早速行こうか」


 というわけで、本部に行くことになった。

 本当は、こんなの全部知ってるはずなのに、2年間の記憶は何処へ行ったのか。


 今はあれこれ考えても仕方無さそうだ。

 成り行きに任せよう。


「いったい何だったの?」


「あれはある種のバーチャルリアリティだよ。視覚(しかく)触覚(しょっかく)嗅覚(きゅうかく)聴覚(ちょうかく)まで支配して、現実のものとしているんだ。

 どういう理屈か、脳に直接情報を送り込んでるらしくて、この装置がないと、区別がつかない。視覚障害の人用に開発された技術の応用だね」


 リトはモノクルに触れながら解説してくれた。


「何の話?」

 私には見当外れな内容に聞こえる。


「あ、そうだった。免疫(めんえき)あるんだった。じゃあ、これ見て」


 モノクルを渡され、私は眼鏡を外して着けてみる。


 片方だけ少しクリアな感じの変な状態だ。


「はい、再生」

 リトは言いながら、モノクルに軽く触れた。

 映像が再生される。

 さっきのこの場の映像だ。


「ネズミ男でっかい! 鉄パイプじゃなくてでっかい剣だ!」


「そう。オイラたちはそんなのと戦ってたんだ。でも、今までミシェルも認識して戦ってたんだけどなぁ」


 リトは近くの太い配管の上に無造作に置いた、私の眼鏡を見た。


「もしかして」

「ん?」


 眼鏡を拾い上げ、


「これ、かけて」

 どうやら私の眼鏡はただの伊達じゃなくて、私用の補助機能があったらしい。

 電源オフになっていたので、オンにしてみる。

 

 周囲の景色が変わった。

 薄暗かった空は晴れ渡り、周囲の建物の無骨な壁には、動くCM広告が映し出される。

 他にも今まで無かったもの、鳥や蝶など、いなかったはずの生き物まで見え始めた。


 死んでいるようにも見えた町並みが、生き生きとした生命力に(あふ)れて見える。


 これがVR……?

「オイラたちには、これが裸眼で見えてるんだ」

 区別付かなくなるなるわけだ。

 私が選ばれし勇者的な感じにされた理由が見えてきた。


「うぅ」


 リトが膝に抱えていた人がうめき声を上げた。


「この子が襲われてたんだ」


 遠目で特徴がわからなかったけれど、羊のような巻き角を持った女の子だった。

 この世界は、獣人が暮らす世界なのだろう。何だかワクワクしてきている自分がいた。


「自分で帰れる?」

「うん。お兄さん有難う」

 リトは巻き角の女の子の頭を()で、にこやかに手を振って見送った。


「それで、あのいつもの身のこなし、色々思い出したんだね?」


「え? 何が?」


「なんだ、違うのか」


「あ~、咄嗟(とっさ)に体があり得ない動きをしたんだよ」


 2年間、リトと記憶喪失な私は一体何をしてたんだろう?


「急に置いて行かないでくれる? あの店から出るのも大変だったんだから…。

 あと、いつもこんな危ないことしてるの?」


「あ~ごめん。君なら一緒に飛び出して来るって、思い込んでた。

 まぁ、これがオイラたちの仕事だしね。散布する前になんとかなった。

 今回は未遂だね。あの子はたまたま居合わせたみたいで、口封じされかけてたから保護したんだ」


「どういうこと?」


「ナノマシン散布だよ。例の組織がやろうとしてる支配の第一歩で、小悪党が小遣い稼ぎでやってたりするんだ」


「へぇ。それって、いたちごっこじゃない? 防げてるの?」


「実際問題無理ゲーだね。ナノマシンが脳に到着したら、気づかないうちに支配をうけてしまうらしいよ。

 このモノクルはナノマシンが発する特殊な振動波を割り出してくれるけど、正直追い付かない」


 闇の組織に対抗して、掃討(そうとう)部隊が組織されてるけど人員不足だし、政府に代わる団体がきちんと出来ないと、治安は悪くなる一方…といったことを、リトは続けたけれど、だんだん面倒な話になってきたので、何となく聞き流した。



 頭の中で整理すると、新生国家として支配を進めている組織があるけれど、ナノマシンで精神支配という強引な方法でやろうとしているから、悪の組織としてリトや私で抵抗している。


「あたしたちはレジスタンス(抵抗勢力)のような感じってこと?」


「大体合ってるかな」

「本部とかあるの?」

「あるよ。元々これからいく予定だったから、早速行こうか」


 というわけで、本部に行くことになった。

 本当は、こんなの全部知ってるはずなのに、2年間の記憶は何処へ行ったのか。


 今はあれこれ考えても仕方無さそうだ。

 成り行きに任せよう。


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