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PSYCHOKINESIS-ESP NIGHT-  作者: ユキヒラ
PROPENSITY<性癖>
14/19

TALK

奈意斗はユナが病室に戻った後、近くの飲み屋に入った。酒は飲まないが、とにかくお腹がすいた。まともにご飯などないのだが、それでもつまみぐらいある。最も豆のスープとかその程度だろう。


 酒場に入る。昨日近場で原因不明の事件がおきたにも関わらず、昼間から飲んだくれが多いのは、この時代も昔も変わらない。奈意斗から言わせれば、酒は毒以外の何物でもない。人が酒を飲む理由は、現実を逃避する為だ、現実に向き合えないからだ。

 そうやって逃げ続けるのが人間だ。都合の悪い現実、見たくない今、忘れたい過去、全てを狂ったフリして忘れる為に酒が必要なのだ。


 時々不思議に思う。ユナが以前話した、人間の世界は人間の意識によって形作られているという話。そうであれば自分で作った辛い現実から目を背ける為に、自分を壊すのであれば、別に酒よりもっと楽な方法がいくらでもある。結局人の意識というやつは、当人の意識で制御できないものなのかもしれない。その理由は意識の深層で我々がつながっているから、自分の表層状の意識だけでは自分の現実は制御できないということか、それともそういう現実すら自分が望んだものだとでも言うのか。


 酒を頼まず、豆のスープだけ頼んで周りを観察しながら見ていた。酒に酔って喧嘩するもの、それを観て楽しむ者、何も考えていない者。


「ここ、いいかな」

 そう話しかけてきたのは聞き覚えのある声だった。

 その男は、奈意との対面の椅子をひいて座ったその男はカーンだった。


「カーン、今は昨日の事件の被害者について調べているはずじゃないのか」

「それはリードのような研究者の仕事だ。私は事務員だからな」

「じゃあ、その事務員がどうしてこんなところに?」

「私の仕事は研究所を守ることでね。」

 一連の会話から、奈意斗は自分のことをある程度ばれたことを悟った。

 そっと、近くに落ちているナタを引き寄せようとした。

「やめておけよ、私はナタでは殺せない。斬りつけようとするとゴムのように体が伸びるんだ。鉄壁の防御力を持っていると自負してるよ」

 サイコキネシスの能力まで知られているようだ。


「流奈意斗、日本でサイコキネシスを使ったエスパーだな。ハリーを殺し、昨日はジャックを殺した。ミホが気に入ってた男だな」

 カーンはすでに奈意斗について調べ尽くしていた。

「僕は君らの敵として考えられているわけだ。この場で僕を殺すのか」

「いや、特に我々のリーダーは、何も言っていない。革新者をわざわざ殺す道理はない、私も同感だ」

「リーダー、ミホのことか」

 カーンは黙っていた。組織の内部事情を教えるともりはないらしい。

「革新って何のことなんだい」

「うるさいな、私の判断で、この場にいる複数人の人間と共に殺すこともできる。だから穏便にすましたかったら、二つのことを教えてくれ、一つWHOが今更査察などと言うことを行う理由、二つ君の存在理由だ。」

 奈意斗は答えるつもりがないまま、周りに武器になりそうなものを探した。厨房近くに見えるナタを誰にも見えないように少しづつ引き寄せた。

「君たちは、人間を滅ぼす為に、復讐の為にこんなことをしているのかい?」

 奈意斗はカーンの問いを一旦無視して答えた。

「勘違いしているよ、僕たちのほとんどは感謝してるんだ。君たちの価値観と違う。我々は進化した高度な人類として生まれた。人によって成された進化の結果だ。だから、恩返しをすべきだ、そう思わないか。」

 カーンのような立場の人間は、昔のアニメやドラマでは、自分の命を弄んだ人間に対する復讐とか、生きる場所を探すと言った理由で人間と対立することがある。しかし、カーンは人類と対立したり、恨んだつもりはなかった。根本的に価値観が違うのだろう。

