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Queen & Ace Blanks  作者: frontphace
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No.3 問いと答え(3)

まず、前提として俺達は俺達が住んでいる世界は巨大な結界に囲まれた箱庭のようなものであることを知っている。そして、その外側には「俺達が当たり前のように扱っている魔術が存在しないのが当然で、科学技術のみが発展した世界」が広がっていることも知っている。そして、使者を送ることで時折外からの情報や技術を得ているのだ。


ヌメロス城下街、ヌメリアはどちらかというとオフィス街に近い……仕事の街だ。具体的には外から持ち込んだ物品のリバースエンジニアリング、それの再現、あるいはそれと同等の効果を持つ魔道具開発……また、俺達の世界で必要とされている魔道具の開発など魔導工学的な商社が多い。一方で娯楽施設などはごく少数。

そのため、遊びに行くには不向きな街だと言える。


ただし、そこから鉄道でニ、三駅ほど行けば俺……というか親父であるパフィック公爵直轄領・ペルフィカがある。こっちはどちらかというと市場や商店が多く、娯楽施設もそれなりにある。しかも治安については最良のヌメリアに次ぐほどいい(ただ、隣町のバルカ付近は例外だが)。


……なんて言っている間にペルフィカに着いちまった。ぶっちゃけ城からヌメリアの駅まで歩くより早くて、俺が師匠にノされるよりは遅いくらいだ。


ちなみに、ミリアと初めて出会ったのもここだった。市場で財布を落とすわ、バルカ近くの路地裏で人攫いに捕まりかけるわ、放っておけない奴だった……それが実は王女様で今じゃ婚約者か……


「おいセンス!! おっせぇぞ!!!! 」

「ふっ、落ち着きたまえよ。何故なら、イケメンというモノは寛大な心を持ち合わせているからさ(キュピーン)」


物思いにふけってたせいで、すっかり出るのが遅くなっちまった。

あのやかましい赤髪のお兄さんがトレス、そして歯を輝かせたナルシスト黒髪野郎がギルだ。

トレスは先発部隊隊長で、敵襲やら戦争やらの先陣を切る役割を担っている。武器は大斧で魔術は大の苦手だが、その代わり異常なまでに怪力――たった一撃で地形を変えてしまうほどのパワーがある。普段はガキ大将を大人にしたみたいな、強引だけど面倒見のいいお兄さんなのだが、反面かなり打たれ弱い。

ギルは副執事長……だが、俺は護衛部隊隊長なのでミリアの傍に居る間できない執事長としての仕事を代行している。なので実質執事長みたいなものかもしれない。戦闘能力は皆無だが、実は鍛冶の才能がある。普段はこんなバカなのに……そう、こいつは面だけなら、黙っていれば本当にイケメンなのに、自分でそれを言い切っちまう残念なイケメンだ。悪い奴じゃないのは確かなんだけどな。


ちなみに彼等は俺と同じく王女宮に入ることが許された数少ないメンツだったりする。


「で、今日は何するんだっけか? 」

「ふっ……愚問だな……」


ギルが無駄に足をクロスさせ、無駄に左手を目にかざしつつ無駄に右手で左下を変な手真似で指した。うぜぇ。勿体つけんな。すると『ウザさ』を共感してくれたトレスが代わりに答えてくれた。


「……明日が四月十六日、『贈花の日』だからに決まってんだろ」


あっ……そういやそうか……

……『贈花の日』というのは第三代ヌメロス国王が想いを寄せていた少女(もちろん婚約者候補、後の妃)にプロポーズした日のことだ。それも花束を贈ったなんてレベルじゃない。魔術でバラやらアネモネやらカーネーションやら、そこらじゅうを一瞬で花畑にしてしまったのだ……

ただ場所がその……街のド真ん中でいきなりだったから……めちゃくちゃからかわれたらしい。両想いだったからまだよかったものの、両陛下ともに超恥ずかしかったとか。今となっては伝説だが。

第七代国王は国の発展のため生涯独身を貫いたが、乳母や妹君(のちの第八代国王)に贈っていたため、現在では想い人や恩人あるいは家族に花やメッセージカードを贈る日になった。


で、こいつらの贈る相手は見当がついてる。


「トレス、ファンク料理長に贈るんだったら飯の前後はやめとけよ? 迷惑になるから」

「だ……だれがファンクに贈るっつったんだよ!!!! 」

「ふっ、動揺しなくてもいい……俺がティーに贈り、トレスがファンク料理長に贈り、そしてセンス……君がミリア様に贈ることは最早宇宙の真理だからな(キュピーン)」

「……」


ファンク料理長はトレスの幼馴染だ。ちなみに似たもの夫婦で、互いに素直になれないためいまいち微妙な関係で停滞している……割にはきっちりヤることは済ませているらしい。どういうこっちゃ。

ティーはギルと俺の幼馴染であり、メイド長兼護衛部隊副隊長を務めている。残念ながらギルは今のところ一方的にティーに思いを寄せていて、アタックし続けているものの全戦全敗という悲惨な結果に終わっている。まずそのナルシストな態度を何とかしろよ。


