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8、信じがたい事実

8、信じがたい事実



その日の夕方、俺はすっかり疲弊した体を引きずりながら莉奈とリーリアのいるトパーズの研究所を訪れた。


研究所と言っても、そこは細い柵に囲まれた小さな家だった。俺は家のドアまで足が進まず、柵の外でその家を眺めていた。すると、俺の姿に気がついた莉奈が外に出て来た。


「ラル?どうしたの?智樹は?」

「………………」


俺は何も答えられなかった。何を……どう説明すればいい?何から伝えなければいけない?


「大丈夫……?ラル?」


この事実をどう説明すればいい?


俺が黙って下を向くと、莉奈は俺の智樹の事を聞くのを止めた。おそらく聞きたい事を全て飲み込んで、話を反らした。


「マグマの大使……もしかして……金だった?」


マグマに住んでるから『マグマの大使』そのネーミングセンスは如何なものかと思っていた。しかし……フォルムの方はもっと如何なものかと思った。


噴火口のマグマの中から、金のスーツをまとった全身金塗りのムキムキのオッサンが出て来た。


当然このチートステータスで瞬殺。何が悲しくてせっかくの高い能力使って、こんな変な金のオッサンを倒さなきゃならないんだよ!


「I'll be back!」


金のオッサンはそう言って親指を立ててマグマの中に消えて行った。それもいろいろとダメだろ!


アイテム目当てで戦ってこれに負けて死ぬとか絶対に嫌だ!せめて金のドラゴンとか、金の女神とか、金のモンスター(フォルムがカッコいいやつ)とか、いや、もう金はやめろ!普通に戻せ!


とにかく、せめて負けも仕方ないよな……見た目通りそこそこ強いし。と、素直にそう思わせるような敵にしてくれ!


「そっか……金のオッサンだったんだね。だから凹んでるんだ……」

「ちゃうわ!そんなんでここまで凹むわけないやろ!」

「じゃあ……何?何があったの?」


俺はゆっくり深呼吸をして、少し自分を落ち着かせた。すると、トパーズが家のドアを開けて俺達を呼んだ。


「エメラルドさん、どうぞ中へ。とりあえず回復してからゆっくりお話しましょう」


トパーズはそう言って中へ入れてくれた。中ではリーリアが茶を入れていた。


「お兄様、おかえりなさい。マグマの大使はどうでした?」

「その前に、リーリアお願い。ラルを回復させてあげて」


そう言って莉奈は俺をソファーに座らせた。その優しさはずるい気がする…………自分が精神的に弱っている時にそうやって気を使い、しおらしくされると……何だかこっちは調子が狂う。


「それより、私の開発した元気になる水を試してみませんか?」


俺は何故かその手にコップを渡された。薄い紫の水がコップに入っていた。なんだ?これ?本当に回復の水か?そう疑いながらも飲み干すと、急に体か熱くなった。


「なんやこれ!」

「少し媚薬を入れたホットジュースですよ」


俺はとっさに、隣でこっちを心配そうに見ている莉奈を抱き締めた。


「ちょっと離して!」

「すまん……それはできん。今離したら……見られとうないものを見られてしまう……」

「はぁ?何それ!」


溢れる涙が頬を伝うのがわかって、莉奈を離せなくなった。莉奈は俺の腕を外そうともがいた。


そしてしばらくして、俺は静かに事実を莉奈に伝えた。


「智樹が…………死んだ」


そう言った瞬間、莉奈は腕の中でもがくのを止めた。


「は……?それ、間に……合わなかった?嘘?でしょ?冗談でしょ?」

「違う…………殺された」

「殺された?誰に?」


俺がその答えを言えずにいると、莉奈が少し肩を離した。


「それってもしかして…………」

「そうや…………YUK。中村 悠希や」

「そんなわけ無い!」


莉奈はとうとう俺の腕を外すと俺から離れた。


「お兄ちゃんが智樹を殺すはず無い!そんなの絶対に嘘!」

「本当や!悠希が智樹を殺した!そして、入れ物に入れて持ち去ったんや!」


俺は、自分が見た事をゆっくりと莉奈に話始めた。


俺が番人を倒した後、智樹を探すためにモンスターを倒しながら火山口の上部まであがって行った。火山の頂上は崖のようになっていて、そこに智樹と思われる姿があった。誰かと話をしているように見えた。


