ヘイズライン②・成果
半年かけて育てていたザリガニ君が亡くなりました。悲しいです。
ニクスは、ようやく自分の組合に戻ってこれたことがうれしかったのだが、一日中寝て過ごしていた。
それを見かねたライシスが呼びに来た。
「ニートクス、外でガレスたちが呼んでるよ」
「なんで? 今日何かあったっけ」
いいから、と腕を引っ張られる。ニクスは「うぉ」などと言いながらも素直に階段を降り、組合の外に出る。いい天気だ。陽光がさんさんと降り注ぎ、風は優しく頬を撫でている。
「おはようニクス、三か月の成果を見せておくれよ」
「突然どうしたんですか?」
組合の入り口でガレスがそう声をかけてくる。名前がちょこちょこと変わる彼女だが、まだ記憶はしっかり残っている様子だ。
唐突にニクスが地面にめり込み、体が重すぎて思わず片膝をついてしまう。前に修行をつけてもらったときもそうだったが、とにかく自分が準備完了したらすぐ攻撃してくるので先読みが全くできない。
「い”つも早すぎ!」
「いつもの事よ」
この重さではカビも全く使い物にならず、無駄に動かすと余計な体力を使ってしまう。体力はほぼゼロなのだ、無駄な行動など一つたりともできない……
ニクスは大きく息を吸うと、口から赤い光線を吐き出す。カビの大爆発ともいえるそれは当然重力で地面に落ちるが、ガレスの周りが揺れたことにより彼女に一瞬のスキができた。その場から中指と人差し指でピースサインを作ると、両指の間に黒い光が反射しながら楕円の物体が生まれる。カビはニクスの知らないどこかの文明を知っているらしく、これも何処かの世界の物らしい。自分の考える形は槍や剣、弓矢といったものであり、彼側の思考なのは確かなのだ。
「【あめひさぐ簒奪の多弾頭弾】!」
「なっ!?」
射出と同時に二つに分かれ、それがまた二つに分かれ……数十の黒い球がガレスに向かう。彼女は重力が大雑把に球を押しつぶすが潰された程度ではカビの死滅は起きない。
ニクスが親指を立て、何かのスイッチを押すように指を動かす。目の後ろから血管をなぞるようにカビが覆っていく。過去に使っていた『砂上楼閣』ではなく、正真正銘の近接攻撃に特化した形態だ。
「ウォオォオ”オ”オ”ァ! カンピロバクター・ディクトゥス……俺の体力は能力で補強する……悪いなぁ、押し付けちゃって」
『2分までだ』
能力と相談しながら動くという普通には無い特徴が一つの先端まで至った結果がこの戦法だ。浸食率に応じて体力が上昇するが、その反面、全体の持久力と免疫力は落ちていく。限界は2分で、それを過ぎると疲労で筋肉が壊れてしまう。
『あと1分半』
「さぁ気張るぞ! 行きます!」
「おいで!」
ガレスは両手を強くたたくと、風がそよ風から暴風に変化した。とたんにニクスが視界から消えた。いつの間にか目の前にいた彼にまわし蹴りを受けてしまう。後ろに何とか飛んだが、風圧だけで服の腕部分と腕の皮が剥げてしまった。さらに組合の生け垣がバラバラに吹っ飛ぶ。
それを育てたパルメリアの悲鳴が遠く聞こえた……。
さらに振り上げたままのニクスの足に、さらに光が灯る。それはピンポイントで転ばすことで不発にしたが、倒れた状態でもカビを展開する。周りに放置されていたカビが新たに広げたカビとリンクすると、槍になって飛んでくる。単一の命令しか受けない彼らに次の行動をさせるためには一度体内に戻さなければならないが、新たに広げたカビとくっつくことで指示を与えなおせることをニクスは最近発見した。
この凄まじい成長に、ガレスはうれしさを隠しきれずに笑ってしまう。
『あと30秒』
「とった! あと一発!」
「いや、よく成長したよ……でもそれはあんただけじゃないよ~?」
そう言って笑う彼女の足元に、魔法陣が描かれた。ニクスの放った槍がエリア内に入ると、一瞬で消え去ってしまったが、同時に不穏な風が二人の間を凪いだ。攻撃力を全部反射した力の塊がニクスを打ち抜いた。かろうじてカビを身代わりにしたが、同時にタイムリミットが来た。黒化がすうっと引くと、外部にいるカビたちが一斉に戻ってくる。足がぶるぶる震えているのは、今のを食らったとしたらどうなっていたのかという恐怖なのか、疲れなのか。
どちらなのかニクスにはわからなかったがそれでも、今は成長を喜ぶべきなのだ。
「ホント強くなったねえ。でも途中で誰と話してたの?」
「うーんと、もう一人の僕」
体が少しざわめいた。