この二人については、また会う機会があれば説明しようか。


「どうした、センス……そんな浮かない顔をして……普段ならトレスほどとは言わなくとも『うるせぇ!! 』とか騒ぐじゃないか(キュピーン)」

「あ……まぁ……ちょっとな」

「……? 」


……まさか師匠は明日の事まで見越した上で……? なんだかんだであの人色恋沙汰は大好きみたいだし……


とはいえ……今年もやはりメッセージカードを書く気になれない。正確には何度も何度も下書きしたり、書き直したりはしているが、渡せたことは一度もない……


『好き』とか『可愛い』とかありふれた言葉や、『お前の全てを愛している』とか『お前と出会えた運命に感謝している』とかもなんか違う……というか普通に恥ずかしい。『ずっと傍に居る』も悪くはないが……文面次第ではとんでもない意味にも聞こえる。


まぁ……とりあえず花束だな。

花屋の前に着いたわけだし。などと考えていたらトレスが声を掛けてきた。


「なぁ、センス」

「なんだ? 」

「こういう花って食えるのかな? 」

「……勝手に食ってろよ」


言い忘れていた。トレスは大食いなのだ。


「いやほら……逆にファンクとしても料理になるモンの方が嬉しいかもしれないじゃん? 」

「ファンクさんは料理長やってるけどそれは仕事で得意なだけであって、好きでやってるわけじゃないかもしれないぞ? 」

「うーん……でもあいつ結構楽しそうに料理してると思うんだけどなぁ……あといい匂いするし食ったらうまい気がする」


そっちが本音かよ。


「そう思うなら花とは別になんか食材か調味料でも買えばいいんじゃねぇの? 」

「……確かに」


マジでアホなんだからこいつは……


「すまない、センス……俺も少し相談があるのだが……(キュピーン)」

「……なんだよ」


お前もかよ。

つーかこいつは生物学には詳しいし、何気に花言葉もよく知ってるはずなんだが……

むしろ俺が聞きたいぐらいだ……なるべく変な意味に取られない無難な奴を。


「丈夫そうな花はどれだろうか……」

「知るかよ!! 何でだよ!! 」

「ふっ、決まっているだろう? 一度撥ね退けられても花がダメにならないようにするためさ!! (キュピーン!!)」

「フラれるの前提かよ!!!! 」


悲しい!! もはや悲しくなってくる!!!!


「ちなみにメッセージカードは破られないよう、スリーブに入れる予定さ(キュピーン)」

「やめろぉ!!!! 」


***


昼下がり、私はいつも通りの書類仕事をしてました。


「ミリア様、お茶をお持ちしました♪」

「ありがとうございます」


副メイド長のウェンナが紅茶と軽食を運んできてくださいました。本来はメイド長であるティーの仕事なのですが、彼女は護衛部隊副隊長を兼任していて、今日はそちらの仕事をしているため彼女が持ってきたのです。

……で、当のティーメイド長は……


「……はぁぁ……」


物凄く疲れた顔をしていました……そう、彼女は珍しく大寝坊して大遅刻をしたため、デシ大臣の御怒りを買ってしまったのです……デシ大臣、私に対しては過保護なほど優しいのですが……こと身内にはとても厳しいのです。ウェンナも含めて四人は今でも恐れているのだとか(ウェンナもセンス達の幼馴染なのです。少々羨ましいですわ)。


「ティー、貴女もお飲みになりますよね? 」

「うん、まぁ……御言葉に甘えて」


そういうと、部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきて、私の横に腰掛けました。

明るい茶髪はさらさらとしていて長く、私の癖毛とは大違いで……背も高くてセンスと並んで歩くと丁度良く見えてしまいます……胸も私より大きいし……


「……? なぁに? そんな私の顔じーっと見て……何か悩み事でもあるの? 」


しかも私と違ってさばさばしているというか……王女である私に対しても一切遠慮せず砕けた口調で話せる肝の座り具合とか……うぅ……


「いいえ、なんでもありません……というより寝坊なんて……ティーにしては珍しいですわ、と思って……」

「ただの夜更かしよ……読書ってキリのいいところまでとか思うと延々と読んじゃうじゃない? 」

「なるほど……その気持ち、大いに分かりますわ! 」


ちなみに私の場合は歴史書、為政記録、魔導研究書などです。ティーは恋愛小説がお好きなようなのでこの会話は噛み合っているようで全く噛み合っていないのです……

それにしても、こういう趣味の一つを取って比べても……はぁ……


「……?? またさっきと同じ顔してる……どうしたの? 」

「ティーは可愛らしくて素敵な方だなぁって……」


そう呟くと、ティーは困惑しながらもちょっと嬉しそうというかわくわくした表情を浮かべていました……


「えっ? ……いやその……私もミリアの事は妹みたいで可愛いと思うけど……貴女にはセンス君という婚約者がいるわけで…」

「そういう意味ではないです」

「……あぁ……そう」


何故そちらの意味が先に出るのですか。

……予想はつきますけどね。


「……今『私自身はそっちの気はないけどまさか私の魅力で王女まで惑わせて幼馴染と三角関係なんて私ったらまるで恋愛小説に出てくる魔性の女みたい、うふふ』って顔に出てましたよ」

「え゛っ」


やっぱり。

ティーは極まりが悪そうに咳ばらいをしました。

それから紅茶を一口含ませ、飲み込み、話をつづけました。


「……じゃあ、さっきのはどういう意味よ? 」

「……センスにとっては私なんかよりティーの方が相応しいのかなぁって…」

「う…ゲッホ!! ゴッホっ!!!! 」

「だ……大丈夫ですか!? 」


ティーは激しくむせ返っていました……動揺しているのでしょうか?


