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5、新しい冒険者

5、新しい冒険者



まさか、再びこの景色を眺める日が来るとは思わなかった。


この……青色ばかりで嫌気がさす風景だ。


莉奈が起きる時間まであと何時間あるだろうか?俺はステータス画面で時計を見た。ユーザーネームには『midori aoi』とあった。それは、ふといつか現実世界へ行ったら使おうと思い付いた名前だった。


『蒼井 緑』


それは、偶然にもこの『purus aqua』を作った人々のうちの1人の名前と同じだった。どこかでその名前を聞いたのかもしれない。エメラルドと緑、何か関連があるのかもしれない。そう思ってその名前を少し気に入っていた。


あの日の夜は、そんな事を考える暇もなくこの世界に来た。その発端は、泰希との再会にあった。


「なんで泰希はこっちの世界に来んかった?」


悠希が来ていたなら、泰希も来れたはず。来れない理由があったのか、意図的に来たくは無かったのか、どっちなのだろう?


「俺はこっち。管理者の方にまわったんや」

「管理者?」

「用は雇われ神さんや。イベントやら、今は人手が減ってイベントどころやないな。ユーザー管理やバグ修正やら色々や。それより、お前は何しにここに来た?」


俺は泰希に説明した。ここに来た経緯や、智樹と莉奈、悠希の事を。


「なんや!恋愛ごっこしたいんやったら、冒険者になってハーレム作ったらええやん!」

「いや、別に女に好かれたい訳ちゃうわ!俺はこの世界に興味があんねん!」

「はぁ?」


泰希には俺の考えが理解できないようだった。


「この『現実世界』はおもろい!魔法も使わんと、これだけのもんがある!あの道を走っとる車も空飛ぶ飛行機も、全部魔法使ってへんのやろ?」

「ま~そらそうやろ。現実世界やし」

「そこがどうなってるか知りたいんや!ここは物に全て理がある。それがおもろい!」


ゲームの世界には理なんぞ存在しない。ただ、それが可能か不可能かしか無い。システムというルールに乗っ取り、プログラムされたシナリオ通りだ。


「そんなん、現実世界もゲームの世界も同じやろ。システムに乗っ取って人が動いとる。神が作ったか人が作ったかの違いや」

「でも、ここは知る事ができる」

「知ってどないすんねん」


知ってどうする……?


俺は知ってどうしたいんだ?


「……知って、奇跡を喜びたいからちゃう?」


物の理を知れば、それが当たり前か特別かの判断がつく。何も知らん事には何が凄いのか判断がつかん。


「はぁ?奇跡?お前……お前もあいつらと何も変わらんな。ありもしないバグを望んでばっかりや。ちゃんと見てみ?全部プログラムされた運命というシナリオ通りや」

「そのシナリオが気に入らんのや!」


女嫌いの何も知らないバカ王子。それが俺のプログラムされたシナリオだ。それを変えたいと望んで何が悪い?


「人はバグという奇跡を望む。その世界に奇跡が無ければ、別の世界を望む。だから、この『purus aqua』が作られたんや」

「別の世界……?」

「天国でも地獄でもない。当然、この世でもない、本物の『異世界』や」


泰希は『purus aqua』を『異世界』と呼んだ。それはまるで、自分には理解できない物、受け入れ難い物、そう聞こえた。


「それはそうとその奇跡、あいつに起こしてやったらどうや?」

「あいつ?」


莉奈か?それとも悠希?


「お前の体の持ち主」


智樹?


