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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第3章 もう一人の失踪者
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2.ダァフゥオの泥棒

 俺は空の旅というものは、身動きの取れないものだと思っていた。

 小学生くらいの時ジェット機に乗ったことがあったから、そういうもんだと思っていたが、この世界の空の旅はまるっきり違った。


ーーまもなく、高度、30000フィート。眼下に広がる素晴らしい雲海をお楽しみください。


 前にジェット機に乗ったとき、一緒に乗った婆ちゃんが、この高度では外はマイナス50℃だとか、息を出来ない酸素濃度なんだとか言っていたが……。



「あれ、(うそ)だったのかぁ?」


 俺はとあるRPGやったときに(あやつ)った覚えのある、いわゆる飛空挺(ひくうてい)っぽい乗り物のデッキから、眼下に広がる見事な雲海を見下ろしていた。


 心地よい風を感じながら、アルから貰ったカウボーイハットが風で飛ばないよう手で押さえた。

 犬の被り物は案外温かくて心地良い。

 そのまま風呂やシャワー、水浴びしても問題ないらしいから、ほとんどこのままでいいだろう。


 フィンガーレスグローブも、腕の途中まで焦げ茶色の毛が生えてるように見えるからすげぇ普通だ。

 しかも更にグローブを付けても違和感が無い。

 元々着ていた学校の制服は、何処かで引っかけて破れてもいたが、シュクラン滞在中何回か着替えてるうちに迷子になっちまった。


 今は、アルが新調してくれた、青いワイシャツに中世風の黒いダブルブレストベストを着け、下も黒いダメージパンツに金属部分が金色の革ベルトが左太もも付近だけ何本か付いている。


 こういうのが流行りなのか。

 上に羽織(はお)った、ゆったりした黒いマントコートの(すそ)をつまみながら考えた。


 そういえば、30000フィートって何メートルなんだ?

 知らない単位だから、やっぱ異世界なんだなぁと痛感する。


 アルや、シュクランの人たちが使っていた言葉が何語と呼ばれてるかはわからないが、数字は俺が知っている文字だった。


 多少共通する部分があるらしい。

「まぁいいか」


 (つぶや)いて上を見上げると、忙しそうに歯車とシャフトが動いている。煙突状の突起からは白い蒸気が定期的に噴射され、後方には赤紫色の鉱石が煌々(こうこう)(かがや)いていた。


 長距離移動する客は少ないのか、デッキには人っ子一人いない。

 この世界では、デッキに出るのは一般的ではなく、客室にこもるのが普通なのかもしれないな。

 目的地がシュクランからどれくらい離れているのかわかっていなかったが、到着は想像以上に早かった。


 体感として2時間くらい。

 一日が24時間なのは、どこの世界でも共通なのか?


 学がなくて、よくわからん。


 時間や数字が同じなのは分かりやすくて助かった。


 他の文字はまだ時間かかりそうだな。

 俺は飛空挺を降りるとダァフゥオとやらの空港、もとい発着場に降り立った。


 降りてみてまず目に入ったのは、あちらこちらにやたらとパイプが張り巡らされたいること。

 発着場の内観からして、工場地帯にでも迷い混んだかという状態だった。

 文化の違いと言ってしまえば聞こえはいいが、先端科学の都市だったシュクランと比べ、随分発達の水準が違うのかもしれない。


 天(がい)は透過式なのか何なのか、今星空だった。


 発着場から出てみると、やっぱり工場だらけな雰囲気。

 無人タクシーなんかは走ってないし、行き交う人々は、一種のメカニック系と西部劇と、英国紳士的な古いんだか斬新(ざんしん)なんだかといった格好の人が多かった。

 この中に入ると、今の俺の服装も全く違和感がない。


 何か、マンガかアニメで見たことある。

 中世か? 産業革命か?

 天空の城が出てくるやつとか、シャーロックホームズは、ちょっと違うか。

 他にもあったな。


 無造作に壁を走るパイプに、所々見える梯子(はしご)や丸いメーターのようなもの。

 時々先端から白い蒸気が出ていたりする。


 しばらく雑然とした雰囲気の路地を歩いていると、急に横から何かがぶつかってきた。


「いてっ」

 衝撃(しょうげき)は腰の辺りで、見ると薄汚れた布をかぶった小僧が走っていく姿が見えた。


「何だありゃ? …ん、やべぇな。コラ! ドロボー!」


 (ふところ)が軽くなっているのに気付いて腰辺りを触ってみると、腰の隠しポケットに入れていた財布が消えていた。


 まだ追い付けると思った俺は、持てる力の限りを使って走って追いかけた。


 路地裏に入られてすぐの辺りで追い付き、何とか捕まえる。


「どういうこった? コラ」


 何とか余裕ぶっこいた感じの声が出たが、既に過呼吸一歩手前だ。


 布をひっぺがすと、やっぱり小汚ない小僧だった。

 (すご)形相(ぎょうそう)(にら)んでくる。


「いや、お前が俺の財布盗んだのがわりぃんだぞ。オラ返せ」


「イヤだ」

 即答。


「そうか、じゃあ仕方ねぇな……っておい! 違うだろ? そこはごめんなさい。もうしませんだろ!」


「返さないし、またやる」


 絶対離さないという迫力がある。

 ほとんど襤褸(ぼろ)くずのような服装で、下は元々短パンだったんだろうということはわかる。

 孤児(こじ)か何かか?


