表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PSYCHOKINESIS-ESP NIGHT-  作者: ユキヒラ
INNOCENCE<無垢>
17/19

IMPORTANT<重要>

目を覚ますと、そこは真っ白な光の中だった。

奈意斗が体を起こそうとすると、自分の手足が動かないことに気が付いた。

「やあ、起きた?エスパーの能力っていうのは、最新の研究で一時的に止めることができるようになっているんだ。脳機能を低下させる毒物を調整した合成麻薬を投与することで・・・」

リードは興奮気味に語っているが、半分も奈意斗には聞こえていなかった。どうやら自分は、毒を体に入れられたらしいことは理解できた。


カーンは、リードによってつなげられた腕を見ていた。自分の体に血が流れていることを初めて知ったような気がする。

先ほど、奈意斗を研究所に拉致した。リードは彼を研究したがっていたし、確かにサイコキネシスは強力な武器だから研究しといたほうがいいだろう。

それより問題は、残りの連中だ。ドーベルマンというあの男はかなり切れ者だ、そしてユナと言っていたあの女も奈意斗と同じ感覚からすると、エスパーだろう。

エスパー同士は通じ合うという経験上の感覚がある。これはカーンだけだけじゃなくて、多くのエスパーが感じることだった。

まあいい、しばらくはバレないだろう。その前にこの男を処分してしまうのだ。ミホがこの男を欲しがっていたし、引き渡すか。最悪の場合はジャックの残した体液もある。すぐに灰だ。

それに、奈意斗を捉えたときもそうだが、大体100名程度の私設兵団がある。キメラウィルス環境下を生き抜いた、プロの格闘家を含め研究所防衛のために雇っている。そう簡単に研究所を制圧することはできない。


「つまりだ、天然物君、君はもうここから逃れられないのだ」

カーンが心の中で思ったことと、ほぼ同じことをリードが奈意斗に言っていた。


奈意斗は絞り出すような声で言った。

「僕の能力を解析してどうするんだ」

リードは嬉しそうに質問に答えた。

「キメラⅡの解析が終わったら、次はエスパー個性の研究をしたいんだ。我々は同じ遺伝子スプライシングにより作られたたんぱく質によってエスパーとしての能力を発生する。しかし皆そのエスパーとしての能力はみんな違うんだ、なぜその違いが生まれるのか非常に興味がある。特に君の持つ能力サイコキネシスは、どの能力よりも強力な力だ、これは研究しがいがあると思わないか。」

奈意斗は無視した。もう体がだるくて仕方がなかった。質問したのは意識を保つためだ。

だがそれももう無理そうだ。


病室でユナは胸騒ぎが止まらなかった。サイコメトリーは人間の残留思念を読み取る能力であり、掌を通して思念を読み取るわけだが、それは近距離にて、特に接触にて能力を最大限発揮できる。しかし仮に遠方でも、その残留思念が感じ取れないということではない、かすかに思念を感ずることがあった。つまりユナの嫌な予感は普通の人が感じる嫌な予感よりも根拠があった。それはドーベルマンも知っていた。

「奈意斗君か」

ドーベルマンはユナから話を聞いて、そう呟いた。ユナは奈意斗の身に危険が迫ったことを病院のベットから感じ取り、ドーベルマンを病室に呼び出していた。

「ドーベルマン、すぐにこの近辺で何か騒ぎがなかった調べてほしいの。奈意斗はおそらくサイコキネシスを使ったと思う。」

「確かに身に危険が迫ったとすれば、サイコキネシスで応戦しただろうな。」

ドーベルマンはすぐさま、近隣の騒ぎをピックアップした。

ドーベルマンもユナ程では無いが胸騒ぎを覚えていた。今、奈意斗を失えばエスパーとの戦いに勝つことはできないだろう。しかし同時に不安もあった、奈意斗の人間性である。エスパーとの戦いが終わった後、奈意斗はどう生きていくのだろうか、もしも彼がその目的を人類に向けたとき、今戦っているエスパーのような、それ以上の脅威になるのではないか。しかし、それを考えて頭を大きく振った。

「いかんいかん、勝ってもいないうちに勝った後のことを考えたらいけない。」

ドーベルマンは敢えて口に出した。自分に言い聞かせていた。本当は思考すべき問題を後回しにしているだけではないのか、一つ終わってから、次のことを考えるでは遅くなる瞬間があるのではないか。


ドーベルマンが病院から近くにある安居酒屋での事件を耳にしたのはそれから3時間後だった。

ドーベルマンの命令で動いていた特殊警察は、この事件をただの喧嘩という報告で聞いていた。確かに死傷者は出ていなかった為、結局ちょっとおかしな男が暴れただけのただの事件という認識だった。しかし複数の兵士が一時的に占拠したなどの情報があり、詳しく調べてみるとサイコキネシスと思われる能力の使用が確認されていた。ドーベルマンはすぐに現場を占拠していた部隊の詳細について調べだした。ドーベルマンは、この時には既にその部隊の正体を検討つけていた。

