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ヘイズライン・開催

相変わらず生き物が好きです。皆さんはどんな生き物が好きですか?

 仕事を終え帰ってきたニクスは、カレンダーを確認して愕然とした。後二日でヘイズライン杯が開催されてしまうではないか。目が回ってきた。


 結局やったことと言えばごろつきの市民権を勝ち取ったことくらいだ。仕方がない、今日は寝よう。たぶんカビと会話することになるだろうが、なんだかんだ言ってアドバイスをくれることはある。


「やあ、能力。そろそろ前の疑問を教えてくれ」

『ようやく来たか。だが今は、先するべきことがあるだろう。終われば明かす』

「今の言葉を忘れんなよ? で、どうしよう。せっかく出るって言ったのに負けたら申し訳ないし」


 もやが形を取り戻した。人の型に集まると、瞑想しているような手の組み方で正座する男性の姿になった。顔は当然真っ黒で判別できないが、普段からもや状だったので、このような姿を取ることができることには驚いた。感情がダイレクトに伝わったのだろう、影は呆れたような声を上げる。


『何を驚いてる、俺は無形だぞ』

「あ、ああそうだった」

『正直に言って、お前の実力では勝ち進んだとしても周りを巻き込む。自分のパワーは上空数百メートルの雲にも届くのは覚えているな? 制御して参加するしかないだろうが、そうすると今度は勝ちが怪しくなる」

「じゃあどうすんだよ!」


 両手を広げて思考を放棄するニクスに対し、正座するカビがあごに手をやると自分を指さす。


『俺に変われ。お前が能力側に、俺が本体側に反転するってことだ。俺たちは《《同一人物》》だ、能力の出どころも特殊だからお互いにそれができる』


 きょとんとするニクス。いや、カビの言う意味は理解できている。だがそれをして自分に主導権が返ってくるのかという心配がある。過去に矮星を放たせようとしていた経緯もあるので、それはかなり怖いという他ならないだろう。


 ニクスの考えていることがわかっているのか、カビは思い当たる節があるようで、仕方がないといった様子になる。少なくとも自分の意思が強すぎてニクスや周りに迷惑をかけていたことはわかっているようだ。


 どうして普段簡単な命令しかできない、いちいち命令を与えなおさねばならない程に融通が利かないくせにそこまで複雑な思考ができるのか、それについて噴水の如く吹き上げる疑問をうっちゃっておきながらニクスは考える。


「カビ、お前ぇ……言いにくいな、これからお前の名前を決めてやる。名前があるなら今ここで言え」

「…………そうだな。『アゼタ』と呼べ」

「アゼタ?」


 名前に意味なんてあるか、とそっけなく返されてしまい、これ以上何かを聞くことすら許されない雰囲気になってしまった。そして、とアゼタが続けだした。


「俺は前世の記憶が残っている。具体的には『前世のお前が死ぬまで』の記憶をな。人生の経験値は俺の方が上だが、戦闘で言うならば下地が足りなすぎる。そこでお前と主導権を交代すれば数十年分の経験値を持ったニクスが完成する」

「その経験値は、いったい何の役に立つんだ?」

「……応用力。いままでのお前がやってきたとっさの機転は、俺と強く共鳴した時にこぼれた知識と経験だ。それをダイレクトに放出できるということはどういうことかわかるだろ」



 今回は寄生体と宿主ではなく、能力としてお前に味方してやると言っているようだ。信用できないが、これで暴れだしたとしてもみんなが止めてくれる。何ならディエールやバスタードのような戦闘狂を呼び寄せることも可能だろう。



 ニクスは深く息を吸い込む。かなりカビ臭いことに初めて気づいた。風呂場の汚れを放置しすぎると出る、あの匂いが大量に肺に入ってきてむせる。息も絶え絶えに了承した。


「わかった。でも、それは勝てなさそうな奴が相手だった時だ」

「……あくまでも自分の力を使うと。それもいいだろう、さあ話は終わりだ。力を残さねばならんから一度休眠する」


 瞑想する人型が黒いもやに戻ると、漂白されたように真っ白になった。全ての機能を一時停止したようで、いつも見る液体から無理やり排出された。世界がぐにゃりと捻じれると自室の天井が見えた。外はまだ真っ暗であり、早く起きすぎたようだ。ニクスはため息をつくと、もう一度目を閉じた。


 朝、何かが腹の上に乗った重さで目が覚めた。ライシスが勢いをつけて飛び乗ったらしい、みぞおちが爆破されたかのような痛みで悶絶し、彼女を振り落としながらベッドから転げ落ちてしまった。


「いったいなぁ」

「痛いのは俺だよォ」


 緊張のあまりいつもより少ない量の朝食をとり、どこを歩いているのかわからないままニムカとドラグレアに連れていかれた場所は、狩人の登録試験を行ったあの大きな闘技場だった。前回ほどではないが、相応に人が居る。左を見ると物騒な武器を持った兄ちゃんが居たりして、面白い。なんだよ、釘バットとかちょっとカッコイイじゃん……。


「俺もあれ使おうかな……」

「……わかる……」

「行くよ。なんで男ってあんなものに憧れちゃうのかしら」


 語彙力が吹っ飛んだ二人を引きずり、ニムカは進む。受付をしなければならないそうだ。


「いやあの無骨なフォルムは」

「シャラップ! 優勝枠で参加します、ニムカです」

「準優勝枠……ドラグレア」

「あ、えっと、優勝組合枠のニクスです」


 出かけにフィラファスから言われた言葉をそのまま復唱する。受付のお兄さんは深くうなづくと、無言で『通ってよし』の手合図をした。


 ついに始まるのだ。






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