No.13 訪れと驚き(5)
祝!「私、やっちゃいました? 」!(祝ってどうする)
「というか、僕達ばかりとっておきを明かすのはつまらないですよ……君達も何か見せてくれませんか? 」
勝手に明かしてたくせに何言ってんだとも思うが……よっぽど暇しているのだろう。
「っつっても俺はただのしがない執事で護衛だからな? 」
「ふふ……過度な謙遜は罪ですよ。フィスではありませんが……僕と渡り合えたということは相応の能力があるということでしょう? 」
「……生憎、あんたも今回は見せてくれなかったからおあいこだろ? 」
「ふぅん……? なるほど……ではそういうことにしておきましょうか」
まぁ納得してくれねぇよな。
『アレ』の事はミリアにさえロクに言ったことない……っつーかあんまり人に知られたくない、知らない方がいい能力だからなぁ。あと『アレ』めちゃくちゃ疲れるし。
というか『アレ』について来れるってことは『アレ』と似た能力か何かを持ってるってことだよな……?
アレアレ言い過ぎて意味不明になった気がする。
「それに魔術もあんたらみたいに見栄えのいいのはねぇからな……いや待てよ……? 」
最初に思い浮かんだのは剣技だった。何せ俺の流派、
砂漏刻変則二刀流の使い手は俺と師匠の二人しかいない……つーか師匠オリジナルの流派なのだ。
そもそもブレイファ自体が珍しい武器なのもあって、一応扱う流派もなくはないがブレイファとサーベルの二刀流になると武芸に秀でた第五王女の国にでも行かないとないだろうな……
実際、師匠自身も第五王女の母の一族の流派をもとに砂漏刻変則二刀流を作り上げたらしい。マジであの人何者なんだよ。
ただ……
「剣技の型なら見せたっつーかなんつーか……だな」
「ええ、身を以って体感しましたよ」
という訳で、別のアイディアを考えて……割とすぐに浮かんだ。
実は何を隠そう、俺には趣味っつーか特技が一個だけある。もちろんエロではない(ただし場合による)……なんだったら、ある意味ミリアとの共通項の一つと言えるぐらいだ。
「だから……ま、その応用と趣味だな……『大理石』」
俺は手元に大理石の球を作り出して……って重いな……まぁとにかく上にぶん投げた。
「……砂漏刻変則二刀流、遊技『剣舞彫刻』」
大理石は宙を舞い、斬り上げた刃が削りつつも更に打ち上げ、回転する塊を突き、削り、回し、峰を走らせて引き戻し、鍔で跳ね上げ、さらに削る。
最初は球が崩れた歪な形に変えただけに見えただろうが、もちろん考えなしに削っているわけではない……真ん中が膨れたYの字に近づき、まず両翼が、そして胴体・頭が別れ、羽やくちばし、細い足が作られていく……
……とまぁ、最後にはくるくる回りながら掌へと、『飛び立つ姿のスズメ』が落ちてきた。
ちなみに、砂漏刻変則二刀流《師匠の流派》にそんな技はない。
……後で師匠に怒られそー。
「おぉ……」
「すごい……」
「流石ですわ……まるで物語に出てくる剣豪さながらでしたわ! 」
うがっ……!?
お前なぁ……そのセリフは流石にオーバー過ぎるぞ……何でそういうことをサラっといえるんだろうか……
「ミリアは、何か得意な事とかありますか? 」
「えっ? 私ですか……? 強いて言うなら結晶魔術と水と凍結魔術、結界魔術ぐらいでしょうか……」
魔術の属性の話じゃねぇよ!!