ドーベルマンはロシア軍の重鎮で有り、それなりに情報網も持っているし、ロシア軍全体も把握している。そして、秘密部隊と言われる存在も数多く耳にしている。もっともそのほとんどは、ただの噂だが。

ドーベルマンが知る限り、ここ数時間で軍隊の出動は無い。その一方で、ロシア国内の秘密部隊でも有名どころといえば、国立研究所の私設部隊がある。ドーベルマンは奈意斗が研究所にいると何となく確信があった、その直感が勝手に国立研究所の私設部隊をイメージさせていたのだった。

もしその想像が正しければ、国立研究所の私設部隊と一戦交えるかもしれない。今WHOにその部隊は無い。しかもロシアは表向きWHOに協力をしてはいけないことになっている。

だからドーベルマンが考えていたのは、同じく秘密部隊を使うことを考えていた。

ドーベルマンは電話を取り、とある場所に連絡をかけた。

「私だ」

野太い声が聞こえてきた。

「久しぶりだなベルク。ベルク・バスターンズ大佐、どうか私に協力してほしい。オメガスペツナズを使いたい。」

野太い声の男はベルク。ベルクはロシア軍最強の部隊と言われているオメガスペツナズのリーダーである。オメガスペツナズは表向きその存在を世界に知られていない特殊部隊でソ連時代から存在する、同時にその名称は特定の部隊を示す場合と、複数の特殊部隊を示す場合の二つがあり、さらには戸籍まで抹消された人間たちで構成される闇の部隊だった。俗称をプリズラクという。

ベルクは、プリズラク史上最も優秀な部隊リーダーだった。

「プリズラクを使うか。国が表向きWHOに手を貸していないことをアピールしたいわけだな」

「私の友人がおそらく国立研究所にさらわれたようで、救出したい」

ベルクが電話口で笑ったのが聞こえた。ロシア軍の重鎮が、友人救出のためにプリズラクを動かすということを職権乱用だと思ったのだ。元来、このドーベルマンがそういう男でないことをベルクはよく知っていた。

「国立研究所、独自部隊がいるという噂だが、そこと一戦交える可能性があるのか。そんなことをするからには、君の友人が国立研究所に誘拐された証拠をちゃんと見せてくれるのか。それに、本来は交渉で解決すべき問題のような気もするが。」

ベルクは少し意地悪をしたくなったところもある。プリズラクの存在価値はそもそも人知れず敵勢力を排除する、作戦が決まればそこに証拠や意義など聞くことはないし、無いことだってある。

一方で国立研究所のような国内の重要施設もしくは勢力を相手取るにあたっては少し事情が異なるとも思っていた。

「研究所はエスパーに占拠されている可能性があるとしたら」

ロシアの組織内でも、エスパー関連の事情をよく知る人間そんなにいない。ベルクも噂程度に聞いていたが、あまり本気にしていなかった。しかしドーベルマンほどの男からその話が出たとすれば信じざる終えなかった。

「なるほど、WHOが訳のわからんことをしているし、ロシアも裏から援助しているし、ちょっと気持ち悪いと思っていたんだ。そういうことなら取り敢えず納得いくな。しかし、長生きはするもんだな、エスパーなんてSFなことをこの年になって知るとは」

まるで老人のような言い方だが、ベルクは45歳である。まだ半信半疑で有ったが、詳しく話を聞いてみようと思った。

ドーベルマンはことの経緯をベルクに話した。


ユナは、ドーベルマンから連絡を受けて例の安居酒屋に向かった。

現場に着くと既にヴァルが中を見て回っていた。

「ユナ、大丈夫なのか」

ヴァルは痛々しい右手を持つユナを見て心配になった。ヴァルにはサイコメトリーの能力は無いが、右手を切り落とされる痛みや恐怖を想像してみると何とも言えない気持ちになった。

「ヴァル、平気よ、ラーメンは食べる、左手でもね」

ヴァルはそれを聞いて少しむかついた、自分の心配を無視にされたようで、少しむかついた。

ユナはも同時に、ちょっとヴァルの表情がゆがんだことに気付いてしゃべった。

「いやそんなことどうでもいい…」

「冗談よ」

二人は、同時にしゃべってしまった。

ユナもヴァルも同じことを思っていた、“しまったこの人とは間が合わなかった。”

