No.1 問いと答え(1)
独自ルールで申し訳ございませんが
###:場面転換
***:視点人物転換
という風になっております。
私は旧ヌメロス国第八王女、そしてヌメロスセントル王国王女(兼暫定女王)、ミリア・ド・ヌメロスと申します。即位してからは八年、今は十四歳です。
何故だかとても長い夢を見ていたような、そんな気がしました……私は、私の名を呼ぶ愛しい声で目を覚ましつつありました。
「……リア、ミリア! もう朝だぞ! 起きろ! 」
……うーん……
意識がぼんやりしますわ……
そうでした……昨日は確か書庫から持ち出した歴史書を読み耽って、そのまま執務室で眠ってしまったのでした……
「……んぅ……」
……はずなのですけれど……
何故か私はいつも通りベッドの上で寝ていました。
大方、彼が運んでくれたのでしょう……
それにしてもいつにも増して眠気が強いですわ……もうしばらくお休みさせていただきましょうか……
「……ったく……夜更かしなんてするから……」
溜息と悪態が聞こえてきますが……優しく頭を撫で、頬を撫で、乱れた掛け布団を直してくださるあたり、彼の愛情と優しさが伝わってきますわ……
うん、やはり私の目に狂いはありませんでしたわ。
「……」
彼はしばらく頭を撫で続けていたのですが、やがて朝の用事があるからか、手を止めて立ち上がろうとしました……
私はふと寂しくなって、咄嗟に手を伸ばしてしまいました……
「……うぅん……」
「~~!? ……」
「……」
……寝たふりをしていたのがばれてしまったようですわ……私は薄目を開けてみました……
二つ上の少年が、透き通るような銀髪に、驚きと羞恥と怒りを含んだ蒼の瞳……そしてわなわなと肩を震わせていました……私は全力で目を瞑り、努めて眠っているふりをしてみました。
「すぅ……すぅ……むにゃ……すぅ……」
「……おい、ミリア。お前起きてるだろ」
「……んぅ……」
「今薄目開けてたよな? 目合ったよな? 」
「……」
「ミリア王女様ぁ? 返事はぁ? 」
……無視です。今私は何も見ていないです。そういうことにしておきますから。
というか、何をどうしてそんなに恥ずかしがるのでしょうか……私と貴方の仲だというのに……むしろ私は貴方の愛とか優しさとか改めて実感できて嬉しいのですよ?
はぁ……もうちょっと居てほしいとか欲張らなければこんな面倒な事にはならなかっ…
「……えいやっ! 」
「きゃぁああぁああぁぁぁあぁぁぁ!!!? 」
今!! 胸に!!!! というか胸を!!!? わしって!!!! ぐわしって!!!! ちょっとひんやりした指がぁ!!!!
……取り乱して申し訳ございません……その……あまり口にしたくないのですが……ネグリジェというものは眠りを妨げないようにゆったりとした作りになっているものです……で、彼はあろうことかそのネグリジェの開いているところから手を差し込んで私の……胸を揉んだのです……しかも直で……うぅ……
「何をなさるのですかっ!!!? センス!!!! 」
私は飛び起きて怒鳴りつけました。
こっちは本気で怒っているというのに、彼と来たらへらへらしています……
「どうだ? 目は覚めたか? どうせ狸寝入りだろうと思ったけどさ」
「寝ていようといまいと今みたいな破廉恥なことをしていいといつ言いましたか!!!? 」
「何をどうしてそんなに恥ずかしがるのやら……俺とお前の仲じゃん」
「そういうふしだらな仲じゃありませんから!!!! 私はあくまでプラトニックな……そういう関係でいたいのですわ!!!! 」
「えー、案外エロスな仲も悪くはないかもしれないぜ? 」
「良くないです!!!! 全然良くないですからっ!!!! あんまりひどいとデシ大臣に言いつけますよ!!!? 」
「ちょっ!!!? それは勘弁してくださいミリア様!!!! 」
