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湯けむりと侵入者

お久しぶりです!

 意味深な言葉とフィラファスへの何かしらの伝言を残し消えたアゼタ。ニクスは背中に冷や汗をびっしょりとかいていたことに気づき、軽くせき込む。それを見たライシスは顔を覗き込んできた。


「大丈夫?」

「ああ、ああ。全然大丈夫だよ。あいつ、変なことを言ってたな」


 そうだな、と奥から酒瓶を抱えたベクターが現れ言葉を反芻する。


「『そうなった場合は殺しに来る』つまり、お前が暴走したら現れて殺すと宣言したわけだな」

「カビの意思は残っている……ということはまだ会話ができるってこと? やってみたら彼の真意に気づけるかもしれないわ」


 それはできない、とニクスは肩を落とす。なぜなら今まで当たり前のようにあった意思と呼べるようなものは全く感じられず、代わりに空洞のような虚無があるようにしか見えないのだ。アゼタの前世は見た。そして自分の正体も。カビは自分自身で……それは言い出せなかった。さすがに知られたらどのような顔をされるかわからない。それも手伝って気分はどん底まで落ちた。


 そこまで気落ちするニクスの顔に出ないはずがなく、鈍感すぎて過去数人の女性に振られてきたベクターですら真顔で「今日はもう寝ろ」と指示をするほどであった。


 言われるがままにふらふらと部屋へ戻るも、途中で誰かとすれ違う。目を閉じるが全く眠れない。格上から目を付けられるというこのストレス。本当に気が狂いそうになる。前の一位ギルドはレベル1にすら勝てない、といえば聞こえは悪いが……


「あっ」


 力みすぎてしまったようでベッドが一瞬と持たずぐしゃりとつぶれてしまった。同時に床が抜けて階下へ落ちる。「ああああ」と叫びながら脱衣所の床にたたきつけられた。女性の「きゃああ!」という絶叫を聞きながら床にクレーターを作ってしまいさらに転がる。慌てて起き上がろうとするがパニックのあまり掴んだドアが飛んで行ってしまう。肩をつかまれた。


「落ち着いてニクス、落ち着いて」

「パルメリアさん!? こんなとこで何やってんですか!? 裸じゃないですか!」

「お風呂場で裸になって何が悪いのかしら?」


 へっへ? と奇妙な声を上げながらあたりを見回すとそこには脱衣かごがおいてあり、”女湯”の脱衣所に落ちたことを理解した。あちらこちら壊れて下着が転がるこの惨状を見てまずすることは一つ。


「ごめんなさい」

「とりあえず弁償ねぇ」

「いやそれはもちろ……なんだこのにおい」


 花のようなにおいが漂っている。良い匂いだ。パルメリア自身は裸を異性にみられることに何の頓着もないらしく、説明してくれる。


「私の匂いよ。いい匂いでしょ?」

「なんかエロいですね」


 みぞおちがくしゃっとなる。どうもこのギルドの女性は手がよく出る。本音が出てしまったことを恥じながら何事もなかったかのように寝室に戻ろうとするが、腕をがっちりと掴まれて身動きが取れない。


「そんなニクスには依頼を一つするわ~。あなたにも有益よ」

「へ? なんですか、媚薬の材料でも欲しいんですか?」

「当たらずとも遠からず、って感じね。一種類取ってきてほしい花があるのよ。ちょっとストックが切れちゃってねぇ……もちろん私自身も取りに行けるんだけど、別の依頼があるのよ。だからよろしくね。量によってはフィラファスには黙っててあげるわ」

「行きます。行かせてください」


 大変下世話な理由で行く羽目になったが、良い気分転換になりそうだ。その日は一気にほぐれた緊張で朝までぐっすりと眠ることができた。

 そしてその次の日の早朝――彼は敗北した。


 目を開けると、仁王立ちしたフィラファスにのぞき込まれていた。何の悪夢かと声にならないなんとも間抜けな声を出すニクスであったが、次の言葉は思いがけないものだった。


「あんたが払うのは下着代のみよ。物はアレ、魔法で復旧できるからね」

「じゃあ下着も魔法でいいじゃないですか」

「それとこれとは話が別なのよ!」


 布団を引っぺがされ、「うわああ」と転がる。文句をたれながら起きると、彼女について下に降りていくが問題はそこで起きていた。


「これ何……すか」

「そう、これもあんたがやったんでしょ?」


 滅茶苦茶になったテーブルと折れた椅子。そして昨日ニクスはやらかしている。疑われるのも当然だろう。パルメリアは「秘密にしておく」とか言っていたのになんということだ。そして本人はまだ起きてきていない。論ずる余地も証人もいないわけだ。すると、ライシスが集団から出てきた。どうやら第一発見者らしく、寝癖がついているままだ。


「俺はこれやってない……風呂場のみですね」

「じゃあ昨日誰か見なかったの?」

「誰か……」


 あ、と声が出る。そう、昨日確かに誰かとすれ違った。ぼーっとしていたため深く考えもせず、挨拶もしなかったが。それを伝えるとフィラファスは認めたくないといった風に口を開く。


「侵入者は対策したんだけどね。少なくともニクスとすれ違ったのがメンバーなら声くらいはかけるはず」

「じゃあやったのはそいつなのか? こんなチンケな嫌がらせするためだけにヘイズライン杯の優勝者とファイナリストのいるギルドを狙うかね」

「ちょとちょっと待って。優勝者は誰?」


 あ、お前そういえば結果見てなかったな。とうなづいたベクターが答えた。


「ガレスだよ。お前は会場を全壊させたダークホース……まあ二回戦で不戦敗なんだけどな」

「でしょうねぇ」


 少し力みそうになるがフィラファスがさっと腕をつかむ。またいつもの脱力に戻ったニクスは冤罪を覆さねばと言葉を続ける


「何か取られたものはない?」

「一応何も。とにかく今回は根が深そうね」


 彼女が腕を組むと、あの科学者の集団を思い出した。バスタードとは別の脅威がまた立ち上がった瞬間であった。

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