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魔弾の射手

闇☆堕 覚悟せよ

 カビの塊が砲弾のように回転しながらフィールドを飛び出した。四方にはじき出されたカビの一部が攻撃者を取り囲み、うねうねと形を流動させながら何かを行う。


「うわっ!? な、なんだ!」

「組合同士の戦いは違反だ! ここで私達に何されても文句は言えないでしょう!」


 カビを振り払おうとする攻撃者と、組合長に詰め寄るフィラファス。相手も予想外の事だったらしく、泡を食っている。


「誤射だ! ……何をしてんだお前は!!」

「そ、そんなことより助けてください! このカビ、何か探してる……!?」


 アゼタになっているニクスの目に光が戻った。攻撃を受けた部分はもうあらかたカビで塞がっているのだが、受けた衝撃のせいで立ち上がれずにいる。バスタードの方は再生能力を持っていないが生命力が強いため、ショートしているガラ・タエナ・アキセリィを杖替わりに立ち上がると闘技場から逃げようとする。


 本来協力関係にあるはずのニクスを巻き込んでまで捕えようとしたバスタードに逃走されかかるという本末転倒な事態が起こってしまった。


「クッソ早く来い! こいつを引っ張りやがれ! ディエール!」

「いいや、あいつだと形勢不利のまんまだ。だから俺が来た」

「あ?」


 ガラ・タエナ・アキセリィの持ち主の元に帰ろうとする性質を利用する気のようで、乱暴に地面に突き立てる。


 が、来たのは別の人間だった。気味の悪い声と共に、地面から吸い出されるかのように童河岸が現れる。今回は面をつけておらず、ニクスは初めて素顔を見た。


 ――もみ合っていた一種組合の人間が、突然叫んだ。奴を知っているみたいだ。



「おま、お前は……!! フリゲート・エイル!? 百年前の英雄が何で、何で!」

「フリゲート……だと?」


 バスタードも知らされていなかったようで驚きを隠せずにいる。本人は顔を手で覆うと髪をかきあげ、ため息をついた。


「そういう反応なのか。お前ら、やっぱり進歩してねえな」

「……本物なのか?」


 バスタードも自称フリゲートをうさん臭そうに見る。実際、死体を操ったり、魂だけ何かにとりつかせて生前の姿を取らせる魔法は存在する上にその特性を持つすべての魔法は厳しく規制され、開発や行使をしたものはどんな人間であろうと罰せられるのだ。


 が、その可能性を彼は否定した。


「なんで《《生き返ってる》》のかは少し複雑だから後で話してやる、今は帰るぞ」


 何もない空中が割れると、奥にとんでもなく幅の広い川が見える異世界が現れる。童河岸を何度も取り逃がしているあのワープ能力だ。ニクスは強引に体を起こす。


 誰もがバスタードたちに追撃を加えるものだと思っていた。


「スキャン終了。対象ロックオン」


 握り締めた拳は敵ではなく、いくつものカビの砲弾に向かう。動き出したカビは、遠く離れた町を目指して高速で飛んでいく。さらに、糸で操られたかのように跳ね起きると、閉じようとしている空間に掌底を放った。

 童河岸……フリゲートはそれをよけようともせず、柄にもなくかなり披露しているバスタードを守るために前に立った。まともに食らうも全く効いた様子が見えない。衝撃波が歪まされていた空間を崩し、二人は異世界からはじき出されてフィールドに引き戻される。


「こいつ……怒りでリミッターが外れてやがるな? もともとカンストだったくせに今度はそれを100%攻撃に転嫁できるようになりやがった。俺がマックスレベル(Lv.100)じゃなければやられてた」

「お前が人類の歴史上唯一の、Lv.100を達成した人間……嘘じゃないみたいだな」

「見ろ、バスタード。今度はあいつ、お仲間を殺しにかかったぞ。能力が人間の本質を理解したな」


 その言葉通り、ニクスは観客席に飛び移ると疲弊もお構いなしに攻撃を始める。もちろん周囲の安全も顧みない。その豹変ぶりに一種組合のメンバーもニクスの組合メンバーも戸惑いを隠せない。


「何してんだ……アゼタ!」

『ここで危険因子は摘む。いや……【狩る】と言った方が良い』


 精神世界では、ニクスの体が黒い鎖でがんじがらめにされており、いつもニクスの経っている位置には白衣を着た男――アゼタがこちらに背を向けていた。こちらを振り向いた彼の目には、『失望』の二文字が浮かんでいた。


「お前……失望してるのか?」

「ああ。お前がかたくなに覚えていないというならそれでいいが、生前の世界では研究者だった。そこそこ成果を出して、会社の社長にも気に入られてな。が……俺は見たんだよ、人間の卑劣さを。知ったんだ、愚かさを」



「だからこの世界の人間はどうか、ずっと値踏みしていた。それで、今の行動を見た時に俺は確信した。人間なんてどこでも《《そういうこと》》しかできない存在だと」


 ニクスの頭が痛む。アゼタの言う「そういうこと」が、なぜだかよくわかってしまった。それは、自分にも覚えがあるからだ。それを少し前までされてきたし、名も知らぬ誰かにしてきた事と同じ行為だ。


 ――蹴落とし。見下し。排除、排斥……



「……そうだ」

『理解したか。――狩るぞ』


 カビが町に落ちていく。その街には、たくさんの人々がいる。


 ライシスは、カビの中でニクスの理性が消えかけているのを感じ取った。人格が侵略されたのか、それとも本人の潜在意識が人間を『敵』と見なしたのか。それは彼のみぞ知ることであるが、相棒の危機を見過ごす訳には行かない。


「フィラー! あのカビを吸収するんだ! パルメリアは観客を屋内に退避させろ!」

「今助けるよ、ニクス……!」


 ベクターは、バスタード達から目を離さずにメンバー達をまとめる。怒り心頭でまともな判断ができないフィラファスに変わり、指示を飛ばし始めた。我に返った彼女は吸収したエネルギーを放出して浮き上がると、カビを抑えに会場から飛んでいく。


 ニクスが振り向いた先には、リカバリータイムがすぎて再度ワープできる状態になったフリゲート達がいる。


「何帰ろうとしてんだよォ」


 腕を振り上げると黒っぽい風が吹き、二人の体が泳ぐ。バスタードの左側がガードの体制をとるが、観客席から赤いレーザーが飛び二人を乱打した。


「熱い……燃焼して無いくせにこの熱量、恐ろしい」

「確かに強いが逃げ切れる。戦いたいんだけど残念だ、退かせて貰う……何っ!?」


 空間が閉じてゆく。だが、フリゲートの腕が爆発する。血がボタボタと落ち、痛がらないものの驚愕の表情を見せる。


「何をした……!?」


 ニクスは何も答えない。



 ――――既に、アージスが一度止めた暴走第二形態に入っていた。







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