「一緒におるやつの入れ知恵か知らんが……レベルに見合わんエリアに向かってんで?このままやと火の国の番人に簡単に殺されるで?」

「それは困るわ」


智樹がゲームの中で死んだとなれば、俺は完全に殺人者扱いだ。それに、せっかく幸せになるためにゲームの世界に行ったのに簡単に死なれては後味が悪い。


すると突然、どこからか誰かの叫び声が聞こえた。


「キャーーー!」


その声に現実に引き戻された。


色白で金髪の美しい女…………


女は女でも…………


そこにいたのは、妹だった。妹のリーリアだ。


レベルの低い魔物の群れに襲われていた。


「どうか冒険者様、お助けください!」

「いや、お前それぐらいの魔物なら自分で対処できるやろ?何、かまととぶってん?」

「………………」


俺がそう言うと、リーリアはあからさまに嫌な顔をした。そして、こっちを睨んだ。その雰囲気に、仕方なく魔物を蹴散らした。


「しっしっ!それよりお前、なんでこんな所にいるんや?田舎街の男の所に嫁いだんと違う?」

「いえ、彼はまだ婚約者です」


そうだった。この世界では基本的に婚約者の設定だと、永遠に婚約者だ。婚姻を結んで夫婦として認められる事はない。


「冒険者様、どうしてそれをご存知で?」

「いや、俺や俺!13番目のエメラルドや」

「お兄様!?」


リーリアは俺だとわかると、かなり驚いていた。


「お兄様が……冒険者様?では、今回の私のご相手は……お兄様ですか?」


あーそうゆう事か。


おそらくこの一連の流れはこうだ。魔物に襲われてリーリアを助ける。これは、冒険者としてのヒロインとの出会いで、リーリアを姫とは知らず城まで一緒に行く。城で初めてリーリアが姫だと知る。


しかし…………


元々王家だと知っていれば何の面白味もない。完全にオープンリーチ状態だ。


そして、わざわざ俺はプルスの王の前で「えぇえええええ~!マジか!リーリアは姫だったの!?」


という茶番を演じなければならない。


何でも全て知っていればいいってわけじゃないんだな……。


「では冒険者、城へ参りましょう」


リーリアはお決まりの台詞を言うと、いつもの雰囲気に戻った。


「な~んだ!今度こそ、運命の出会いかと思ったのに~お兄様じゃ結婚できないわ」


いや、多分俺じゃなくても結婚はできない。


「なんや?婚約者と喧嘩でもしたんかいな」

「そうじゃないけど、私もいよいよ結婚かなぁ~とか考える年よ?いつまで結婚間近でいなきゃいけないの?いつまで崖っぷち未婚アラサーやってなきゃいけないわけ?」


いや、お前竜人だからアラサーとか関係ないだろ。


まぁ、妹の苦労もわかる。しかし、それがこの世界でほ設定だ。設定は絶対だ。仕方がない。


たとえ運命の出会いを果たしても、結婚する運命とは別だ。


仕方がない……俺はどこか運命というシステムに諦めているのかもしれない。


俺はきっと……奇跡を喜びたいからなんかじゃない。


物の理を知れば、自分自身がどこに立ち、どこへ向かっているのか、どこへ向かうべきなのか、それがわかると思ったからだ。


実際、現実世界を知ってもそれはわからなかった。


いくら本を読んでも、答えは書いてなかった。それはまるで、スカスカな自分を知識で埋めているだけだった。


「まぁ、今度神様に会ったら頼んだるわ!」

「なんですって!?お兄様、神様とお知り合い?だったら是非!是が非でも素敵な王子様と結婚させてください!酒とギャンブルはやらない、空気が読めて色気のある、女遊びは控えめな誠実な人!」

「お前……そのリアルで貪欲な注文怖いわ……」


妹の意気込みにちょっと引いた。しかし、その考えは俺と同じだ。設定にもがき抗おうとしていた。妹のそんな姿に共感できた。


「あ~あ!お兄様が本物の新しい冒険者様なら良かったのに!もう!」


でもそれはちょっと鼻息が荒すぎだ。


「それより、ちょっと急ぎなんや。すぐに蒼の称号手に入れて行きたい所あんねん」

「行きたい所?」

「赤の国、イグニス」


智樹が赤の番人に辿り着く前に、止めなければならない。


「でもお兄様、火の国は来たばかりの冒険者のレベルでは行けないんじゃありません?」

「そこは神様の力でなんとやらや。ほら見てみ?これがチートっちゅうやつや」


俺は自分のステータス画面をリーリアに見せた。泰希が赤の国へ行って智樹を助けられるように、レベルを上げてくれていた。いや、これはちょっと上げ過ぎだろ……


「まぁ本当!初期からえげつないほどやり混んでる様なレベルと経験値ですわね」

「な?気持ち悪いやろ?気持ち悪いほどチートやろ?」


たとえこの世界を支配できる力が手に入った所で何の喜びもない。俺はこんな作り物の世界に興味など無いからだ。


そんな事を話ならがら、リーリアと城へ向かった。そんな話だけならよかったものの、さらにはリーリアの婚約者の愚痴を延々と聞かされながら城へ向かった。


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