No.12 訪れと驚き(4)
※またしても下ネタというかエロを含みます。苦手な方はご注意ください。
翌日、サーツ姉様は退屈そうにしていました。
王女宮の中庭で、センスが紅茶を持ってくるのを待っていたのです。
「それにしても難儀ですね……王女宮は……」
御姉様は魔導伝話機――外界(ヌメロス国含む五国を囲む大結界の外)のスマートフォンをリバースエンジニアリングし、魔道具としてそれを再現したもの、すなわち魔道具版スマートフォンですね――をくるくる回しながらぼやいていました。
勿論外界のネットワークとは繋がりませんし、ヌメロス国内でもアンテナのない場所や城内のように結界で封じられた場所などではネットワークに繋げることはできないのです。
余談ですが、私は王女宮内用、城内連絡用、城外連絡用、緊急連絡用、国外用などなど心配性なデシ大臣によって無駄に多く持たされています……こういった物から無駄を省くべきだというのに……
「ゲームの一つもできないなんて……」
「ゲーム……ですか? 一応存じ上げているつもりですが……」
主に副執事長がこの手の物を好き好んでいるようです。というか私と年が近い人でやってないのはセンスぐらいですね……
「あぁ、ミリアはあまり興味はありませんか……ほら、このゲームなどは魅力ある男性キャラクターが多くて……」
えっ……意外ですわ。
サーツ姉様がマイル執事長以外の男性に興味を持つなんて…
「マイルをやきもきさせるのに丁度いいのですよ♪」
「あっ、そういう楽しみ方なのですね……」
「特にマイルと全く違うタイプのキャラを愛でるとあからさまに似せてきますからね……とても愛らしいですよ? 」
「あはは……」
マイル執事長もお気の毒に……
センスに同じことをしたらきっと当分口を利いてもらえなくなりそうですわ……尤も、するつもりもありませんけど。何せ本当に単なる友人程度だった他国の王子様と少々談笑した程度で物凄く冷たくされたこともありましたし……
「ふふっ……ミリアも試してみますか? 」
「生憎、ここは圏外ですから……それに軽い焼餅で済めばいいのですがセンスの場合はその……かなり拗れるので遠慮させていただきますわ」
「ふぅん……? 愛されていますね♪」
「そうだと嬉しいのですが……反面、私の愛を信じて頂けていないようにも思えて寂しいですわ」
と溜息をついていたら……
「お前も昔俺の部屋に何度も入り込んで勝手に本を漁って…」
「わぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!? 駄目ですわっ!!!! それ以上は言わないでくださいませ!!!! 」
センスがとんでもない……もといあることない事を口走ろうとしました……
違うのです……センスが宿直室でどのように過ごしているのか気になって……それがたまたま彼が不在だっただけで……それでたまたまギルやティーから「ベッドの下」の話が頭をよぎってしまって……
とにかく若気の至りだったのです……
「というかいつからそこにいたのですか!!!? 」
「サーツ王女が魔伝機ゲーにハマってるって辺りからだな……ということで紅茶を御持ちいたしましたよ、御嬢様方」
「……失礼ですよ……乙女の会話を立ち聞きなんて……」
サーツ姉様が少し不機嫌そうにむすっとしていました。
すると今度は眼鏡をかけた青髪の青年がどこからともなく現れ、憂いを帯びた瞳でサーツ姉様に語り掛けました。
「……俺はサファイア……たとえこの身が傷つこうとも砕け散りはしない……だから俺の後ろに控えてくれ、姫。俺は絶対にお前を護…」
「きゃあぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁ!!!? 」
サーツ姉様が顔を真っ赤にして絶叫しました。
……何故でしょう? 魔力パターンからしてマイル執事長が化けているだけなのに……?
などと思っていると、今度は藍色の髪に星の髪留めを幾つも着けた、無邪気そうな少年に化けました。
「ぼく、ラピスラズリ! 姫様をおまもりするため、全力でがんばるよ!! ……ねぇ姫様、『お姉ちゃん』って呼んでもいいかな? 」
「マイル!!!! やめてください!!!! 」
御姉様はもう必死でした。
「……何ですか今の」
「『ストーンズ・プリンス』ってゲームのキャラ、サファイアとラピスラズリだってさ。マイル曰くサーツ王女のお気に入りキャラらしい」
あー……「あからさまに似せる」ってそういう……
それにしても「目の前でわざとキャラクターを愛でて見せることで焼餅を焼かせる」とのことではなかったのでしょうか……?