相変わらず朝からえっちで意地悪です……普段は優しいのに。
彼が私の執事長であり、護衛部隊隊長であり、そして婚約者でもあるセンス・パフィックという、私の世界で一番大切な想い人なのです。
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この国の名がまだ「ヌメロス国」だった頃、私の父である先代ヌメロス国王は八人の妻を娶りました。そして、私を含めて九人の娘を授かりました。
ちなみに、私には双子の妹がいるため九人なのです。
各々に長所・短所はあったものの、王位継承権は各王女の母親の地位によって定められていたので、第一王女がこの国を継ぐはずでした。
そのはずだったのですが……
私がまだ六歳の頃、御父様が病により崩御しました。その際、「この国は……ミリアに継がせる……」と遺言を残したのです。
さて、この言葉を許さなかったのは他の王女の母親達でした。なぜなら彼女達は王族かそれに準ずる貴族でしたが、私と妹の母は聖職者といえど庶民という極めて異例であったからです。特に第一王女の母君様は怒り狂い、何度も暗殺未遂を繰り返していました。
そのままだと私の命が危険であると判断した大臣達はその場凌ぎのために国を八つに分け、各々の王女達に治めさせることとしました。
しかし、結論から言えばそれは失策でした。
八つに分かれた国の内、三つの国は敵対状態。
国力を削がれ、旧ヌメロス国でない国との外交にも支障が生じ、今でも内部には「王の血が半分しか流れていない紛い物の王女」と私を罵り潰そうとする勢力が残っています。そして私は命のためとはいえ、王女宮と呼ばれる城の最奥の、厳重に守られた結界の中に半ば軟禁されていました。
私のせいで、国は八つに分かれてしまいました。
私が王位を継承したから、私は日々命を狙われてていました。
しかし第一王女が継承していれば、私は粛清されたかもしれません。
どう転んでも、死の恐怖からは逃れられない。
だとすれば、何故私は生まれてきたのでしょうか?
などと、自らの命に価値を見出せなくなり、絶望というよりも諦観ばかりしていました。
そんなある日に、センスと出会いました。
一度目はお忍びで城を抜け出して、息抜きもとい視察をしていたところ、人攫いに遭いかけたところを救われました……その時は、お互いの名前も知らなかったのですが。
二度目は戴冠式の後、私が為政を行う上での腹心である総合大臣、デシ・パフィックが「息子に政務官試験の受験資格を与える機会を授ける代わりに、執事として仕えさせてほしい」と珍しく我儘を仰ったので、仕方なく顔だけ見ようかなと思ったら運命の再会を果たしたのでした。
しかし当時の私は六歳。マセているとよく言われましたが、キスより先は知らないお子様で、結局のところ「ずっと一緒に居て欲しいから」という安直な理由で彼を執事長兼護衛部隊長に任命しました。
その後もいろいろ波乱がありましたが、まぁ今のところは……彼と居ることができて、とても幸せです。
普段は優しくて、私が気付かない(と彼が思いこんでいる)ところでも気を回し、尽くしてくれるのですが……唯一困るのはちょっと意地悪なところです。
しかも最近は性的な悪戯が増えて来たような……
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「……って、そもそも貴方……今日は非番なのでは? 確かティーが担当のはずなのですけど……」
「……」
センスがあからさまにそっぽを向いて、顔を赤らめました。半分冗談で鎌をかけてみましょう……♪
「もしかして……『可愛い婚約者の寝顔が一目見たいから』、とかだったりします? 」
「~~!!!! 」
センスの顔がもっと赤く…えっ!? 嘘!? 図星!!!?
