一歩づつ
もう追いつきますんで! ポイント入れてくださった方、本当にありがとうございます!これからも応援よろしくお願いします!
ニクス達は次の日の昼までかかり、無事にガンドーを送り届けた。仕事はここまでなので、二人は元来た道をゆっくり帰っていく。帰り道、ニクスは自分の手に掛けてしまった覆面の連中のことを考えていた。自分の行いは、ガンドーを守ったと言う点では正しいだろうが、彼らにもなにか理由があるのではないか? そうすることになった理由が。
「これが狩人の仕事のひとつよ。あなたの思っている程、気高い物じゃない。そもそも、そんなキレイな仕事など無い」
「分かってますけど……」
大なり小なり、汚れ仕事は何処にでもある。それは理解しているつもりだった。が、一度経験しなければ分からない事もある。今の葛藤がまさにそれだ。でも、とフィラファスは続ける。
「あなたのその考えは正しいよ。今の考えをそのまま持っていれば、人殺しを平然とやる人間にはならないから。心のどこかで楽しんでしまったら、それはもう最悪の事なんだからね」
なんて言いながら、私もあんたに『殺せ』って命じちゃったけどね。と自嘲気味に笑う。確かに、その通りだと思った。この人は自分の良いところも悪いところも全部理解しているからこそ、こんな事をさらりと言えるのだろうか。
組合の前に着く頃には、くよくよ考えることは忘れていた。ようやく帰ってくると、体調が一気に崩れた。カビが現れだし、意識も朦朧とし始める。フィラファスはこちらを見た途端、また背中をパン! と叩いてカビを吸収した。
「ちょっと頑張り過ぎたね~。部屋は用意してあるから、だれかおぶってあげて」
「仕方ねーなー」
近くにいたベクターがニクスを持ち上げると、すこし気分が良くなった。別にそういう方面に目覚めた訳では無い、いやホントに。魔力を渡してくれたのだ。それだけだから。
「ほい、んじゃクソして寝とけ」
もうニクスには、喋る気力も無く、大の字という無様な格好で爆睡してしまった。途中誰かが体を拭きに来てくれたようだが、感触だけで誰かは分からなかった。能力を使えば視界を広げられるが、直接触れているとすぐさま感染してしまう。人が触れている時は能力を使えない、見方も巻き込んでしまう。これもまた明確な弱点だ。さすがにこればかりは直せないだろう。
「ん……あ……」
体が痛くなり、思わず起きる。外はすっかり暗くなっていた。時間の感覚が掴めず、フラフラと組合の廊下をさながら某ゲームのゾンビのようにさまよう。突き当たりから銃を持った人が出てきたらそのものだが、そんなことはあるはずがない。
――魔導書と一緒に女性が突き当たりから出てきた。目が合う刹那、女性は死ぬほど驚いた顔をし、魔導書が輝きを放つ。ニクスはそれでパッチリ目が覚めた。両手を出して降伏の意を示す。
「待って! 俺! 待って!」
「……新入りじゃない、驚かせないでよ」
彼女は魔導書を閉じると脇に抱える。たしか組合に入った時、自己紹介してくれた人の中には居なかった。名前はわからない。語彙力の欠けらも無い話し方とようやく定まってきた視線で、寝起きだと察したのだろう。トイレを指さす。
「トイレならそこよ?」
「違います……。今は何時ですか」
「何時? 10時半よ」
帰ってきたのは昼過ぎなので、かなりの時間寝ていたのが分かった。欠伸をしながら彼女は横を通ろうとする。これから寝るのか。
「あ、名前教えて貰ってもいいですか?」
「え? あぁ、そっか。私はライシスよ。それじゃあおやすみ」
「おやすみなさーい」
彼女は自分の隣の部屋に入っていく。お隣さんだったことに小さく驚きながらトイレに寄り、下の階に向かった。
一階にはフィラファスと、ほか数人が酒を片手に話していた。こちらを見ると手を挙げて歓迎してくれる。
「ニクス、今日の仕事はどうだった?」
「いや、どうって言われても……」
フィラファスにそう聞かれ、答えにつまる。周りの人達は何も言わないが、視線がこちらを向いたままだ。
「……ガンドーさんを守ることが出来て良かったです」
「そうね」
それ以上深く踏み込まず、彼女からは一言だけ帰ってきた。その一言に、ニクスの考えていることや思いは筒抜けなのだと感じる。
フィラファスがまた紙を持ってきた。今度は封筒だ。なんと、今回の報酬金だという。即刻支払いなのね。が、何故か事前に聞いていた額より多い。どうしたのだろうか。
「あなたの能力が自然系能力の枠外に飛び出した力であることが認められたの。《《自然系にフレーム2より上の段階がある事が証明された》》事に対するプラスの報酬ね。ま、安心しなさい。能力目当ての連中が来ても渡さないから」
「よかった」
ニクスの顔色が変わった事も機敏に捉え、優しくフォローしてくれる。来たら反撃して相手を抹殺する事も厭わない、そこだけは割り切れて居るのだが、その必要は無くなりそうで安心した。が、安心してはならない。修練は積むつもりだ。しかし金額にしてパソコン2台買ってもお釣りが来る。
「明日なにか買いに行ってきていいですか?」
「お休みね? もちろんいいけど何かあれば呼ぶからね」
景気良く返事をし、部屋に戻り、2度目の眠りについた。
が、なにかが部屋に突進してくる。部屋のドアが乱暴に開け放たれた。反射的に逃げようとしたが、黒い渦がドアを塞いでいる。そこには、三人の男が居た。1人は厚めの眼鏡をかけ、『研究者』を彷彿とさせる出で立ちだ。あと二人は、なんというかロボットのような印象を受ける。ニクスはこんな直ぐに襲われることを予想しておらず、何者だ? と返すことで精一杯だ。
「君の能力に用がある。君は国のために体を捧げてもらう」
「断る、死ねや」
ニクスの意識が遠ざかった。やばい、催眠ガスか!? と思ったが、そんな言葉が口をついて出た。まさか今のは、能力が抵抗をしたのか?
「国のために尽くすのは義務だ」
「知ったことか、これだから大人は!」
胞子が壁や今は空っぽの本棚の隙間を通って下の階へ行く。ここでは狭くて槍がふるえない。ならば……!
「白翼!」
「うっ……! 」
風の力で、三人揃って黒い渦の奥に押し返される。貰った。近くにちらばっていた椅子の足を握ると両脇のふたりを殴りつける。その瞬間、2人の頭がひしゃげ、血を噴き出して倒れる。
さらに、後ろの渦が『ある一点』に集約され、部屋の外が見えるようになった。フィラファスが憤怒の形相で立っており、振り向いた研究者らしき人物につかみかかると、腕の血管が浮き出る。
「この力……素晴らしい! やはりここに来て正解だった! 君にも来てもら……! ギャアアアアアア!!」
相手の体がどんどん干からびていく。魔力と一緒にあらゆるものを吸い出しているのだ。
吸収しながらフィラファスは叩きつけるように言う。
「お前らなんかに、仲間を渡すものか……!! たとえ国を敵に回しても私達は戦うからな!」
相手はもはや何も言えず、力尽きて倒れた。それを見下ろしたフィラファスは、「吸収」と宣言した。
「蓄積しないんですか?」
「こんなクズの魔力なんか貯めてたら腐っちゃうよ」
また襲われないとも限らない。この日の夜はベクターの部屋で雑魚寝させてもらった。
その次の日、侵入対策が強化されたのは言うまでもない。