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森の全貌

これで本日分は終わりです、明日で全部更新して追いつかせます


 ――この森には二つの名がある。ひとつは、隠れみの森。もう一つは……


「うわっ!? こ、これは……!! 蛇の大軍か!」

「クマだ! 逃げろ!!」

「この草は食べれるかな……?」


 志願者が消えていく。自分は、何があっても脱出しないと。どこまでも大本と精巧に作られているこの森は、『冥界の入口』と言われるほど死亡者の多い森なのだ。原因は色々あるが、貴重な資源が眠る場所なので入る人が絶えない。


 そして、死亡者を増やす原因の一つは、コイツだ。


「久しぶりじゃん、森のヌシ」

「ブフー……!!!」


 鼻息荒くニクスの前に躍り出てきたのは、象のような大きさのイノシシだ。こちらを見ると目をらんらんと輝かせ、凶悪そうな顔になる。


「俺の事は覚えてるかな? おーい?」

「……ォオオオオ!!」


 凄まじい勢いで突進してくる。まるで竜巻だ。ニクスは槍を突き立てると棒高跳びの要領で突進のラインから外れる。個人的にヌシを殺すのは嫌だ。うり坊の時に村に迷い込み、拾い、育てて森に返したからだ。魔法で作った偽物なのか? などと考えているが、本物であった時に取り返しがつかないので逃げの一手に転じる。左を見ると、イノシシの好物である果実が実っていた。素早く切り落とすと、奴の鼻先を飛び越えるような形で投げる。思わず反対側を向き、食べてしまった隙に走って逃げる。

 やはり体力が無いので数分ごとに息をととのえ、走り続ける。その時に胞子から得た情報と現在地を確認し、ちょうど森の出口に向かっていることを確かめると、日が陰った。鳥か? と思い上を見ると、もう夕暮れだった。ロスが酷すぎた見たいだ。夜歩くのは悪手だが進むしかない。


「寒くなってきたぁ……あぁあ……」


 ビクビク、ブルブルしながら歩みを進めるが、視界の端に白い服らしきものを見つけ、恐怖で心臓が高鳴る。ナニアレ、イキモノデスカ?

 慎重にそちらをを見ると、布の切れ端が木に引っかかっていただけであった。回り込んでみると、服の片方に赤いものがべっとりとついており、一目でこの場所で何があったのかを理解した。この布の持ち主は何かの腹の中に入ってないといいが……。


「う、うわあああ!」


 かなり近くから男の悲鳴が聞こえる。よく見ると血の跡が木や草に点々と続いていた。負傷した程度で済んでいたのは不幸中の幸いだ。ニクスは声の方向へ走り出した。同時に、獣臭さが強まる。ヌシ以外の脅威として、オオムカデや猛毒の角を持つシカがいるのだが、この匂いだと後者だろう。ヌシが抑えていたので昔は被害は無かったのだが、『あのシカに出会ったら命は諦めろ』とまで言われるほど獰猛な生物だった。


「オラ! こっちだ! かかってこいや!」


 シカの後ろ姿が見えた。そして、尻もちをついて追い詰められている青年も。大声で飛び出しながら、手近な枝をボキッと折る。そして槍を掲げる。疲れて槍を持つ手が少し震えている。


 途端に奴の顔が憤怒の形相に変わる。このシカは、縄張りの木を汚されるのを非常に嫌う。ノーモーションからニクスの目の前に角が飛んでくる。が、直前の見切りが出来ているので間一髪で避けながら、足に枝を突き刺す。痛みでのたうち回るシカを尻目に、青年の方へ駆け寄った。


「大丈夫? 」

「……腕をやられた、あのツノには毒が……」

「知ってるよ。あの毒は強いけど、掠った程度の量じゃ1週間は持つよ。ああ、この毒より強い毒素と反応して相殺されるって特性があるから良かったね」


 肩を貸しながらまた、その場を離れる。シカの声は遠ざかり、消えた。しばらく歩くと、紫色をした岩石が転がっている空き地に出た。


「……何が良かったんだ?」

「そりゃ、君はツイてるからだよ。ひとつは掠った程度で済んでいる事。2つ目は、この場で解毒出来ること。分かるだろ? 」

「俺の事よりも、友達が……」

「はぐれたのか? それとも殺られたか?」


 やられるわけないだろ! と不快感を露わにされる。ニクスは流すと彼の肩に触れる。痛そうに肩が跳ね上がり、顔は青くなるが、こちらの手は反対にどす黒くなる。このカビの毒素は正直、劇毒以上だ。しかしその毒素の発生には条件がある。まず、相手の体温が37度程度であり、疲労している事。そして、健康な血液であること。不健康な血液には媒介となる鉄分が少ないため効果が現れない。あとは人の体内に入ったこのカビは雑魚中の雑魚のため、毒素を出す前に駆逐されてしまう。

 腕からカビが伝い、青年の腕も黒くなり始める。途端に青い顔がだんだん普通に戻ってきた。程なくして口を開く。


「はぐれたんだ。あのシカに分断されて、後で落ち合う手はずだったんだけどこのザマで」

「どこで落ち合うつもり? まさかとは思うが三連沼じゃねえだろうな?」

「なんだ、そこは。というかお前、よく知ってるな。もしかしてこの近くの出身か?」


 隠すつもりは初めからなかったが、バレてしまった。まあいいや。


「おう。もし3つ縦に並んでいる池で待たせたのなら今すぐ行け」

「待ってくれ、お前も来てくれ!」

「……分かった」


 ここから奥に行く三連沼には今までとは比べ物にならない危険が山ほど転がっている。転ぶだけで死ぬかもしれない。それに、この試験の全貌が見えた。ここは人工林や魔法で作られた場所ではなく、隠れみの森に木を増やしただけの場所だ。ヌシがいた時点で察したがこの岩も覚えがあるし、恐らくそこまで遠くない場所に沼もある。


「おい、ベル! どこ……むぐっ」

「大声出すな、ここから沼地だ。転倒すれば底なし沼にハマるし、ここはオオムカデとか鎧虫の巣窟だ」


 うなづく彼をチラ見してから歩き出した。少し行くと、沼から張り出した木の上に人影を確認した。ハンドサインで呼び、小声で「あれ?」と聞く。彼は目を細めてよく見ると、大きくうなづいた。


「アレスト……やっと会えたね!」

「シーっ。えっと、これからどうすればいいんだ?」


 感動の再会。ベルというらしい女性は俺を見ると怪訝な表情を見せる。アレストと呼ばれた彼はニクスに支持を仰ぐ。


「ここから離れよう。沼地を横切って歩けば森は出れる。でも……ま、それはさせてくれないだろうなあ」

「あなたは?」

「俺はニクス。一時だけ彼と手を組んだ」


 そんなことは全く、一言も言ってないが。が、彼女は信じたようだ。目の色が深い青から緑に変わる。顔が険しいのでステータスでも見てるのかな?


「……どういうことよ、あなたのステータス。めちゃくちゃじゃない」

「これでも強いんだから驚きだろ」


 などと意味不明な供述をしながら沼地を歩く。ステータスの話をした時、沼の中から2本の縄のような触覚が見えていたことにニクス達は気づかなかった。


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