手出し不能・lv1
最近安定できてます
ヘイズライン杯に出場することを決めたニクスは、組合の依頼をしばらく受けずに紙に自分の技とカビ側の技を書き出していた。新聞にアージスの事が書いてあると聞いていたが、多分何か功績を立てたのだろうと読みもしなかった。
「8、9、10……か。手数が足りないな、あと5は欲しい」
「アスペルヘイル状態だとまず何か技を使うことはできないんだろ? お前は汎用の利く技が多いんだから何かそれを特化させるのはどうなんだ」
反対側の机では、ベクターが相談に乗ってくれている。現在の技はニクスのものが黒白翼、壊槍と重槍、過淀流星群、クロイト、ベクターレイルの六つ。カビのものが『矮星』『恒星』『超星』『多弾頭弾』『ミサイル』の五つ。アスペルヘイルはもともとアクセローザ戦の時に使っていた『真菌の砂上楼閣』が変異したものだからカウント外としている。
『すべからく滅ぼす矮星』は、町一つが壊滅する威力のカビの塊を上空から投げ落とす文字通りの隕石であり、何かあれば即座に落とそうとするカビと格闘することがままあったものだ。
恒星と超星は聞いたことがなかったが、超星の方はディエール戦で使った聖剣の一撃に対抗した光らしい。あれはヨモツミタマ、と呼んでいたが実際の名前は『はざま解放く超星の礎』だそうだ、ちなみにこれはカビ情報だ。
恒星はカビも全く語らないのでどのような技なのか全くわからないが、話題にすら上らせないということは矮星をしのぐ強大な力であることは推測できた。
「投擲はどうなんだろう」
「槍を回収することはできるけど投げる隙でやられそうじゃねえか?」
ベクターの指摘を受け、ニクスはふと思った。わざわざ新技というものを開発する必要はないのではないか、と。今あるものを発展すればいろいろなやりようはあるはずだ。新技に固執して時間を無駄にするのはいい事ではない……
彼に礼を言うと、依頼の張り紙が張ってある掲示板を見に行く。できれば制圧、鎮圧、防衛が内容の依頼が良い。
――あった、村役場の監視。ニクスにとっては報酬よりも経験が重要だった。
その足で隣村の役場まで行き、挨拶を済ませると酒場へ行く。情報は酒場に集まる、とフィラファスやガレスは言っていたからだ。
カラン、という音を立てながらカウンターに歩みを進める。ヘンなものを頼んで絡まれてもしょうがないので『水を一杯』と言って置き、周りをそれとなく見回す。ガラの悪そうな連中がそこそこいるが、ベクターのほうがもっと人相が悪いので大して怖くない。
と、酔っ払いが絡んできた。「兄ちゃん酒は飲まねえのか?」と聞いてくるので「仕事中だから」と断ると、大笑いしながらどこかへ行ってしまった。何だったのかさっぱりわからないが、ちょうど目の前に水を運んできた酒場の主人に質問する。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいですか」
「はい、なんでしょうか? ……私どもが何かやりましたか?」
小さめの荷物から狩人の証明である『紫雲水晶の首飾り』を見せると、彼は心配そうに声を潜める。この首飾りはすべての狩人が共通して持っているので、もしかしたら一種組合の人間が取り締まりに来たのかも知れないからだ。
「ここ最近、町役場でトラブルを起こした連中とか知らないですか? 噂とかでもいいんだけど」
「そうですねえ……私は何も知らないですねえ」
「おお、兄ちゃん狩人だったのか! なんで首飾りをつけてねえんだ? いらないならくれよ!」
突然酒瓶を持ったひげもじゃの男が話に割り込んでくる。さっき絡んできたやつとはまた別の男のようだ。ニクスはあまりきつい目をしないが、カビが袋で隠されている槍に巻き付いている途中だった。こちらも思考が攻撃的に変化したのを感じ、嫌な寒気で目を細めた。それをにらんだ、と判断したのか男の目つきが変わった。
