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お母様の付きの侍女とマーサが紅茶とお菓子を出してくれる。
「ありがとう」
「それで昨日はどうだったの?」
「シャルド公爵夫婦は元気でしたわ。シャルド公爵夫人から1週間後お茶会に誘われています。」
「そう。それでロフレイン公爵様とはどうなのですか?」
「いい方です。昨夜はエスコートもしていただきました。」
「そう。」
「はい。領地はいかがでしたか?」
「相変わらずのどかな場所よ。」
「お爺様とお祖母様は?」
「祖父母と思えないほど元気よ。」
「そうですか。安心しました。」
「ユフィーリアに会いたがっていたわ。」
「近いうちにまた行かねばなりませんね。」
「えぇ、ぜひ行って差しあげて」
お母様とは当たり障りのない会話しかしない。
会話しない訳では無いのだけれど必要最低限。
何故そうなったのかは分かりません。
いつの間にそうなってしまったのかしら…。
「ところでカリーナは大丈夫なのですか?」
「えぇ、多分大丈夫よ。少し疲れてしまっただけではないかしら。」
「…そうですか。」
皆気づいてはいるが口に出さないこと。
皆カリーナに甘い。
言われるがまま。
お父様も甘えられるのは好きらしい。
そんな顔もするのねと思ったものだ。
2人が伯爵家に来たすぐの頃初めて見るであろう
キラキラしたもの達にカリーナは目を輝かせた。
10年前カリーナは7歳、キラキラした初めて見るものに目も輝かせるだろう。
触りたい。あれもこれもと。お兄様と目が点になったほどだった。
お母様はやめなさいと言うけれど聞きもせず愚図り出すお兄様も慰める。
そこに入ってきたお父様に…甘えた。
その時のお父様の顔は……誰かと思った。
そんな顔どこに持ってたのかと思った。
家族ね。そう思った。
額縁の中の家族に見えた…いや、私が額縁の中にいたのかしら。
どう頑張ってもどんなに手を伸ばしても手に入らない。仲のいい家族のような気がして私は思わず視線を逸らしてしまった。
一瞬で私の足元は崩れてしまった。
兄との距離は変わらなかったが、父との距離は確実にまた開いた気がした。
もともと近くなかった距離感はさらに開いた気がして、それから私は一定の距離を置いてきた。
私はカリーナのように甘えねだっても同じような表情を父が返してくれるとは思えなかった。
なぜそう思ったのかは分からない
ただ、試そうと思わなかった。