4.逃避行
情報を整理すると、ロクハラ議事堂とやらが、軍部と親交が深かったといわれるコンラッド・ナベシマ率いる野党過激派に爆破され、与党首脳陣は何処かに監禁されているらしい。
穏健派とされるキンブリー・クリス・ハートは、与党に与したとされて、自宅監禁。
トリオのもう一人の話は今回収穫無しだった。
ロクハラはこの国の心臓部の都市の一つで、ここから2市ほど離れた程度の場所らしい。
これはマスターに聞いたら教えてくれた。
もうこれは戦争だな。
混乱に乗じて荒事好きな奴らが好き放題やりだすかもしれねぇ。
この土地の特産品を買い付けて、地方に離れた方が良さそうだ。
「マスター、旨かった。また来るぜ」
「あいよ。いつでも来な」
重低音なダンディーな鹿だった。
宿に帰るとイオリは出た時と同じ姿で爆睡していた。
俺も流石に疲れて、イオリの横に倒れ込んだ。
ふと目が覚めると頭が痛かった。
目を開けたのに目の前が暗い。
「重い」
イオリの足の裏が目の上に乗っていたから、軽くどかして起き上がった。
掛け時計は昼過ぎを指していた。
「あー? 昼か。っつーか、イオリ! 起きろ! アホみたいに寝てんなぁ」
「んぁ?」
イオリはビクッとして、体を起こし、その拍子にかかとが俺の鼻を踏んだ。
「がふっ! ってぇ!!」
「ぶふふっ!」
悶絶する俺を見て、心配するどころか笑いだしやがった。
「このやろう!」
「いてて! やめろー!」
髪を引っ張ってやると、腹をボカスカ殴ってきた。
なかなかにいいパンチだが、今はそんなことをやっている場合じゃねー!
「つつ……。今日でここ発つぞ」
「なんで?」
「まぁ近くの町で何か物騒な事件起きてるっぽいから、もっと都会から離れた暖かい場所で商売やろうかと思ってな」
雪がちらつき始めているのを窓から見て言った。
どうやらあちこちの煙突から出ている白いものは、ほとんどが煙じゃなく水蒸気という話だ。
燃料は石炭や石油じゃないらしい。
長距離移動するのにはやはり飛行船らしいが、今全便止まってしまっているらしいから、新幹線にあたるような、大型の汽車を利用することにした。
「おれ、バルムンクに乗るの初めてだ」
「俺もだよ。はぐれんなよ」
路面汽車を乗り継いで郊外に出ると、無骨な大型二輪車と箱形人力車のようなものが繋がったものが、ずらりと並んだエリアを通りかかった。
「おーい、にぃちゃんたち。乗っていかねーか?」
袖無しの革ジャンにいくつものトゲがついた、パンクスタイルのおっちゃんが声をかけてきた。
他にもメタル系か、バンドを思わせる強面なじいさんや、おっさんたちがたむろしている。
芸人の◯ギちゃんか? いや、こいつぁマジでワイルドな本物だ。
一瞬ヤバい連中の巣窟に来ちまったかと焦った。
金属板をわざとつぎはぎに張り合わせたデザインの、ヘルメットをつけて、四角いサングラスをメカニック仕様にしたようなゴーグルをかけている。
日焼けした肩を剥き出しにして、白髪混じりの口髭も、いい味出してる。
「あー。ありがたいが、俺らはバルムンクでシラサギへ向かう予定なんだ」
「そりゃ仕方ねぇなぁ。また次んときゃたのむわー」
豪快に笑って見送ってくれた。
「あれ、何?」
「あれは……たぶん客を乗せて走ってくれるタクシーみたいなもんだな」
タクシー通じねーか? とも思ったが、イオリは納得したような顔をしていたから良しとした。
郊外の駅に着いた俺たちは、ロータリーに路駐してある2台の四輪バギーの横を抜け、駅舎に向かった。
長距離汽車が発着するわりに大型の駅ビルっぽい建物があるわけではないらしい。
ここら一帯は配管や煙突よりも、シュクランで見たウィンドタワーのような建造物が多かった。
「何か思ったよりショボくね?」
「おれはこんな感じ好きだぞ」
時計塔のようなものがロータリーの中央にあり、駅舎よりそっちに金かかってる感じだ。
レトロな形状の紙っぽい切符を窓口で買ったが、改札を抜けるときは素通り出来る様式だった。
抜ける前の改札付近に、黒っぽい服装の若者たちが5、6人たむろしていた。
すれ違いざま、舐めるようにこっちをじろじろ見てきた。
俺と同じ犬顔(毛色は真っ黒だ。)と、金色の狐か何かのような大きな耳の半獣。
黒いボーラーハットやフォーマルハットに赤紫の布を巻き付けていて、その上からジャラジャラと金属の大小様々な歯車で装飾してある。
チャラさがにじみ出ている。
ちょっとずつデザインが違って、片眼に魚眼レンズっぽいゴツいモノクルを付けた奴もいる。
カチャカチャとナイフみたいなもので遊んでいて、居心地の悪さを感じた。
「ちょっと急ごうか」
「なんで?」
何だか値踏みされてるような気持ち悪さを感じて、イオリの手を引いて少し早歩きになった。
やべーやつらじゃね?
汽車乗ったら逃げ場ねーぞ!
予想的中! 改札を当たり前のように飛び越えて、何かぞろぞろついてきた。
「おい! そこの犬! 逃げてんじゃねーぞ! そのレアもんこっちによこせよ」
超オラオラ系じゃん!
レアもんって何だよ!
「イオリ!走るぞ!」
「う、うん」
流石に状況がわかってきたようで、ホームの奥へと走る。
少ないが、ちらほら見える乗客の脇をすり抜け、ぶつかったら軽く謝り、地下に降りる階段とか無いか見回しながら走った。
まだ汽車が来るまでに随分時間があった。
ニヤニヤしながら余裕の顔で追いかけてくるチンピラども。
追いかけられて気づいた。
あいつら妙に足はえぇ!
こっちは全力なのに、チンピラどもは軽い足取りでグングン距離を詰めてくる。
「何だよ。犬は鈍足のポンコツかぁ? レアもんと一緒にいるとポンコツになんのかぁ? あぁ~ん?」
ナイフをチャラチャラ鳴らしながら、狐っぽい半獣が、すぐ背後まで迫っていた。
「ほーれ」
嘗めた口調で煽りながら、背中をひと突きされる。
「くっそ!」
いてぇ!
めっちゃムカつく!
「ヨースケ!」
犬顔のチンピラがイオリの首根っこを掴み、持ち上げていた。
俺のは偽もんだからなぁ……。
今まで気付かなかったが、外見の動物の身体能力持ってるってことか!!
跳躍力が桁違いだ。
普通に逃げても無理だ!
あ、そういえば、武器あるわ。
腰に下げた仕込み杖より、今はこいつだ!
俺は両手に仕込んであった拳銃を勢いをつけて袖口から出した。
即座にチンピラの足を至近距離から撃ち抜いた。
「いってぇ!! くっそ!」
「てめぇ、やりやがったな!」
犬顔が転がり、その後ろから他のやつーー虎っぽい顔のチンピラが上空から襲ってきた。
右手にナックルダスターを付けた豪腕の男だ。
あんなんに殴られたらひとたまりもねぇ!
すかさず銃を向けて乱射するが、同時に別の奴からタックルを食らい、全て的を外してしまう。
更に虎顔のパンチを思いっきり食らい、俺は気を失った。




