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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第7章 博士の行方
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1.ロクハラ

 瑞希を連れ出し、リトと出会ってからのこの小半(こはん)年間、瑞希……いや、転生してるからミシェルと呼ぼう。

ーーの状態を記録してきたが、まだ生前の記憶は戻りそうにない。

 あの妙な空間に残してきた、クリスや桐葉(きりは)さん、竜胆(りんどう)先生と、カルマが心配だった。

 ミシェルの当面のことは、リトに任せておけば大丈夫だろう。

 書き置きを残してこのラボを出て、何とかあの空間に行けないものか探ることにした。



 俺はまず、この国の中心部があったというというロクハラという廃墟(はいきょ)に来てみた。

 今までいた町も大概(たいがい)スチームパンクな町だったが、このロクハラは西部劇の映画に出てきそうなゴーストタウンのような雰囲気がある町だった。


 ほとんど廃墟だから仕方ないか。


 約5年ほど前に新政府の拠点(きょてん)となったらしいが、謎の消失事故が起きたらしく、アバドンと呼ばれる巨大クレーターを中心に抱き、徐々(じょじょ)にそれを囲むようにお土産屋や宿場町が形成されつつあった。



 俺は巨大クレーター、アバドンの外輪(がいりん)山の(ふもと)にある、『こぎつね』という店に来ていた。

 石造りの土台に丸太の壁面、木造の三角屋根から突き出た薄い石レンガとモルタルの煙突からは、絶え間なく細い煙が上がっていた。


 両開きのスイングドアを開けると、中は意外に広く、幾人(いくにん)もの浮浪者(ふろうしゃ)のような風貌(ふうぼう)の者たちが暖炉(だんろ)の周辺で(だん)をとっていた。


 薄気味悪くて近付かない者が多いという中で、ここに来るのは余程の物好きか、(すね)に傷を持つもの、世捨て人くらいだという話だ。


 いくつも席が空いていたから、どこに座ろうか考えていると、


【『量子論における存在の証明』著者:ユーキ・ディアフルス】


 自由に手にとって読んで良いようなことを書かれたスチール製のマガジンラックに、無造作に置かれた一冊の書籍が目にとまった。


 俺がこの世界で名乗ってる名前じゃね?


 書いた覚えのない本だ。

 ここに来る前、人助けをしたことがあって、名前を聞かれたことがあった。

 何故か「あの有名な」とサインを書いてくれと言われ、正直困惑していたところだった。


 これのことか?


 この世界において、動物的身体特徴が無い者は、劣等種とされていることをリトから聞かされていたから、いつも深く帽子を被り、特殊レンズ入りゴーグルをつけることにしている。


 フライトゴーグルをつけていたり、拡大鏡のようなモノクルや眼鏡のをかけたり、仮面を身に付けていても、案外普通な世の中みたいだから、あまり気にならなかった。


 誰かが俺のふりをして本書いたりしてるのか?

 研究テーマが量子論って、超畑なんだが……。


 めくってみると、自分が考えそうな、考えたことあるような内容だった。


 ただ、理解が及ばない内容が多く、混乱が生じていた。


 待て待て。俺の将来の著書なのか?


「おーい、にぃちゃんこっち来なぃ。注文はしねぇのかぃ?」


 耳慣れないイントネーションの、(くせ)の強い話し方だった。


「酒は15になってからだが、大丈夫だよなぃ?」


 かなり年配の人のようだ。他の浮浪者のような感じの人と変わらない、襤褸(ぼろ)を身に(まと)っている。

 ちょいちょいと、自分の横のカウンター席を指定してくるから、仕方なくそこへ行ってみた。


「バーボンでいぃけぇ?」

「流石に昼間からはキツいっすね。ビールで」

「おぅよぉ」


 よいしょという感じでカウンターの内側に行くと、ビールを注いでくれた。


 店の人だったんかい!