こういうのはもっと趣味とか特技とかそういうのでいいんだよ……って俺もあんまり人の事言えないけどさぁ……
などと考えながら、あることに思いいたったので、助け船を出してみた。
「アレがあるんじゃねぇのか? 」
「あぁ……確かに」
納得してくれたようだ。
何を隠そう、ミリアは絵を描くのが得意なのだ。風景、人物、静物画問わず、割と何でも描ける。本人は恥ずかしいからか嫌がるが、王女宮の廊下の絵画は全部彼女が描いた……のを親父が勝手に飾った。ちなみに昔俺が二年ほど遠征に行っていた頃、俺の誕生日に何を血迷ったのか『何か無駄に美化された俺の肖像画』を送りつけてきた。ぶっちゃけ引いた。
ついでに結晶魔術……晶属性は『地』と『凍』の属性からなるので、晶属性ができるなら地属性も当然得意。つまり地属性魔術で顔料も作れる。貧乏しょ…『質素倹約』を公約に掲げるミリアに向いた趣味という訳だ。
「アレとは? 」
置いてけぼりなサーツ王女をよそに、ミリアはおもむろに掌に魔術の光で輝く水晶の球を作り出した。
……アレ? 俺が思った『アレ』と違うんだけど?
……まさかこいつ……
「晶属性……結晶魔術で生成できるのは基本的に『水晶』と『石英ガラス』程度です……でも……もう少し魔力を込めるとですね……」
さらに強力な光によって、水晶が全く別の物質に……青い結晶へと変化していく……
「何と『サファイア』になってしまいましたー」
「……!!!? 」
「なってしまいましたー」じゃねぇよ!!
ってことはやっぱり俺が言おうと思った方じゃない『アレ』をやろうとしてるのか!?
「更にこの『サファイア』に魔力を込めてやることで……『魔蒼玉』に変化します」
さらにさらに魔力を込めた結果、サファイアの球には紋様が刻み込まれた。
それを包み込むように、そして手で持ちやすいように、飴細工のように水晶で柄を作り出して……
「後はこれに結晶魔術で柄を付けてあげれば……杖の出来上がりですわ♪……というわけで、『元手無しで杖を作る』技でした」
……やりやがったよオイ。
「……非常に興味深い技術ですね……少々お借りしても? 」
「はい、もちろんですわ」
にこやかに杖を渡すミリアとは対照的に、サーツ王女は真剣な表情で杖を受け取った。それから、試しに魔力を流し込んでみたり、簡単な術を――俺と戦ったときに使った槍とか、一度結晶を作って割ってそれをくっ付け直すとか――色々発動させてみたりして……かなり難しそうな顔をした。
当惑したマイルがサーツ王女に尋ねる。
「結晶魔術は不得手なので私にはよく分からないのですが……サーツ様も可能なのでは? 」
だが、サーツは首を横に振った。
「確かに水晶以外の宝石を生成することも出来なくはありませんが……あそこまで大きなものは無理ですよ。もっと言えば『魔石化』することなど……試したこともありませんでした……恐らく結晶魔術の中でも極大級……『晶王術』に相当するでしょうね……」
『晶王術』……専門家の見立てに思わず眩暈がする……
魔術にはその威力・会得難度などから『魔導貴爵位』や『魔導級』というランク付けがされている。前者(後者)のように書くと、下から順に庶術(初級魔術)、男術(下級魔術)、子術(中級魔術)、伯術(上級魔術)、侯術(一級魔術)、公術(特級魔術)、そして王術(極大級魔術)という風になる。
もっと具体的に言えば王術は多分旧ヌメロス国の全魔導士(王族除く)が集まってでやっと一発撃てるぐらいの魔術であり、それが攻撃魔術なら国一つが滅びるレベルの威力があるマジでヤバい魔術なのだ。
冷汗を垂らしながらミリアが耳打ちしてきた。
「これはもしかして……私……やってしまいましたか? 」
「……間違いなくな」
魔石は杖の先につける魔術触媒として最上級の代物である一方で、本来宝石以上に産出しない超希少なモノである。
そして今の『杖を一瞬で作り上げる』技は地味に……いや紛れもない国家機密なのだ……何せ、ミリアが作り出す杖は五国どころか外界の……魔導府やら聖天協会やら、悪魔契約者団やら買い手がいくらでも着く。何なら歳入のニ、三割が『杖の売却』だ。
今作り出した杖はミリアの中では手抜きも手抜き、せいぜい『三流品』ぐらいだがそれでも市場に出せば『一級品』扱い……本気で作れば秘宝レベル。
そのためミリアは無闇に杖を作ることを『禁止』されている。だというのに……
「なんでやっちゃったかなぁ……」
「だ……だって……他に思い当たる節がなくて仕方なく……てへぺろ♪」
「てへぺろ」じゃねぇよ!!!!