「我々が目指したことは、人類にはわからないと思う。ほらサルは人間の考えていることが解らないだろう、それと同じだよ。」

 カーンはそういうと、奈意斗が引き寄せたナタを足で押さえつけ、その後拾い上げた。

「で、答えは」

 奈意斗は表情を変えていない。

「奈意斗君、私のことは知っているのかな、私の体は弾力の強いゴムのような素材でね、基本的に銃で撃たれても、剣で切りつけられても、吸収できるんだ。なたで私の手を攻撃しても跳ね返るだけだよ」

 カーンはナタをナイトに見せながら、自分の腕に振り下ろした。一瞬手が潰れたものの、ナタはそのまま跳ね返った。カーンの腕は無事だ。

「カーン、キメラⅡは人類を滅亡させるようなものでは無いんだな。君たちの狙いはやはり革新か」

「驚いたな奈意斗君、君はキメラⅡについても、知ってるのか。どこまで調べているのか、侮れないな。君は、それとも君たちのチームはかな。」

 奈意斗は、革新ということについて仮説を考えていた。


「超能力は世界を変えると思うのか」

「ああ、人類は進化する」

「支配者になれるということか」

「いいや、支配者は我々だ」

「しかし、革新を目指したんだろう」

「ああ、革新を目指した」


 問答が続いた。


「やはり、君たちが目指したのは支配か」

「革新といったろ」

「革新という名の支配だろう」

「いや、支配は既に終えているのだ」

「どういうことだ」

「我々は優れているからな」

「まだ抗える」

「その通り、だから君が邪魔なんだよ」

「僕が?」

「その通り、だから教えてあげるんだ。なあ、支配する側に回れるとしたら。」

「そもそも」

「そもそも、なぜ、君は気づいてるだろう、君は支配者になれる、知っているのだろう、キメラウィルスは君に意味はない」

「だけど、」

「だけどなんだ、え?」

「・・・」

「正義か、人類が我々にしたことを知って、なおそういうか。人間はより高度の存在に支配されるべきだ。いや、人類が正義を捨てたのは我々のような支配者を生み出すためじゃないのか」

「人類に感謝してるんじゃないのか」

「ああ、感謝しているさ、人間が正義など捨てたおかげで、我々は生まれた。我々は新しい正義となる、もし正義だなんだというなら、我々の側に来ればいい」

「僕は一度も、人類とか正義なんて考えたことはない」

「そろそろ私の問いに答えたらどうだ、奈意斗君」

 カーンはそう言って奈意斗を見た。その瞬間、奈意斗から恐ろしい殺気を感じた。たった、一瞬たじろいだ。


「僕が君たちと戦う理由、それはただ、楽しいからだ」


「うあー」


 カーンの腕が吹っ飛んだ。

 奈意斗は話しながら、厨房にあるハサミを少しづつ引き付けていた。ゴムもハサミで切れば問題ない。ナイフで無理ならハサミだ。ただし、ただのゴムではない。人間の腕だから、大量にの血が飛び散る。

 店内は、パニックになり、多くの人が逃げ惑った。


「答えが知りたいなら、教えてやる。」

 奈意斗は飛び散る血しぶきをサイコキネシスで動かして壁に文字を書いた。

 пошел ты


 奈意斗は、うずくまるカーンに近寄った。

「一対一で僕に勝とうなんて思う方が間違えているんだよ。昨日死んだジャックだってそうだ。僕は、君たちを殺す、全員殺す。」


 カーンは笑いがこらえきれなかった。

「流君、君は頭がいい。それはわかった。でもまだ世間を知らないようだな」

 奈意斗の体中に電撃が走り、目の前が真っ暗になった。


 カーンはしっかりと部隊を連れてきていた。奈意斗の能力を知っていたからこそ、意識の外側から攻撃する必要があるとわかっていた。

 手を切り落とされたのは計算外だったが、そんなものは後でリードにくっつけさせれば良い。


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