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傷は癒えた

お待たせしました、恒例のスタートダッシュ失敗です。ブクマして下さっていた方々には感謝しかありません。


「これは……てか、ここは……!」


 昔のトラウマであり、バスタードとの因縁が生まれた場所だ。童河岸の能力で時を巻き戻された様だ。ニクスは飛ばされる直前、女がいた事を思い出す。ほんの一言程度だが、何かを言っていた。


『増幅強化』『サイノカワラ』


 この言葉から、花開くように童河岸の能力がわかって行く。サイノカワラ、賽の河原。あの世とこの世の狭間にあるとされる場所で、親より先に死んだ子供がその親不孝を責められる。そして、親の供養のため、石を積まされるのだ。最後のひとつを積み終われば開放されるが、完成する《《1歩手前》》で鬼がやってきて石の塔を破壊してしまうので、永遠に救われないという。


 だから、自分たちは親より先に死なないように、元気に生き続ける事こそ親孝行であると言うお話なのだ。もちろん、目に見えるお礼もひとつの親孝行だろうが。


 奴の能力の正体は『事象の一手戻し』だ。同時に、となりの女の能力はそのまま『増幅』であるだろう。本来は行動を含めた事象を、それを行う前に巻き戻す能力なのだが、増幅により数年前まで遡ることが可能となってしまったと推測できた。


「俺は……またアレを見なきゃダメなのか」


 自分でもわかるほど、顔が苦痛に歪む。力が入りすぎて、地面が蜘蛛の巣の様にヒビ割れるがそれすら気が付かない。首や体に刻まれたキズが、ズキズキと疼いているのを感じる。ニクスは全てを思い出した。この地獄を、辛さを。


『――この傷は、これから背負う心の傷だよ』


 向き合うべき時期に、トラウマに向き合わなかった、心の押し入れに閉じ込めて楽しい思い出で満たして『風化』を望んでいた。充実しているように見えて、やりたかった職につけて満足しているように見えていたのは所詮上辺だけで、その実態は空っぽだったことをニクスは自覚した。


 そして、それが分かった時


 ――ニクス、いつか必ずお前の体を認めてくれる仲間が現れる……いいか、生きてさえいれば、必ず報われるんだ――――


 ニクスは振り返ると、ほとんど反射的に村の中に突っ込んだ。真っ直ぐ走ると幼少のニクスが父親によって隠されている大木のウロがある。その木は里帰りした時にもあったから、場所はしっかり把握している。


 息が直ぐに上がるが、意地でも足はとめない。偶然であったが、飛ばされたこの位置からなら、バスタードを含めて全ての村人にエンカウントせずちびニクスに会うことが出来る。


 走りながら、木のうろから覗いた顔が母親でなかった事を思い出す。この瞬間、ニクスはあの言葉を残した者の正体に気がついた。


 木に到達した。後ろに回ると、ウロに手をかける。中を見ると、小さな男の子が縮こまって居た。彼は、恐怖に目を見開いた。


「安心しろ、俺は……」


 俺は未来のお前だ、と言いかけて踏みとどまる。こんなことを言ってはタイムパラドックスが起きる。


「敵じゃない。いいか、ニクス」


 上手く繋がった。ちびニクスは相変わらず震えたままだが、とにかく『あの言葉』を言わなければ。自分の体内を何かに引っ張られるような感覚に襲われている。時間の揺り戻しだ。時間はもうないのだ。


「これからお前は沢山苦労するけどな、『いつか必ず、お前の体を認めてくれる仲間が現れる』。だから諦めるな。いいな、生きてさえいれば……お前は必ず報われるんだ!」

「……ホント?」


 ちびニクスの目に、生気が戻った。その顔を見た途端、意識がまた遠のいていく。あの時の自分はこんな顔をしていなかったと思う。

 少し恐怖を覚えた。未来を変えてしまったかもしれない……。もう後戻りはしない、自分も向き合わなければ。最後に一言叫ぶと、意識が完全に吹っ飛んだ。




「……良い未来を頼んだぞ! 未来は変えられる!」



 ――――


 飛ばされる前の場所に戻る。視線が定まると、目の前にいる童河岸を見る。驚いたことに奴は地面に膝をつき、苦しそうに息を吐いている。その隣で、仲間と思しき女が脇を抱えて立ち上がらせようとしているが、重くて上がらない様子だ。


 狙うなら今だ。カビを表出させると、先程とは打って変わっていつも通りの挙動をする。奴の能力を掻い潜る方法はもう分かった。


「三連シャドー! 真菌重槍サプロレグニア・ゲーガレス!」


 カビの弾頭弾と青くなった槍を同時に投擲する。すると、童河岸は女の服をがっしと掴み、空いている方の手でカビを振り払った。ニクスの白翼と同じだ。そして槍の方は投げられた瞬間に戻った。また飛んでいくが、それより先に童河岸はあの巨大な池を出現させ、女と共に飛び込んだ。槍は池のあった場所を正確に貫き、巨大なクレーターを作るが取り逃してしまった。


「……クソ、また逃した」


 ……槍を回収すると、ふと、服をめくりあげて傷を確認する。腰にある半月の傷は、跡形もなく消えていた。


 そして、今さっき幼少ニクスにした事をしっかりと覚えており、同時に幼少期の記憶が突然蘇った。そう、あの言葉を知らない人にかけられた……その正体をニクスは知ったのだ。


 未来は、好転したのか。それとも……。







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