呪われた村
お待たせしました
「よく頑張ったな、男前だ。あとは俺らに任せろ」
「真っ直ぐ走るのよ。振り返らずに走り続ければ、お母さんの所に行けるわ」
「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
槍を軽く構えている男性と大量の本を展開している女性に、少年は声をかけた。目の前には降って湧いたように大量の影が居り、唸り声を上げている。
「……これに懲りたら夜に森ん中には入るなよ。さあ行け」
言われるがままに、少年は走り出した。真っ直ぐに。だが、思わず一瞬だけ振り返った。そこには夜の闇が広がるだけで、2人の姿は見えなくなっていた。唸り声は相変わらず聞こえているが、こちらに近づくものは居ない。
「こいつら、タダの野獣じゃねえな」
「カビに耐性があるのかな? 野生動物はそういうのもあるのかもね」
とは言うものの、その生物の持つ耐性を大きく超える量のカビを感染させて居ると沈黙させる事が出来ることが分かっていた。が、人間なら即死する量なのに意識を失うのみで死亡しないと言うことには驚いた。恐るべき生命力と言った所か。
――30分ほど動物の群れと格闘し、全て追い払った後で2人は、本当はこの森の向こうに用事があったのだが、男の子のことが心配になり元来た道を戻る。2人して仕事と私情を分けられない性格なので非常に回り道が多いのがこのコンビの短所と言えよう。
しかし、逆に『SOSは見過ごさない』という長所でもあり、それは狩人が狩人と言う職業として、高い需要と信頼を得ている事実の基礎である。
さて、男の子は見つかった。ちゃんと母親の所に戻れたようで、こちらをずっと見ている。二人は木々の間から少しだけ前に出て、手を振ってからまた森の奥へと入っていく。
すると、母親であろう人が大声で質問をしてくる。
「どこの組合の方ですか!? お名前を教えて頂きたいのですがっ!!」
「……名乗る程のものでは無いですわ」
「俺、物忘れが酷くて名前を忘れちまったよ!!」
は? と隣のライシスにド突かれ、ニクスはあばら骨を抑えながら、ライシスはそんな彼を説教しながら闇に消えた。彼女の言葉を適当に流しながら後ろを少し確認すると、男の子が何か言っている。カビを近くまで飛ばすと声を聞いてみた。
「お兄ちゃん達のことは忘れないよ! いつか僕が強くなったらまた会ってね!」
「……」
「何よ、ニヤニヤして」
いやなに、とニクスは緩んだ顔を引き締めると、ひと言。
「すこし師匠に近づけた気がしてさ」
――同時刻。とある川の上流で顔を洗う男がいた。服はかなり汚れているが、男の目は強い意志に燃えている。
「ニヴル、カリオート……すぐ戻るからな」
自分の隣で水を被っている風呂敷を開けると、中からは短い棒がでてきた。それに男が触れた途端、緑の光とともに伸びて神々しい程に光る槍に変化した。
「熾天使の槍……無銘探目はニクスにやったから、これがサイツヨだな」
空を見上げると、月が雲に隠れた。明日は風が強くふくだろう、自分の『能力』とは非常に相性が良い。彼はゆっくりと川岸に座り、夜空を眺めた……。
――――二人は何事もなく森を抜け、カルム村と言う小さな村に着いた。ここが今回の目的地だ。
村門の前に立つと、奥にはこぢんまりとした建物がてんでんばらばらに建ち並び、一番奥に石造りの建物がある。おそらく村長の家か寄合と言ったところだろうか。
「今晩は、依頼を受けてセクトオンから来た者です」
「……! あ、ああ。よく来てくださりました。私が村長のレグです」
石でできた外壁の前で佇んでいた男性に声をかけると、そう自己紹介が帰ってきた。
この時、ニクスは違和感を感じ取った。この村の不自然さに気づいたのだ。それを質問する。
「村長、いきなり悪いけど一つ質問いいですか? ……ウソをついてるかはすぐ分かりますよ」
「え!? はい、なんでしょう」
ニクスは一呼吸おくと発言した。
「この村、呪われてますよね」
「……何を仰るかと思えば、そんな妄言とは!」
「何言ってんのよニクス」
その罵倒には答えず、ニクスはどこからでも見えるようにカビを展開した。大きく広がったマントのようにも見えるカビは、2人が通ってきた道の脇にある井戸に向かう。その井戸には厳重な重石と分厚い木製の蓋が置いてある。
さらに、その木の材質は魔力をその場に固定すると言う特性を持つ、非常に高価な物であることも触れた感触から分かった。
その途端、村長の顔色が変わる。ニクスに飛びつこうとするが、カビは寸前で停止すると同時に彼はライシスの縄で抑えられる。
「あの蓋、取るよ。ライシスは下がって」
「何する気よ。それに呪われてるって……」
「あそこから年季の入った凄まじい悪意を感じる。あとは村の規模に対して人が少な過ぎる。森の奥の村だから風習とかはあるんだろうが、コイツぁ立派な法律違反だ」
「や、やめてくれ! アレはあそこで抑えるしかないんだ!! 『暴魔』は!!」
その言葉も無視し、ニクスは蓋を開けた。すると、何かよく分からないがニクスのカビと同じくらい黒い物が溢れだして来た。
『悪意の本流』
「おう、そうだな。これが依頼にあった調査対象か」
頭の中に、また声が出る。同じように頭の中で考え、答えを返す。ちらりとライシスを見ると魔導書を構えていることを確認し、彼女も理解していると判断した。
「さあ、やろうか」