うぅ……私の顔も熱くなるのが分かります……
「……まぁ自分で自分の事を可愛いって言いきれるあたり、お前らしいなと」
「違いますよ!!!? 言葉の綾です!!!! 」
私自身は何故そんなに好かれているのかよく分からないし……強いて言うならセンス曰く同年代より胸が大きいらしいのでそこだけ見られているような気もします……
それに私みたいにこんな可愛げのない、ひねくれててマセてて、そのくせえっちなことは苦手でセンスの事になると大好きなのがバレバレな恥ずかしい小娘とより……もっといい人がいるのかもしれません。
私はそろそろ行かなきゃなぁとか呟いているセンスの背中にそっと抱き着きました……
「おまっ!!!? ちょっ!!!? 何何何!!!? 急にどうした!!!? 」
「何となく、です」
「前にも言ったけど何となくで『薄着で抱き着く』のはやめろ!! マジで!! 男ってのはせ…もとい欲望に弱いんだよ!!!! 据え膳だと思って食っちゃうだろうが!!!! 」
「……」
やはり、センスが求めているのは「私」ではなく「女の子」なのでしょうか……
「はぁ……何となくってのは嘘だろ? 」
「どうして……? 」
「何年の付き合いだと思ってんだ……で、どうしたんだよ? お前もそろそろ支度とか…」
「センスは……その……本当に私なんかでよかったのですか? 」
「……は? 」
「私が王女じゃなかったら……貴方は私よりもっと可愛くて、もっと従順で、もっと素敵な人に巡り合えたのかなぁって……」
数秒の沈黙の後、センスが呆れたように言いました。
「……バーカ」
「な!? 」
「何でそんな下らねぇこと抜かしてんだか知らねぇけど……なんだ、俺がここまでしたいと思えるのはお前だけなんだぞ……その……エロいこととか」
「馬鹿はどっちですか……他にもっといい事は思いつかなかったのですか? 」
「……じゃあ……例えばこういうのはどうだ? 」
センスが振り向こうとして、私を一度振りほどき、私の顎に手を添えて……迫って……私の唇に彼の唇が……!!!?
「~~!!!? 」
「……これじゃダメかな? 」
「あわわっ……その……」
駄目じゃないです!!
……と答えようと思ったところで……
「ミリア様!! そろそろ御支度をなさってください!! 本日の会合にも是非出席していただかね…」
センスとよく似た銀髪の、すらりと背の高い知的(で一般的には魅力的)な男性が、勢いよくドアを開けました……少々お怒り気味のようです――彼は先程名前だけお出しした総合大臣デシ・パフィック、センスの御父様です。
私達はドアの音とともに思わず距離を取りました……一国の王女が、朝から執務そっちのけで婚約者とはいえ男と睦み合っていたなんて……冷静に考えればとんだ大失態ですわ……
「……ミリア様、妙に顔が赤らんでいますが……もしや御熱でも……? 」
「い…いえ!! 私はいつもいつでも元気ですわ!!!! 」
「……あるいは馬鹿息子……お前……またミリア様に不敬を働いたか……? 」
「な……何もしてないって!!!! 」
「センスは関係ありません!!!! ……少なくとも今日は真面目に起こしてくれただけですわ!!!! 」
胸は触られましたけど……顔が赤い理由とは別なのでノーカウントにしてあげます。
「……ミリア様がそう仰るのならば、一応のところ信じはしますが……少しでもお困りとあらば、私がこの愚息めを教育しなおしますので……」
「ひぃっ!!!? 」
「センス、何か心当たりでもあるのか? 」
「ないから!!!! マジで勘弁してくれよ!!!? 」
「あはは……」
私は思わず苦笑いしてしまいました……
デシ大臣はセンスを大切に思っている一方で、本人の前ではとても厳格なのだとか……
などと無関係を装っているように見られたのか、珍しく御小言を言われてしまいました……
「ミリア様も……いつまでも薄着で男を寝室に通さないでくださいませ……押し入った私が言うべきことではありませんが」
「うぅ……確かにそれは私の不徳のなすところですが……でも朝目覚めたときに想い人が傍に寄り添ってくれているのは素敵ではありませんか? 」
「……『寄り添う』の解釈次第ですがね……」
デシ大臣は軽く頭を抱えながら部屋を出て、センスもそれに続きました。
「じゃ、またな」
次話投稿は20/01/11 20:00頃を予定しております。
御待ちいただけると幸いです。