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無形

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さらに良ければわしゃっとコメント! これ、世界共通だと思うんですよ。

 試験も完全に終了し、擬似闘技場を後にしたニクスは、一度家に戻った。母親にそれを伝え、やっぱり旅に出ると伝えると、昨日と同じ言葉を言われた。


「これでOK。お待たせしました、フィラーさん」

「まぁたさん付けしてる」


 癖なら仕方ないとばかりにうなだれるフィラファス。そこまで言って、村の出口に差し掛かった所で奇妙な生物を見つけた。


 ぶよんとしたスライムのようなものだ。それがクラゲのようにゆっくりと浮遊している。


「あれ、何?」

「えー……うーん……なんだろ」


 彼女も見た事のない生き物らしい。特に危害を加える訳ではなく浮いているだけなので、スルーして組合まで向かう。歩きながらフィラファスは聞いてくる。


「あなたの村も昔やられたみたいね」

「……ええ。『バスタード』に」


 バスタード・オルトリンデ。ニクスが七歳の時に村を襲った人間だ。ほかの村も幾つか壊滅させており、最近捕まったジョーヴェと同じく指名手配犯である。が、ただの指名手配ではない。『バスタードに対しては一切の権利を剥奪する』と言う特別処置が取られている。要は、人権が無いのでその場で殺してもよく、殺した人間は犯罪とはならないし、拒否権も黙秘権も無いので聞かれたことは全て答えなければならない。それだけ危険な存在なのだ。


「さ、着いたよ。ここがあなたの本拠地になる、ロシェ・スクアーロよ!」

「うおおおお、すげぇ!!」


 どっしり構える看板と入り口にテンションが爆上がりするニクス。フィラファスは家の様に(実際そう)入るが、途端に緊張してくる。できるだけ小さくなりながら入ると、数人の冒険者が飲んだり食べたり、机に突っ伏して寝ていたり自由にしていた。


「おかえり、フィラー。その子が引き抜きの子かな? レベル1とは言えずいぶん強い力を持つみたいじゃない」

「あなたは?」

「この子はちょこちょこ名前が変わるから……今の名前は何?」

「そおだねえ。ガレス、と名乗るよ」


 間延びした口調なうえ掴みどころのないこの女性は、ちょっと前までは『メア』と名乗っていたそうだ。なんで名前が変わるのかはさておき、そこに居合わせた人たちも一人、また一人と集まってきた。それぞれ、何か《《光るもの》》を持っているようだ。あるいは能力、あるいはニクスと同じようにステータスや身体的特徴、異常形質だ。その中でも突出した猛者がいた。


「ベクターだ。俺は永久機関っていう能力でな、何かあったら力をやるから言いに来な」


 もはや魔力のバーゲンセールだ。永久機関のおかげで魔力を打ち出すだけで街の一つや二つ、簡単に滅ぼすことが出来る。こんなんチートやん!


「ウチはね、体や能力で問題を抱える人達の寄合から生まれた組合なのよ。だからあなたも気負わずお仕事してね」


 ヒエーッ! なんてホワイトなんだ! と、ここでたまに見る夢を思い出した。そこではサービス残業とかいう謎の過剰労働をやっていた。それに比べるとここは天国だ。そんなことを考えてニヤニヤしていると、フィラファスから呼ばれた。急いで向かうと彼女から一枚の紙を手渡された。


「突然悪いんだけど、今から私と出るよ。とりあえず事情をこの紙に書いたから読んでね。おいおい説明するけど、こんな仕事もあるよって事を知ってもらいたくて」

「うー……ん!? これは……なかなかレベル高いな!?」


 そこには、要約すると『国の重役が終の住処を探すために、とある町を下見するから護衛すること』と書いてあった。最初の仕事が大きすぎて驚いた。が、フィラファスは何故か俺の手を引くとグイグイ連れていく。


