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ヘイズライン

お久しぶりです。お待たせしました!

 ニクスは帰路の道中、何があったかを事細かに話しまくった。ベクターは嫌な顔一つせずにうんうんと聞いている。たまに同じ話をループしても、ずっと耳を傾け続けてくれた。ライシスの方はループするたびにため息をついていたが、ところどころ適当になったりする話を補足してくれていた。


 話が終わったのは太陽がもう地平線の向こう側に差し掛かった時だった。ところで、とライシスはベクターに質問する。


「ヘイズライン杯はどうすんの? 組合枠があるとはいえ出ない方がいいと思ってるけど」

「そりゃあ俺の決めることじゃない。毎年多数決取って『出場』になってるんだ」

「殺しがオッケーの大会なんだろ?」


 いんや、とベクターは首を横に振る。


「殺しはダメだ。でも、毎年不可抗力って扱いだが死人が出てる。だから実質殺し合いだなんだって話だ……。ま、うちからは今までけが人すら出てないから大丈夫だ。……問題は、だれでも参加できることだ。未知の能力を持った奴が過去に飛び入りした時は8人の死者と20人の重傷者が出てる」

「ええ!?」

「でもその8人のうちの1人はそいつ本人よ。反射された自分の攻撃をまともに受けて死んだわね」


 間抜けな死に方だ。自業自得そのものと言っても良い。しかし、7人も殺している奴がいたということは今回もそういうことが起こる危険性はあるだろう。今更人を殺すことに関しては前ほど考え込まなくなったものの、どこかでバスタードみたいになるのかという恐怖が大きい。


 ニクスは迷わず『出ない』を選択しようと考えた。人間として最も恥ずべき行いであることは明白だからだ。


「今回は俺も出ないに投票するつもりだ。あの根暗研究者どもだけじゃない、ある宗教も俺らを狙っていることが分かったからな。お前らがゼクトオンにいる間、何度かメンバーが襲撃されたりつけられたりしたんだ。名前は『レクテ=チャン』、カルト教団に近い」

「聞いたことのない教団ね。うちの組合は確かに最上位の概念能力とか超少数の能力者ばかりだけど、狙う理由ってあるの?」

「お前もだろ。……奴らはお前を狙ってるらしいぞ、ライシス」


 なんだかんだ言って聞いていなかったが、彼女はどういった経緯でこの組合に来たのだろうか。聞くと、彼女の凄絶な身の上話を聞くことになってしまった。


 ライシスは、とある良家のお嬢様だったそうだが、生まれつき能力が発動しないという先天的ハンデを抱えていたようだ。だが、この世界の人間は『何かが増えてならば、別の何かが生まれつき優れている』ことが非常に多い。ニクスがそうであるように。ベクターが、フィラファスがそうであるように――


 彼女は、能力がない代わりに魔力とそのコントロールが非常に優れていたのであった。2歳にして、生まれて初めて開いた魔導書に記されていた未知の言語をまるで母国語であるかのように発音し、家族とその周辺を驚かしたという。


 だが、そんなニクスとは雲泥の差な生活もそう長くは続かなかった。両親がその才能を恐れ、里子に出してしまったのだ。施設で育った彼女は、そのことがあって今の強めの性格になった……とベクターが横やりを入れたせいで顔に魔導書をたたきつけられ、声にならない断末魔を上げた。


 が、ライシスは非常に嫌そうな顔をしながら、衝撃の事実を暴露してきた。


「私をこの組合に招き入れたのは、ベクターなのよ。私の名前はライシス・サベージ・エクスカリウス……」

「戸籍上は俺の娘だ」

「……娘? ……むすめ、ムスメ……む!?」


 すめ、と彼女が言葉を引き取る。養子だったのか。だから反抗しまくってるんだな、ちょうど反抗期と考えれば親に、親父に取る態度そのものだ。が、そんなことをすぐさま考えられるほどニクスは熟成された人間ではない。


「まあ、俺自身の性格にだいぶ近かったし、こいつ今はこんなこと言ってるけど俺が帰ろうとしたときに『いかないでぇ~』って……クポォ!!」

「死すべし」

「えっへへぇ~そうだったんだ~……やべ、にやけが止まらねえ」


 ライシスが顔を真っ赤にして殴り掛かるより先に走って逃げる。敏捷性はちょっと自信がついたころだが、完全に体力の概念を失念していた。すぐに捕まると首を締めあげられる。ニクスはすぐさま死んだふりをしてみるが、それはクマに対して死んだふりをするのと同意義なのだ。


 ――容赦なくぶちのめされてしまった。



「あっはは、ごめんごめん。でもベクターがなんだかんだライシスと絡んでて、ライシスも口で言うほど嫌悪してないっていう矛盾が解けたよ」

「いいや、嫌いよ」


 へいへい、と適当に流すとニクスはヘイズラインの話を蒸し返した。ニクスは出たくないということを伝えると二人とも頷いた。


「勿論出たくなきゃ出なきゃいい。でも、出る奴は出るぞ。実際毎年ドラグレアとニムカ……あいつはお前と会ったことがないか。が出て、優勝か準優勝をもぎ取ってうちの収入源の一部になってる」

「ドラグレアの不意打ちはほとんど回避不能だしね、伝説になりつつあるわよ」


 ニクスは彼から直接、戦闘『技術』を叩き込まれた。その時にも体験したあの攻撃はもはや芸術の領域だと感じた。視線の誘導に始まり、小ワザを堅実に積み重ねていく戦闘スタイルは結局自分には合わなかったが、その考え方と初動には彼の動きがかなり反映されている。遠距離攻撃を確実に当てるために、不意打ちから入るのが半ば癖になってしまっているのはそういう理由だ。


 他にも過去にどんな出場者がいたのかに興味がわき、二人は覚えている限りのことを話して聞かせた。ニクスのような『ステータス崩壊』はいないが、ライシスのような『無能力者』やガレスのような『概念能力者』はいたらしい。



 ここで、ニクスの特徴に名前があることを始めて知った。ステータス崩壊。正常な値は10を基準としてプラスマイナス2~4なのだが、ニクスの場合は体力がー9、パワーをつかさどるすべての要素、俗にいう攻撃力、火力は+エラー。数値化は不可能な次元に達した。ここまでピーキーなのは発覚時にも言われたが存在していない。


 組合の扉を開けると、豪華なご飯と共にメンバーが総出で迎えてくれ、ニクスはじんわりと温かい気持ちで満たされた。少しだけ、涙がにじんだが後ろで二人が背中を軽く押した。ニクスは瞬きで浮かんだ涙を払うと、顔を上げる。


「ただいま」

「お帰り、ニクス。ご飯できてるよ」






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