「ああ、ごめん、で、どうしようか」

ヴァルはあたふたしてしまった。ユナはヴァルがあたふたしてくれたので少し冷静になれた。

「とりあえず、見てみる」

ユナは血が付いた壁、机、ハサミを中心に奈意斗を含めた残留思念を探った。

すぐに、カーンと奈意斗が一時的に戦ったことを感じたし、そこにいる兵士たちは国立研究所の私兵とわかった。

「ドーベルマンに報告しよう。確かに国立研究所の昨晩の記録を見ると、何かが運び込まれてるし、私兵部隊も動いている。」

ヴァルは既に研究所にハッキングしてデータを見ていた。

「大変なことになりそう。でもなんでこんなことを」

「研究所は奈意斗の情報を知っていたといことだな。危険と判断して早急に対応を打ったんだろう。君がいることを知らなかったのは奴らも運が悪い」

ユナは少し考えて返事した。

「いえ、それでもやりすぎよ。」


ユナとヴァルはドーベルマンのもとに戻った。ドーベルマンは報告を聞いた後、少し深い息を吐いた。

「つまり、ユナ、君の言いたいこととしては、ロシアにおけるエスパーの活動は終わりを迎えたということか。」

「そう、極端な行動に出るときは終局が近いときよ、経験上ね」

ドーベルマンは自分より数十歳若い女の子の経験則を信じることはしなかったが、自分の経験則を信じた。

「私の経験上もそうだ、終局の意味するところは解らんが、キメラⅡは完成したということか。ロシア国立研究所も用済みか」

ドーベルマンは基本的な作戦を既に決めていた。

ドーベルマンとベルクは大統領にも確認をとり、ドーベルマンに本作戦を全権委任することで合意した。

ベルクは戦いの準備を進めていた。敵の勢力の正確なところは分からないので、奇襲にて研究所に侵入し、研究所管理室を占拠する。ドーベルマンの友人の場所を確かめ速やかに救出、ドーベルマンから聞いていたカーンおよびリードの二人はまず確保を優先とするが場合によっては殺害して被害を最小限に抑える。研究所自体はウィルスおよび危険な化学薬品も多い為、いかに抵抗を受けずに戦うかも重要である。

研究所の構造は、地上に出ている研究棟で15階建て、地下は10階建ての構造になっている。ブルーアイズやキメラⅡも地下7~10階に位置している。基本的にバイオハザードを起こすような生物兵器は地下で研究がされており、地上では管理オフィスや化学研究室などが多い。

奈意斗の隔離はおそらく、地下10階で行われていることまでがヴァルのハッキングでわかっていた。

地下と地上を繋ぐ階段は一か所で、エレベーターなどのその他通路はない。

有事の際は階段入口から地下1階までにある20枚のシャッター閉まり、地下すべては焼却廃棄される。それらは、地上5階、15階にあるセキュリティシステム管理室で操作される。

この為、管理室を押さえる事と奈意斗の救出を同時に行う必要があった。

この作戦で最も危険なのはカーンやリード以外にエスパーが存在する時の対処だ。特にミホが出てこないかどうかが不安だった。

ミホについての対策は、不意打ちの日本刀に耐えうるアーマーの装備だ。しかし全隊員に装備させるわけには行かず、一部の隊員をミホとの戦闘用の装備を施した。

彼らの役目はミホから他の隊員を守り、任務完遂を達成する事だった。

ミホ以外のエスパーが出た時、瞬時に判断できるためにも、当該情報を既に頭に入れているユナとヴァルがそれぞれ担う。

管理室制圧部隊をA班、救出部隊をB班としてそれぞれ50名ずつに別れた。A班はベルクが直接指揮を取りヴァルが補佐についた。B班はプリズラクの副官の一人であるアドリアンが指揮を取り、ユナが補佐についた。

「ユナ、本当に平気か。」

ヴァルは少し不安だった、ユナはまだ作戦に参加できるような体じゃないと思っていた。

「ええ、ヴァル。私は志願したの。ブルーアイズにも、もう一度会いたくて。彼女を助けなきゃ」

ヴァルは助けなきゃと語るユナに少し違和感を持った。

「ユナ、君はなんでそんなにブルーアイズに拘るんだい。」

ユナは少し悩んだが、しばらくして

「わからないわ、でも彼女をスルー出来ないの。」

その会話にベルクが入ってきた。

「君が、ユナか、エスパーの。」

少し、高圧的に感じて、ユナは嫌な顔をした。

「まあ、君のことはドーベルマンから聞いたんだ、そんな顔をするな。君のことを恐れているわけではない。」

「いや、恐れるべきよ、あなたの恥ずかしい過去も全部見えるのよ」

ベルクはそれを聞いて大声で笑いだした。

「そういう攻撃的な女はいい。あまり無理をするな。アドリアンを信用してくれれば奈意斗とやらも、ブルーアイズとやらも救出できるだろう。君にとってはどっちも大切なんだろう。ただし、何のために大切なのか考えた方がいい。なぜ彼らが大切か考えた方がいい。命を懸けて守るほどの価値があるか考えることだ。」

ユナはこの時、この言葉の意味を深く考えられなかった。ただ少しこのベルクへの嫌悪感から言い返さないといけないと思った。背中を向けて立ち去ろうとする彼にぶつけた

「じゃあ、あなたは何の為に戦うの」

ベルクは立ち止って首だけ振り向いた。

「人を殺すことが生きがいだからだ、そして簡単な殺しに満足できないからだ」

ユナもヴァルもその表情を見てぞっとしたのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