「いい目つきするじゃねえか……」
酒瓶を持った手が少し動く。それより早くコップに残っていた水を顔にかけ、立ち上がると槍の反対側でみぞおちを突く。よろめいた男が目を開けた瞬間、すでに背後に回り込んでおり、水平に腕を振り上げた。
カビが手に宿ると、ただの手刀が名刀に早変わりする。伸び放題の髪を後ろからバッサリと切り落とすと、振りぬいた黒い人差し指が元の色に戻る。男はカビと『髪の毛』という体の一部が接触したことにより浸食が始まった。頭皮をかきむしりながら酒場の床を転げまわる。
ニクスは出した人差し指をチッチッチ、と振ると男に顔を近づけ、言った。
「さっぱりしただろ。髪も頭も……一つ質問があるんだけど、ここ一週間くらいかな。町役場でトラブルを起こした奴がいなかった? 教えてくれたら解除する」
「うわぁあ! こ、この近くを、根城にしてる荒くれもの、の一団がいる! そいつら、は市民権が得られないことに腹を立ててた! 五日前に町役場に行ってた!」
「貴重な情報ありがとう」
ニクスが髪の毛にチョンと触れるとカビが返ってくる。男は息も絶え絶えに情報を告げた後、酒場を転がるように出ていった。周囲の酒飲みたちは『今のなんだ?』
『まさか自然系か』などと噂しているが、ぐるりと見渡すと黙ってうつむき、酒をあおり始めた。
カウンターに荷袋から高級なお酒《《一本》》分のお金を置き、「お騒がせしました」と小さく一礼すると町役場に向かう。
「てめえ! ふざけるんじゃねぇぞ!」
「お引き取りください!」
役場から怒声が聞こえてくる。ニクスは慌てて現場に向かうと、さっきの情報通り薄汚い服を着た十数人と、町役場の受付嬢が口論になっている。両者の間に割って入ると、事情を聴く。
「待った、待った! 寄ってたかって何してんだ?」
「何だてめえ」
「邪魔すんじゃねえ、こっちは生き死にが掛かってんだ!」
頭に血が上ってわめき散らす集団に対し、ニクスは首飾りを見せる。すると周りが数歩引き、受付嬢は安心した表情をする。
「俺は狩人だ、生き死にが掛かっているなら俺にも事情を話せるよな? 怒ってる理由が正当なら上に掛け合うことも考える」
「……俺らは前の戦争で親を失った。生きるためなら金品を奪い、必要なら人も殺した! 俺たちにも生きる権利がある、それをそいつらは認めないとほざきやがるんだ!」
「ねえ、彼らに市民権を与えない理由が何かあるの? 今言った経歴がほんとかどうかは調べなよ」
受付嬢は自分が味方されていないと感じたのか、人数が人数なだけに面倒くさかったのかニクスを忌々しそうに睨みながら彼らに入るように促した。看板を見ると、営業時間を過ぎていたようで早く帰りたかったのだろう。なぜか気持ちはわかる、うん。
「……十三人全員、身元が証明できたので市民権を付与します。営業時間は終わりですので退出してください」
「よかったね」
戦闘経験にはならなかったが『力で解決』以外のやり方も知ることができた。及第点と言ったところだろうか。戦いはまたの機会で良い。
町役場を出、村の出入り口に差し掛かった時に先ほどの彼らが走ってきた。
「あんた、本当にありがとう! これで俺たちは衣食住を確保できる! ありがとう!」
荷袋を担ぎながら、無言で片手をあげると村を出ていく。今日は徹夜で帰らないといけなさそうだ……。満月を見ながらのんびりと商店街に戻っていった。
その後、手紙で彼らは定職についていることが分かった。でかい槍を持ち、布で首元を覆った黒髪に赤メッシュの男と言ったら『ニクス』であることを教えてもらい、手紙を送ったらしい。手紙も市民権がないと送れないので再度、十三人十三様の「ありがとう」が書いてあった。