 俺なんか足元にも及ばないほど、(しん)がつえぇ。

 きちんとした教育を受ければ相当な大物になれそうだと感じた。


「わかった。その金はアルに借りてるもんだから、いずれ俺は利子付けて返すつもりなんだ。

 そいつぁお前に預けるわ。

 ただ、俺もそれ無しじゃ食いっぱぐれちまうし、返すアテも無くなっちまう。

 俺はお前の首根っこ離すつもりはねぇし、このまま、宿に行くぞ」


 首根っこを持ち上げて放ると、まだじたばた暴れる小僧を肩に(かつ)いだ。

 まるで人さらいだ。


 発着場からそう遠くない場所に、宿があったから、俺は小僧を担いだまま入ることにした。


 ここがシュクランみたいなハイテクじゃなくて良かったと思った。

 シュクランだと受付も無人で、まず何をやればいいかパッとわからない。


「大人1人、子ども1人で頼むわ」

「お~。人さらいかい? 厄介事(やっかいごと)勘弁(かんべん)しておくれよ」


 軽い感じで対応してくれたのは、恰幅(かっぷく)のいい感じのおばちゃんだった。


 頭にターバンを巻いて、金属製の飾りをぶら下げている。

 丸い金縁のサングラスのようなゴーグルをターバンに引っかけ、マントコートっぽい()色の布をケープのように羽織(はお)っていた。


「まぁ、そんな感じだ。家出してた息子をやっと見つけたんだが、汚れ放題でな。ここ、シャワーか風呂あるかい?」


「そりゃ見つかってよかったねぇ。ちょっと値は張るが、あるよ。6001から上は全部、2、3人は入れる大きめな風呂完備だ」


「じゃあ6001で頼むわ。ありがとよ」


 アルから教えられていた通り、チップを渡すと、鍵らしいブレスレットを渡された。

 小僧は暴れ疲れて肩の上で寝こけている。

 息子ということにして、俺は宿を確保した。


 ホントに息子なら俺は一体いくつで子ども作ったことになるのやら。

 犬の被り物で、年齢不詳になってるのが幸いだった。


 やべぇ。

 エレベーターの使い方がわかんねぇ。


 何となくタッチパネルっぽいことはわかったから、適当にいじっていると、矢印や数字が出てきたから、(かん)で触っていると案外いけた。

 

 と、その時はそう思ったが、何のことはない。渡されたブレスレットに反応して、自動で6001号室の階に移動しただけだった。


 部屋に着くと、アルが使わせてくれた部屋がVIPルームかスイートルーム並みだったことがわかる。

 小僧をベッドに下ろすのは(はばか)られたから、服をはいで、湯を張った浴槽(よくそう)に突っ込んだ。


「ぶはっ! 何しやがる!」

 急にお湯に放り込まれれば、普通の反応か。

「きたねぇから洗うんだよ」


 あっという間にどろどろの水になったから、更にシャワーをかけて、完備されていたシャンプーなどでガシガシ洗ってやった。


「いったいよ! 離せ! 触んな!」

「細かいとこは流石に自分で洗えよ!」

 泡だらけのまま、あとは放置だ。


 風呂場を出ようとして浴槽を見て、あまりに汚かったから一回浴槽のお湯を流し、またお湯を張るようリモコンを設定した。


 俺って案外面倒見いいのかもしれない。


「タオルと服は、ここにあるからな」

 顔がそこそこわかるくらいに汚れが落ちたところで、俺は風呂場を後にした。


 宿に入る前、適当に子ども用の服を買っておいて正解だった。

 ひっぺがした服は、短パン以外元がどんな服かわからないほどボロ布だった。


 しばらく待っていると、小僧が出てきた。

 置いておいた服を身に付けている。

 適当にサイズ調整が出来そうなオーバーオールと、下着と長袖シャツ、ポンチョマントを置いておいた。


「少し大きかったか?」

「ふん!」


 こっちを(にら)んでくる小僧。

「まぁそんなに怖がるな」


 黙ってこっちを睨んでくるが、服と一緒にいくらか買っておいたハンバーガーの一つを放るとすぐさま受け止め、あっという間に平らげた。


「まだあるぞ」

 そう言って部屋の脇にどけてあった紙袋から、ハンバーガーやポテト、アップルパイを取り出すと、(うば)い取るように取って、ガツガツ食べ始めた。


(のど)()まらすなよ~」

 ボトルの水も渡すと、ガブガブ飲む。


「お前名前は?」

「……オリ」


 空腹が満たされて落ち着いたのか、睨むのが無くなった。


「イオリ?」

 小僧は(うなず)いた。

宮本武蔵(みやもとむさし)の弟子の名前か。悪くねぇ」

 俺が知ってる数少ない歴史上の人物だ。

 知ったきっかけは漫画だが。


 イオリは首をかしげ、まだ()れた髪から(しずく)が落ちた。

 薄汚れた顔からは予想も付かなかった、綺麗(きれい)な顔立ちの凛々(りり)しい少年だった。


「お前、いくつだ?」

「はち」

「なんだ。まだ一(けた)か。親はどうした?」

「多分死んだ」

「あ~、わりぃ」


 不粋(ぶすい)だったか。

「あまり覚えてない」

「そうか」

「しょ……おれが着てた服は?」

「あぁ、まだそこにあるぞ」


 ゴミ箱をゆび指した。

 慌ててあさりだすイオリ。


「あった」


 万年筆だった。

 黒地に銀や青の星を散りばめたような美しい代物だった。


「俺はまだこの国に来たばかりだから、これからしばらく情報集めをする。要はあてもなく色々見て回るわけだが、お前も来るか?」

「…………行ってやってもいい」

「ツンデレかよ」

「ツン……?」

「なんでもねーよ」


 乗り掛かった船だ。

 しばらく面倒見てやるかぁ。

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