「あんたねぇ……何を言い始めるのかと思えば……」


と思ったら、何故か呆れたような……?

気になる……と思いながら私は紅茶を一口…


「もう時効だし多分知ってると思うけど言っちゃうけど……私、貴女の戴冠式の前にセンス君に告白したのよね」

「ごっほっっ!!!! 」


え!!!? 何!!!? 知らない!!!! 知りませんでしたよそんな新事実!!!! 八年近い付き合いなのに!!!?


「振られたけどね……ペルフィカで貴女に一目惚れしたそうよ……ってその反応……知らなかったの? 」

「知りませんでしたよっ!!!! ……というかもしかして今も……? 」

「流石にそれはないわ……だから『時効』って言ったでしょ? 」


ティーは少し寂し気に首を振りました……彼女の本心がどこにあったかは分かりませんでした……


「とにかく私が言いたかったのは……センス君は私じゃなくて貴女を選んだの。もっと自信を持ちなさいよ」

「……でも、八年もあれば想いだって変わってしまうかもしれないじゃないですか……」

「~~! あぁめんどくさいなぁ!! もう!! 」


ティーはじれったくなったのか


「そんなに心配なら明日確かめればいいじゃない!! 」

「はにゃ? 何故明日なのですか? 」

「え……嘘でしょ……? 」


暫く絶句したかと思えば信じられないとかありえないとか何かそんなことをぼそぼそ呟いていました……


「……『贈花の日』に決まってるじゃない」

「……えぇえええぇぇぇぇぇえぇぇぇっ!!!? 」


カレンダーの日付は四月十五日を指していました……何という事でしょう……私としたことが……


「そういえばそうですね!!!? うぅ……私としたことが……年度変わりの多忙ですっかり失念していました……どうしましょう……」

「いやどうしましょうも何も貴女は受け取るだけでしょ? 」

「……私は毎年センスに贈っていました」

「え゛っ……何その新事実……八年仕えてきて初めて知ったわ……ちなみに内容と反応は……? 」

「……それは内緒です」

「ふぅん……分かったわ」


流石に少々恥ずかしいですから……


「時効とはいえ、私にだけ恥ずかしい過去を語らせるのね……貴女のこと……親友だと思っていたのに」

「そ……そんな言い方狡いですわっ!! 」

「何も八年分全部とは言わないから、一番恥ずかしくないのでいいから教えてよ……」


うぅ……とはいえ……

えぇと……最初に贈ったときは確か……『愛していますわ!! ずっと一緒にいてください!! 』……我ながら直球過ぎて恥ずかしいです……

十歳の頃に贈ったのは……駄目です!! 一番恥ずかしいですわ!!!! ……我ながら何であんなものを……はぁ……

十二歳の頃に贈ったときは……長すぎて『重っ』って引かれてしまいました……当時は一生懸命書いたのにとショックでしたがよくよく考えたら葉書ほどのカードにびっしりと文章が書かれていたら少々どころとなく怖いかもしれませんね……

となると去年のが一番ましかもしれません。


「きょ……去年ですが……その………………『いつも貴方の優しさに触れられて、私は本当に幸せです』……と書きました……」

「反応は!? ねぇ!! 反応は!? 」


……凄く楽しそうですわ。


「『何でだろう……普通に愛してるって言われるより恥ずいな』って言われたので『わ……私だっていつもより恥ずかしい事に今気づきましたわ……』……と……」

「~~ッ!! ~~ッ!!!! 」


ティーは自分のことのように顔を真っ赤にして身悶えしていました……そんなに恥ずかしい内容だったでしょうか……いや恥ずかしいですけど。

うぅ……なんだか馬鹿にされてる気がします……


「……つくづく貴女達って応援しがいがあって最高よっ!!!! 」

「人の恋路を楽しまないでくださいませ!!!! 冷やかしが過ぎますわ!!!! あんまりしつこいと明日王女宮から叩き出しますよっ!!!? 」

「ちょ!!!? それは勘弁してください!!!! ごめんなさい!!!! ミリア王女様!!!! 」


余談ですが、ティーは先程申し上げた通り魅力的な女性なので執事や兵からも大人気なのです。そのため、『贈花の日』は専らこの王女宮でやり過ごしています。


「はぁ……明日となると細かな推敲は難しいでしょうか……」

「……ちなみに普段はどれぐらい推敲するモンなの? 」

「秘密です♪」

次話投稿は20/01/13 20:00頃を予定しております。

御待ちいただけると幸いです。

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