悪意と悪意
お久しぶりです、更新しました!!
『悪意の本流』
頭の中で声はそう述べた。今回、この村に来た目的は『辺境の交流がほとんど無い村で過去に行われていた風習が、法改正により禁忌とされた為、続けられているかどうかとそこに潜む危険を撃退せよ』
この村では暴魔と呼ばれる存在。贄にされた人々に少なからず存在する『無念』。それを危険視した村の先代達は井戸に封じ、厳重に押しとどめながら風習を続けてしまったのだ。
「もう井戸に収まりきらなくなったんだろうな、だからほかの村人が道連れにされて行き始めたんだ」
「よく分かるのね」
「俺の能力が教えてくれたヒントから推測したんだ。それは悪意の本流、閉じ込められた無念が恨みを触媒として、悪意の河になったんだ」
村長の方は、迫り来るその影を見つめながらブツブツと訳のわからないことを叫び始めた。
「わ、私は悪くない! 私の父が悪いんだ! だからやめてくれ! 『娶り』も仕方なく続けていた……!!」
「それが儀式……風習の名前ですか」
ライシスは冷ややかな目をレグに向ける。言葉にもトゲがある。名前からして、嫁入りと称して村人を殺していたのだろう。
最近はライシスやフィラファスに新聞を読むように言われ、世間で起きていることを知るようになった。しかし、こんな風に全く表に出ない悪も存在するとは、逆に新しい感覚だ。当然やるつもりは無いけどね!
黒い影は近くにいる人間を狙うようにコチラに向けて迫っている。パンチやキックが通じる相手ではなさそうだ。能力は多分通じないと思う。
ライシスは無言で光の槍を放つ。この槍の形はどこかで見たような……と、少し自分の背中を見てみる。
「きゃ!?」
「効いてないのか!? 闇が深いな……!」
槍が影に直撃した途端、形が即座に変形した。槍を取り巻くように展開すると握り潰す。まるでカビと同じだ。
それを見ていたレグは、何を思ったのか影の前に飛びだした。
「おい、何やってんだあんた!」
「暴魔よ……! この二人の命で許してくれないか!? だから私だけは!」
「どこまでもクズね!」
とんでもないことを言い出した。が、目を見た瞬間に正気を失って《《いない》》ことを読み取り、一瞬で評価を手のひら返しすることになった。
――影はさらに広がると、レグを通り過ぎてこちらに向かってきた。槍を突き立てると両方の掌に緑と赤の光が灯り、それを合わせる。
「まもれ」
槍の刃とその接合面に切れ込みが入ると細い線が柄の中間ほどまでに入り、そこからオレンジ色のエネルギーが流れ出し、ライシスを護るように半円のシールドを形成する。
ニクス本体は、カビを放出しながら全身をもや状に変え、やはり半円に変形すると防御する。影は二人に弾かれた。レグは期待を込めて振り向くが、その瞬間影が彼に襲い掛かった。影も人型に変形すると、抱きついて少しづつ飲み込んでいく。
「え……? い、や、やめてくれ! 痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!」
『痛い』と叫び、泣きわめきながら消えていく。カビから戻ったニクスはその声を聞くと耳を塞ぎ、目を塞ぐ。オレンジ色のエネルギーも消え、槍も元の形に戻る。彼女は身じろぎせずに魔導書を閉じ、光魔法の準備をしている。考えていることはよく分かった。元凶の子孫を自らの手で殺すことで、大量の無念が集合したこの影は、成仏によりある程度の弱体化が見込めるはずだ。なんなら全員消えてくれるまである。ニクスも槍を構えようとしたが、体がかなり重い。何か影響を受けているようだ。
「なんだよ」
『響く』
話しかけると頭の中に返答が帰ってくる。響くとは何が言いたいのだろうか。
なんとまあ、都合の良いことに、アレスハーウィンの言葉を思い出す。
「――自然系の能力は攻撃的な意志を持つ」
攻撃的な意志、これを悪意と置き換えてみたらどうだろうか。響くのは、同じ感情を強く持つ存在どうしが共鳴しているからなのではないか?
能力をアレに向けて使わなくて大正解だったようだ。最悪の事態になっていたかもしれない。
影はかなり収縮している。攻撃は今なのだが、カビが動こうとしない以上仕方ない。
「ライシス、頼むよ」
「ハイハイ」
槍を地面から引き抜きながら頼むと、彼女の魔導書から光が連射される。今度は防がれなかったようだ。命中する度に影は小さくなり、最後に大きな光をぶつけると爆散した。
ニクスは完全に飲み込まれ、残骸と化したレグを確認しに行く。そこには人間の下顎の骨が残されるだけだった。
「……自業自得だな、お前は俺たちまで売ったんだ」
「胸糞の悪くなる奴だったわ、早くこの村を出ようよ」
二人は足早に立ち去る。カビはいつもの調子で、発動時以外はうんともすんとも言わない。しかし、ごくたまに夢に出てきては色々話しかけてくる。なぜ話しかけてくる物が能力のカビであるか分かるのかと言うと、それはほとんど本能というか直感と言うものだ。
雰囲気、と言うべきか。そこからは力強いものを感じている。顔はその時によって変わっているが、特徴がないため正確に言えないのがこそばゆいところだ。
組合に戻り、風呂もそこそこに寝転がると、また話しかけてきた。つまり、夢だ。
「最近、饒舌になったじゃねえか」
『宿主よ、お前はオリジンに会ったな、そうだろ? 炎の剣を持ったやつを倒せたのもその為だ』
「オリジン? 何の話だよ。おれはそんなやつ知らないぞ」
いや、とカビは告げた。
『俺たち生物ベースの能力は得られるべき人間しか勝ち取れない。自然に愛されていなければ得られないのさ。そもそも生まれつき能力が拡大化しているのもおかしいんだよ。お前はこの世界の人間じゃねえんだ』
「俺が人間じゃないだと?」
何を言われているのかよくわからず、ちんぷんかんぷんな返答をしてしまったニクスだが、何となく大意を取ってみた。
カビはため息をつくと、わかりやすく言い替えてくれた。こう思うと、能力と会話している自分は異端だと感じる。
『お前はオリジンに選ばれてこの世界に転生した、元異世界の人間だってことだ』




