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スカウト

次の日が祝日だという事実……すばらしぃっ!

 彼女は席に座ると、まずニクスの背中を強くはたく。「まずい」と思ったニクスだが、背中の不快感が一気に引いていく。


「今何をしたんですか?」

「私の能力です。『魔素子吸蓄ドレインセル』って言って、相手から体力や魔力を奪い、任意で蓄積か吸収を選択できるんです。気になっていたんですよ、自然能力を吸収できるのか。ただ、体内に入った途端内臓を浸食されたので吸収しちゃいました。カビって怖いねぇ」

「え、ええまあ。でも吸収したらどうなるんですか? さっき浸食されたって……」

「無に帰りますね。得た魔力で自分の体力を回復することはできないんです」

「へえ……あ、それで、話って何ですか?」

「その前に私の自己紹介をしないと。礼儀ですからね。後は私があなたを呼んだ理由が優先ですよ。その『話』はあくまで事のついでですから」


 と言ってから、少し視線を泳がせるとまた口を開いた。


「私はさっき言われてたけど、フィラファスと言います。リアス・V・フィラファスです。冒険者組合である『ロシェ・スクアール』のマスターをやってます。


 ……ということで仕事のお話するよっ」


 急にキャラが変わった。きれいなドレスを着ているのに、話し方がフランクになったせいでそのドレスの美しさが台無しだ。


「率直に言うと、あなたをスカウトしたいの。あなたの経歴は知ってるわ。『不敗』のアージスに鍛えられたことも、攻撃がカンストしている代わりに体力とレベルが最低なのも。そのうえであなたを狩人として雇いたい。どう?」

「ロシェ・スクアール……何度か聞いたことはありますね」


 確か、上位陣から一歩引いたところにはあるが中堅の組合だ。世間には疎くて人気かどうかは知らない。が、そこまで何で知っているのか?


「アージスと会ったときにめちゃくちゃ話されて、あの饒舌なカリオートですら黙り込むくらいお気に入り見たいだったから、気になっていたのよ」

「アージスもいるんですか!?」


 勢い込むニクスに、フィラファスは首を横に振る。


「別の組合よ。と、まあ……どう?」


 考えるまでもなく、答えは決まっていた。立ち上がると、彼女に頭を下げる。


「お願いします!」

「決まりね。しばらくは私といなさい。広い世界を見ておかないと、肝心なところでミスをするから。普段はスカウトなんかしないけどね、《《あなたは特別》》。修練と、制御の練習は怠らないように。うちの組合には槍の名手もいるから、いろいろ教えてもらいな」


 両手を広げて、「広い世界」というフィラファスを見ていると、自分には不可能なんかないと思える。出会ってよかったと心から感じ、思わずもう一度頭を下げる。それをうんうん、と頷きながら観戦を始める。ニクスも見るが、全員レベルが異様に高い。羨ましくも感じるが、不思議とマイナス感情は出てこない。


「あなたはあの子達を超えることが出来る。その体の使い道次第で、無限の可能性があるわ」

「それよりも『話』って?」


 すっかり忘れていたようだ、「あっ」と言う顔をすると誤魔化し笑いを浮かべた。


「ごめんね、何話したいか忘れちゃった」


 にこりと笑い、観戦に戻る。何か気になるが、忘れる程度の事なんだろうと思い、前を見る。ちょうど、地面がクレーターのように凹む瞬間だった。重力かな?


「あれは怪力だよ。重力の能力者は世界に一人しか居ないの」

「フィラファスさん、その人も知ってるんですか?」

「もちろん。私の情報網は広いのよ~。それと、フィラーでいいし、敬語も要らないよ」

「……分かりました」


 昔から敬語がちょこちょこ飛び出す癖がある。前世はなんか、そういう人なのかな、等と考えることもあった。たまに見る夢では小綺麗な服を着て、平謝りする自分を見ることがある。


 ニクスはある事が気になったので胞子を飛ばす。それに気づいたフィラファスは訝しんだ。


「いやあ、反対の席に居る人から物凄い悪意みたいな黒いものを感じるんですよ。ほら、あの人。下から3番目の右端の」

「……あれは! 指名手配の……! なんとか拘束できない?」


 拘束は難しい。カビというのはそもそも定着してから活動を開始するため、タイムラグが大きいのだ。が、なんとかしないと。ニクスはその時、鉄柵が消えていった試験前日を思い出した。


「やってみる。……定着!」


 胞子が指名手配犯の寄りかかる手すりにくっ付いた。そこから少しづつ手すりを壊しながらバランス崩壊を狙う。着実に伸びているのがよく分かる。カビを通してその指名手配犯という男の顔をよく見た。非常に人相が悪く、全身はキズまみれだ。


「……崩壊! 今だ!」


 手すりが根元から折れ、寄りかかっていた男はバランスを崩して横倒しに転びかける。次の瞬間、予想外のことが起きた。ニクスも、何が起きたのかさっぱり分からない。


 何と、カビが硬化してロープのように延び、男を縛り上げたのだ。同時に男の顔色が悪くなっていく。


「ぐおぉ……!? 毒のロープかッ!?」

「何事だ! ……貴様! ジョーヴェじゃないか! 大人しくしろ!」


 騒ぎを聞き付け警備員のような人が駆けつける。周りの人も総立ちで転がる男を見ている。ニクスはわたわたしながらもカビに軽く『戻れ』と命じた。すると、いつもの様に頑固に剥がれないということは無く、黒い煙を吐き出しながら雲散霧消した。その煙は自分を取り巻き、次第に晴れた。


「……カビのロープ。それ、なんて言うの?」

「 ……うーん…………クロイト?」


 即席で名付けてしまった。今のは完全にまぐれなのだ。が、それを見たフィラファスは嬉しそうにはしゃぐ。


「あなた、すごいわ! 自然能力ってあんな使い方出来るのね!」


 めちゃくちゃ驚かれた。むしろ自分の方が驚いている。今まで、『自然の能力はモデルとなっている生物の特性や能力を逸脱出来ない』と思っていた。ニクスは、その壁を壊したのだ。


 ――この功績は後に思わぬ形で帰ってくる。


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