 あまりに貧相(ひんそう)な見た目でわからなかった。


 俺は帽子もゴーグルも外さなかった。

 生まれ育った世界では酒は20歳からだったから、転移した時は18歳で、そこから約半年ちょっとで19歳くらいで……。

 まだ20歳なってない。

 でもこの世界では15歳からなら問題ないか。

 実年齢の計算をしていると、ちょっと悪いことをしているような気分だった。


 カウンターに出されたバターラムを口にすると、じんわり甘味とともに体が温まっていった。


「おめぇさんよぅ。ここぃらでは見ねぇ感じだが、旅のもんかぃ?」


 若干高い(つぶ)れた声で、聞いているうちに何だかコミカルに聞こえてきた。


「ああ、この辺りに出来たクレーターについて調べてる」


「アバドゥンけぇ? よく学者さんやら調べに来るがぁ」


 襤褸布(ぼろぬの)をフードのように被っていて顔もわかりにくい。


「その、アバドンの内側に行くことはできるのか?」


「おめぇよぅ。(うわさ)知らねぇのかぃ?」

「噂? どんな噂があるんだ?」

「アバドンに向かったもんには、災いが降りかかるってぇ言われてんだ」


「オカルトじみた話は信じないことにしてるんだ。一応科学かじってる身の上だからな」


「まぁ、いいかぁ。ここの店の裏手に、宝を求めて集まった連中が()ったトンネルの入り口がある」


「そうか。中心部まで続いてるのか?」


「さぁなぁ。行った者は帰ってきたことねぇから、気味悪くてよぉ。こっちから板張って閉めちまってるよ」


 いや、それじゃ逆に帰れないだろ。


「情報ありがとう」


 俺は席を立つと、早速荷物を背負って裏手に向かうことにした。


「いや、こっちこそありがとよぉ……って、お代多くねぇか?」

「ああ、情報料も込みだ。取っておいてくれ」


「そうけぇ」


 カウンターに背を向けた俺を、襤褸布の連中がみんな(そろ)って立ち上がってこっちを見ている。


 俺は素早く1歩分右側に、()んだ。


ガシャーン!


 俺がいたあたりのカウンターで、(びん)が割れる音がした。

 見るとマスター? が割れた瓶の細い先端を(にぎ)っていた。


「おら、一気にいけぇ」


 襤褸たちが一斉に(おそ)いかかってきた。

 よく見ると手に手に手斧やらパイプやら角材やら色々持っている。


 襤褸布の下に(かく)していたらしい。


「ここは健全な酒場じゃないのか?」


 ちょうど近くに転がっていたカウンターチェアを手に取り、手斧を受け止めた。


 チェアが思ったより重い。

 使えないと思った俺は、背にしていたカウンターに跳んで座り、そのまま内側に(すべ)り降りた。


 店の内装は壊したくないらしく、一旦(いったん)襲撃(しゅうげき)が収まる。


「くっそ! 出てこい!」


 休息も束の間、横からマスター? がナイフを振り下ろしてきた。


「ちょうど良かった」


 相手の手首を(ひね)り、(ひじ)を可動域の逆側に押して、ナイフを落とす。

 同時にそのナイフを空中でキャッチ。

 ついでに右足を浮かすと宙で縦に円を描き、足の甲めがけて(かかと)を垂直に落としてやった。


「ぎゃっ!」


 悲鳴が上がり、マスター? はその場に転がって悶絶(もんぜつ)し始めた。


「おら出てこいや!」


 急にチンピラだらけになる店内。


 帰ってこないのはこいつらのせいなんじゃ?


 治安が悪くなっているのは予想してたが、客を(かも)扱いしてるとは。


 マスター? がひっくり返ったのを皮切りに、今まで店内を壊さないようにしていた連中が、いきり立って襲ってきた。


「やっちまぇ!」


 派手な破壊音とともに斧がカウンターに食い込み、パイプでカウンター上の紙ナプキンや調味料っぽいものなどが()ぎ払われる。


 土足でよじ登るものも出てくるが、俺は逆に、刺さって動かなくなった斧に手を置きそのままカウンターを跳び越えた。


 着地と同時に一人に足払いをかけ、(すご)んできた一人の頬を平手打ちし、その手の甲でもう一人の頬に裏拳を入れる。


 凄んだりする暇あったら仕掛けてこいよ。

 俺は心の中でため息をついた。

 多分こいつら、何人も調査に来た人を手にかけてる。


 (わな)にかかる獲物を待ってたような対応だった。


「さて、裏手のトンネルとやらに行きますか」


 俺は改めて荷物を背負う。

 カウンターの内側で呻いている、訛りの強いおっさんに向けて声をかけた。


「俺、酒は初めて飲んだんだが、あんたのバターラム、旨かった」


 言った後、俺はスイングドアを開けて外へ出た。

 ゴーグルがずれ始めていたから、整えた。


 このゴーグルは俺の自作だ。


 この小半年間、近隣の工場で頼み込み、機械工学について学ばせてもらった。


 光学や機械の仕掛けや細工について高度な技術を持った職人が多く、俺があまりに真剣に学んでいくもんだから、何人もの職人さんが色々教えてくれて、すっかり仲良くなった。


 何人かの職人さんは作りたいものについての相談にもよく乗ってくれたりもした。


 俺は店の裏手の、乱雑に板を打ち付けられた、大穴の入り口前に着いた。


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