それは遠目でも誰かはなんとなくわかった。それは、以前プールスにいた白髪混じりの男。トムだ。莉奈はこいつを悠希だと思っていた。その悠希が…………


「なんや、二人ともこんな所におったんかいな!」


そう俺が話しかけた瞬間、悠希の手にした剣が智樹の胸を突き刺していた。そして、ゆっくりと地に倒れた。すぐに回復魔法をかけようとしたが、息を飲む速さで智樹のHPゲージが0になった。


「どうして…………お前、悠希やないんか?」

「…………」


悠希は俺のその問いには答えなかった。


「智樹はお前の弟や。わかってるやろ?」


俺がそう言っても、その冷たい目は微動だにせずじっと俺の方を見つめ続けていた。すると、智樹の体が液体になり、悠希の持っていた黒く小さなカプセルのようなものに吸い込まれていった。


これが……『モルスのヴィトロ』なのか?


「お前も冒険者だな?」


すると、目にも止まらぬ速さでその剣先がこちらに飛んできた。とっさに剣を抜いてその剣を受けたが、泰希の設定したあり得ない能力値でも次々と襲ってくる攻撃を受けるのがやっとだった。


悠希……俺の知らない間にどれだけレベルをあげたんだ!?


「トム、お前は悠希や無かったんやな。ここで生きて帰れたら莉奈にいい手土産になるわ。莉奈はお前に会いたいが為に魚人に襲われ、実家の寺にまで来た」

「寺に……来た!?莉奈が!?」

「あの可愛らしい顔がどんな顔するやろうな」


その反応は……悠希である事の証明だった。その一瞬の迷いが隙を生んだ。その隙に、俺は悠希の腹に一発蹴りを入れ悠希から離れた。


「その様子だとこんな攻撃、痛くも痒くも無いんやろうな」


悠希は服の汚れを払うと、俺の方を真っ直ぐ見て言った。


「俺はもう悠希じゃない。今は……死神になった」

「死神…………お前が?なんでや?何で冒険者の魂集めとる?」

「当然の事を聞くな。それが『purus aqua』に必要だからだ」


『purus aqua』に冒険者の魂が必要?そんな話は聞いた事が無い。


「魂……なんぼ必要なんや?」

「そうだな……少なくとも、1万」

「!い……1万!?」


今までに襲われた数は知らないが、少なくともまだまだこれからもっと犠牲になる冒険者は増え続ける。その事だけは十分理解できた。


「お前、エメラルドか?なら、殺しても意味が無い」


悠希はそう言って剣を納めた。


「何なら莉奈を一緒にここに来れば良かった」

「連れて来たらどないしてた?殺すつもりか?」

「もちろん。莉奈は強い気の持ち主だから、何人分もの魂になるはずだ」


なんだ……それ……?自分の妹をまるで資源みたいな言い方……


俺は全てを話した後、一度も莉奈の顔を見られなかった。見る勇気が無かった。


「あまりにも信じられん事や……信じろなんて言わん……その代わり…………しばらく一人にしてくれ」


俺はそう言って研究所の外に出た。外はもう真っ暗だった。イグニスの風は夜でも暖かい。


真っ暗な空を眺めながら、智樹と悠希の事を考えた。


智樹はあの入れ物から助かるのだろうか?


何故だ……?何故弟や妹も関係無く簡単に殺せる?たとえ『purus aqua』に必要だとしても、その剣であの小さな体を突き刺せる神経がわからん。


もはや悠希は悠希ではない。それはまるで本物の……『死神』だ。


『うふふふ、嫌だ死神だなんて』


一瞬、頭の中に女の声が聞こえた。


「誰だ?」


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