「ちがっ……違います!!!! あくまでマイルを揶揄うためにプレイしているだけであって…」
「マイル執事長も大変だな……毎晩毎晩いろんなキャラ演じさせられてシーン再現とか……一体どんなプレイだよ」
つまりマイル執事長がいじけてそのキャラに扮して見せて、最初は彼の様子自体を楽しんでいたはずが思ったよりも忠実に再現するものだから楽しくなってきてエスカレートしたと……サーツ姉様……随分と楽しんでいらっしゃるのですね……
「あはは……」
「違いますからっ!!!! 」
「……いいんです、私は……サーツ様に楽しんでいただければ……その為なら『普段はクールなのに実は情熱的なキャラ』にでも『ケダモノのような俺様キャラ』にでも『純朴な年下キャラ』にでも化けて魅せます……!! 」
「誤解を招く言い方はやめてくださいよ!!!! 」
「それにしてもマイル執事長……凄いですね……それは『模倣影』ですか? 」
『模倣影』……それは影属性の魔術で、任意の姿に化けることができる……のですが基本的には顔の印象を変える程度が限界で、彼のように体格や服装まで似せることができる術者は稀なのです。
「ええ……影魔術は得意なので……『模倣影』!! 」
ちなみに変えられるのは『影形』……つまり視覚情報だけなので、声を変えるのは彼自身の努力の賜物らしいです。
さて、今度はどのような姿になるのかと少々わくわくしていたのですが……そこには黒の絹帽子の鍔を何故か左手で右側をつまみ、銀の細工が施された黒く何故か膝丈以上に長い外套を羽織り、何故か逆立った金髪と青い瞳、何故か右手で地を指さし何故か脚を交差させた少年が立っていました……ってこれって……
「ククク……小娘よ、残念だったな。貴様が信じる神ではない……俺は邪神の落胤、ハイドス・ロキ・エルダークだ!! 」
「あ、この間(※No.6参照)の……」
「うっわぁ……そのキャラでもプレイしたのか……」
「だからしてませんって言っているではないですかっ!!!! というか僕もそのキャラは今初めて見ましたよ!!!? 」
「ふん、偽るのならばもう少し冷静になってはどうだ? ここ数週で一番楽しんで…」
「調子に乗らないでくださいっ!!!! 」
「ぐはぁ!!!? 」
結晶魔術による制裁がハイドス……もといマイル執事長に襲い掛かりました……少々理不尽なような……
肩を怒らせ、サーツ姉様がため息をつくのに対し、マイル執事長はしょんぼりとし、センスは呆れていたようでした。
「全く……僕が教えた演技や変装の技術をよくもまぁここまで悪用できたものですよ……」
「サーツ様、あんまりです……」
「楽しんでおいてよく言うな……」
「~~っ! 二人とも、喧しいですよ……! 」
二人の態度が余計にサーツ姉様の機嫌を損ねたようです。
「それにそういうマイルこそ……『玻璃礼装』」
サーツ姉様の御身体を、結晶が覆っていき……姿を変えていきます……
影属性とは別に、晶属性にもまた姿を変える魔術があるのです。これも本来は『服装』を変えるのが精一杯なはずなのですが……御姉様ほどの術者ならそういう芸当も可能なのでしょう。
って……サーツ姉様……!?
「こういうモノに興味がおありなのですよね……? 」
「わぁあぁぁあぁぁあぁぁああぁぁ!!!? 」
……そこには、サーツ姉様とは全く別人の顔で、髪形は御姉様の従妹であるフラクト様に似たウェーブのかかったもので、健康的な小麦色の肌が印象的でした……そして何よりビキニ姿でした。
センスが「おぉ……」とか鼻の下を伸ばしていたので軽く咳ばらいをすると、ばつが悪そうに頬をかいていました。全く……
「君はベッドの下や本棚の裏以外に隠すことを覚えた方がいいと思いますよ」
「サ……サーツ姉様!? 何て破廉恥な……」
「って言うかあんた自身はそんな格好で平気なのか!? 」
「ふふっ……何か勘違いしているようですが、これは『着ていないように見える』だけであって、『実際の僕が着ていない』訳ではないのですよ♪」
なるほど……すなわち、『玻璃礼装』で「水着姿に見える」だけであって着ていないように見える部分も素肌ではなく不透明な結晶が覆っている……だから恥ずかしくないと。
……そう言う問題なのでしょうか……?