「ちょっと待って! 何で俺なんですか?」

「あなたの顔を売るのが目的。狩人をするにあたって、影響力のある人と縁があるのは強みなのよ。普通の組合ならやらないけど、うちはタダでさえ『普通じゃない』人が多いから、そうして少しでも知ってもらうのが大事なのよ」

「……でも、能力のことは言いませんよ。俺の能力は軽々しく見せるものでは無いですから、嘘ついても咎めるのは無しで」


 わかってるわかってる、と肩を叩かれながら合流場所に指定されているところに向かう。と、怒鳴り声が遠くから聞こえてきた。それと、剣どうしがぶつかる金属音も。なにか起きているようだ。二人は走り出し、音の正体を見た。


 ――覆面をした奴らが一頭の馬を囲んでいる。その周りには数人が倒れており、馬の上に乗っている人も肩を抑えている。


「何があったんだ……!?」

「あれは……ガンドーさん!? 今回の依頼人よ、やりなさいニクス!」

「え、はい!!」


 体が黒化するとカビが広がり、地面を侵食し始める。次の瞬間、覆面の一人が足元に気づき、こちらを振り向くと剣を振り上げながら襲い掛かってきた。ニクスは大きく腕を引くと、水平に振るう。


 突然、突風が起こりそいつは押し返される。いや、弾き飛ばされた。ムカデの時と同じだ。攻撃力がカンストしているため腕を振るだけで暴風が起きる。これも技に転用出来るだろう。こいつの名前は……


白翼はくよく!」

「おお、すごい!」


 フィラファスが歓声を上げると、ニクスは大きな自信がついた。さらにもう1つ、ニクスはアージスと考えた技を使う事にした。槍を背中のストッパーから外すと軽く振るい、地面を軽くすくう。するとカビが穂先にまとわりつき、カビの槍の完成だ。


「殺したくないけど……やるしかない! 真菌壊槍アスペルギルス・ヘクトルティン!!」


 その名を呼んだ瞬間、カビが黒から緑に輝く。


 致死性の高いカビというのはそこそこいるが、その中でもいちばん身近なカビが『アスペルギルス属』のカビだ。代表はコウジカビなのだが、一部のカビはそういう特性を持つ。


「あれは毒か……! 気をつけろ、毒の槍だ!」

「あめーよ! 毒なんか生温いモン使うかよ!」


 ニクスは短期決戦とばかりに素早く走ると穂先で軽く敵に触れる。それを数回繰り返し、ニクスはリモコン爆弾のスイッチを持つように親指を立てる。それをゆっくりと曲げた。


 ――――見えないスイッチは押された。


 途端に敵の体が黒く変色し、バタバタと倒れて動かなくなる。死した後も黒くなり続け、次第にカビが体から生えてきた。その様子を見ていた馬に乗った男は、フィラファスを見つけると這う這うの体ですがりついた。彼女は心配いらない、と彼に言うとこちらを向く。ニクスは頷くと話し出した。


「フィラーさん、これでいい?」

「ええ。お疲れ様。さてガンドーさん、お久しぶりです。今回の護衛は私と彼です。彼の名はニクス、戦闘能力はご覧の通りです」


 ガンドーという男性はまだこちらを恐ろしげに見ている。ニクスはため息を着くとまた言う。


「これ以上殺生をする気は無いですよ」

「……ほ、本当か?」

「あの賊には悪いけどパフォーマンスですからね」


 やっと安心したようだ。これだけの強さを持つ護衛を寄越してくれてありがとう、と手のひらを返している。それを見もせずにニクスはカビを消し去る。カビの中心からは、ほとんど分解されてしまった服の切れ端が出てきた。やりすぎたようだ。


「……制御の練習も必要だなあ」

「ニクス、行くよ。初仕事頑張るんだよ!」

「はーい」

「何、初戦闘だったのか!? 」


 ガンドーさんに驚かれながら夕焼けの中を進んでいく。周りのあの人たちはどうするんだろう、と思いながら、立小便に行くと言ってこっそり埋めに逆走するニクスだった。

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