「禁止って言われただろ……!! 」
「すぐ壊せば問題ないかなって思いまして……」
「そういう問題じゃねぇから『禁止』なんだよ……大体他にもあっただろ……絵とか」
「絵? あっ……あぁ……」
基本的には聡明なはずなのにどこか抜けててかわ…天然な王女様は納得すると同時にはにかんで見せた。
「センスとは違って、人に見せられるほど優れたものではありませんので…」
「何でそこで無駄に謙虚さを発揮するんだよ……!? つかむしろ杖作りのが人に見せたらマズいって分かるだろ……」
「だ……大丈夫ですわ! 私には考えがありますから」
どこからそんな自信が湧くのか、妙にキリっとした顔をしている。
……なんかもう嫌な予感しかしない。
「サーツ姉様、マイル執事長!! 」
ミリアはブイサインにウィンクを加えながらお茶目かつかわ…愛らしく『お願い』をした。
「今見たことは内緒という事でお願いしますわ♪」
アホォォォォォォォォッ!!!!
「ふふっ、構いませんよ」
「サーツ様……わ……私はサーツ様の決定に従うまでです」
優しく微笑むサーツ王女に、困惑気味のマイル執事長……
そりゃそうだろうさ!! ここで普通『イヤ』って言うわけねぇだろ!! でもまず確実に嘘だろうな!?
あるいは弱みを握ったともいえるだろう……
わざわざ『内緒にしてくれ』なんて約束するほどのことが弱みにならない訳な…
「考えてもみてください……旧ヌメロス国全土の魔導士を集めて漸く一度使える魔術を、『たった一人でそれも発動させてなお余力を残している』なんて馬鹿げた話……誰が信じますか? 」
確かに……いや……でもなぁ……
と、俺が納得していないのを察したのか、彼女は人差し指を立てた。
……そんなに俺は顔に出やすいのか?
「信用していただけないならば……そうですね……僕も大切なものを一つ、お渡ししましょう」
そう言うと、なにやらハガキ大の……つーか見るからに写真っぽいものを取り出そうとした。そこには赤髪の少女が恥ずかしそうにしているのが映っている……ってこれ……
「この『マイルの女装ブロマイド』を…」
「サーツ様ッ!!!? 」
被写体が顔を真っ赤にして非難した。
……余談だがこの人は女顔なのもあってか事ある毎にサーツ王女の手によって女装させられている……
最初に会った時――サーツの国、第六王女の国、この国の国合同舞踏会の時――も女装させられていて……うっ、頭が……
「冗談ですよ」
「冗談も大概にしてください!! 」
マイルに何と言われても微笑みを一切崩さず、とんでもない事を言ってのけた。
「『僕を顧客にする権利』を差し上げます♪」
「えっ」
……は?
はぁぁぁあああぁぁあぁぁあぁ!!!?
ご覧いただきありがとうございます。
次話投稿は……不明です!(20/01/26現在)
本当にごめんなさい!!
気長に御待ちいただけると幸いです。
20/01/30
『魔導貴爵位』に割と致命的なミスがあったので修正しました。
具体的には『公』と『伯』の間に『侯』があるのを忘れていました。
なんか数が合わねぇなとは思ったんだよなぁ……