などと思っていると、サーツ姉様はセンスの方を見ていました。ただ、御姉様の瞳が普段よりも妖しく、艶めかしく光っているように見えました……
「そんなに気になるなら、試してみますか? 」
「サーツ様!! 一体何をなさるおつもりで…むぐぅ!!!? 」
何かを察したマイル執事長を結晶のロープで拘束して……センスに詰め寄っていきます……
「た……試すって……何を……? 」
「……お判りでしょう? 」
それは信じられない光景でした。
戸惑うセンスの右手を掴みながら、御姉様は流し目を送ったのです……
サーツ姉様は普段こそ揶揄っているもののマイル執事長を寵愛していて、そして私がセンスを心の底から愛しているということを知っているはずなのに。
「え!? 何何何!? マジなの!!!? 」
「サーツ姉様!!!! 御戯れが過ぎますわ!!!! 」
慌てて恥じらいつつも劣情めいた期待を隠せないセンスの声も、今目の前で起こっている現実を拒絶する私の叫びも、マイル執事長の藻掻きも、全てを無視して彼の手を自分の胸元へと引き寄せて……
頭が真っ白になりました。
嫌……いや……!!!!
「だ……駄目ぇぇぇぇぇっ!!!! 」
その指先が触れるまさにその時、ばちんと何かが爆ぜるような音が鳴り、センスから御姉様が引き剥がされました。
その勢いのままに御姉様は地面に倒れてしまい、結晶魔術が全て解けたのか、御姉様の姿は元通りに戻り、センスと解放されたマイル執事長は呆然としていました……
私は何が起こったのかは分かりませんでした……
しかし私が『何かをしてしまったこと』だけは辛うじて理解できました……
「あいたたた……」
「サ……サーツ姉様っ!!!? 御無事ですか!!!? 」
「大丈夫ですよ、転んだだけです……皆して大袈裟ですよ……大方無意識のうちに『斥力』を放った程度でしょう」
「も……申し訳ございません……私が……私にもどうしたらいいかよく分からなくなって……気がついたら御姉様が……」
「そんな弾みで殺したような言い方はやめてくださいよ……見ての通りぴんぴんしていますから……」
スカートの埃を払いながら、サーツ姉様がゆっくり立ち上がりました。
「というより……ミリアも知っているでしょうに。センス執事長も手を握られたとき気づかなかったのですか? 」
え?
「……あ。確かにガラス触ってるみてぇな感触だったわ」
「全く、本当に揉ませるわけがないでしょう……ね♪」
……
「何が『ね♪』なん…」
「何が『ね♪』ですか!! 御姉様の性悪!!!! 意地悪!!!! 人でなし!!!! 」
いくら何でも酷過ぎますわ!!
……武力行使をしてしまった私にはもっと非がありますが……!! それにしても……それにしたってあんまりではないですか……本当にセンスを奪われてしまうかと……
「ははは……ちょっとした冗談ではないですか」
「冗談でもやっていい事と悪い事がありますわっ!!!! 御姉様はヌメロス王族として高き誇りと理想の元、行動をしていらっしゃると信じていたのに!!!! そんな人前ではしたない事をなさるなんて!!!! 」
「……その理屈から言うと、今の君の状況はどうなのでしょう? 」
……え?
そういえば何故、センスが顔を赤らめて目をそらしているのでしょうか……?
えっと……たしか……サーツ姉様にセンスを取られてしまうと思って……袖を掴んだつもりが……腕を……抱え込んでしまって……って……
「うわぁあぁぁあぁぁぁ!!!? 申し訳ございませんわ!!!! センス!!!! 」
「……いやむしろごめん……役得というかなんというか……そのね……」
……え??
センスが神妙な面持ちで何かをぶつぶつと考え込んでいます……というかこれ、大抵はしょうもないことを考えている顔なのですが……
一体何の話でしょ…
「ガラスより生のがいいのはもちろんだけど……アレだな……『揉む』ばっかりだったけど案外『挟まれる』のもアリだな! 」
「~~~っ!!!? 馬鹿っ!!!! 」
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