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地獄の登録試験

できるだけ追いつきます!

「くっ、何とか操れないものかな……」


 二の腕に表れている浅黒いカビ。自分の意思とは無関係に、こうしてたびたび表層に表れる。部分的に日焼けしたようなイメージだ。周りの人曰く、カビ特有のにおいはないらしいが相当目立つようで、町ですれ違う人がこちらをぎょっとしたような顔をしながら通り過ぎていくのは流石に気分がよくない。が、意思に反して体は正直なようで……


 少しづつ伸びてくる植物の根っこのような菌糸を突き回しながら『戻れ』と強く念じ続ける。すると、急に活性を失った。どんどん体の奥に引っ込んでいく。二の腕の色も元に戻り、思わず膝に手をつき、息を整える。本当に強く念じないと従ってくれない。とんだ問題児ならぬ、問題カビである。


 ふと後ろを見ると、寄りかかっていた鉄柵がボロボロに腐っていた。腰に違和感を感じて服をめくると、いつの間にか移動していただけらしく黒化してしまっている。もしかして、と嫌な汗をかきながら鉄柵をよく見ると、すごい勢いでカビが広がっているのを見て取れた。つまり、このカビの特性は『定着したものを腐食する』『鉄分を媒介に増殖する』『戻れ、行け等の簡単な指示なら可能』ということだ。


「戻れや!」


 ニクスは怒りを燃やす。すると、鉄柵のカビも腰のものも一気に死滅した。剥がれて土の上に落ちるとバラバラに崩れた。少しこのカビについて調べる必要がありそうだ。そう思った俺は粉になったカビを土ごと掬い、持っていた袋に入れると持って帰る。色々調べたがこいつは新種だろう。鉄分の多い所でなければ生きることが出来ず、また、宿主である俺が死ぬと連動して絶滅するものであることが分かった。つまり、文字通り能力であって後天的に寄生したものでは無いという事は確かだ。


「うーん、これ制御しないと明日の登録試験はパスできなそうだ……暴走だけはしないようにしないと!」


 そう決意すると素早く床につく。いつも寝るのは遅いのだが、今日は珍しくすんなりと深い眠りに着いた。一年間の努力を見せる時、と思いたいのだが今日の様子を考えると、とてもじゃないが自信を持てない。



 ――――当日。のっそり起きたニクスは、真っ先に鏡の前に立ちカビの状況を確認した。いつもの肌色だ。妙に黒くはない。安心しながら母親にあいさつし、用意してもらった朝飯を口に放り込む。が、食べてる間にも腕をちらちら見たり、顔を触ったりと気もそぞろな様子。それを見かねた母がニクスの向かいに座り、顔に触れるとそっと言った。


「あなたの能力カビは、あなたが信頼を置かないから反抗してるんじゃない? もっと自信をもって。お母さんは応援してるよ、でも約束して。命を投げ捨てるような守り方や戦いはしないで頂戴」


 最後の方は強い調子だったが、ニクスの中では何となく救われたような気がした。確かに信頼はしていない。むしろ不信感のほうが強いが……それでも自分の体だ。頼るときは多いはず、であれば仲良くいこうじゃないか。


「うん。……俺、能力と向き合ってみるよ。助け合いが親父の遺した言葉だし」

「頑張ってきなさい。旅に出ても里帰りはするのよ」

「まだ出ないって! 新米はこの近所での活動だよ!」




 少し気の早い母親に見送られながら村を出て、物干しと一緒に置かれている槍を握り締めた。この槍はアージスのおさがりで、本人曰く『一番軽い素材』だそうだ。それでも重いが、振り回せない程ではない。それに体力より筋力が上がっているおかげで今は難なく振るえる。


 村を出て、目と鼻の先にある町の入り口に立つ。朝が早いというのに、登録試験で優秀な子たちをスカウトするつもりだろう、大勢の人でにぎわっている。総じて値踏みするような目で道行く人やライバルを見ている。が、気にすることは無い。ふつうにしていれば人一人など気にも留めないからだ。そう、自分がこの年になってもレベル1ということで方々に噂されていることなど、些細なことなのだ。些細な事であr


「まさか、君は例のレベル1の子かなグボェ!?」

「ああごめん。手が滑っちゃった!」


 急になれなれしく肩を叩いてきた男に、「うっかり」肘が出てしまった。攻撃力カンストの肘鉄を食らった男は非常に汚い声を発しながら近くの街路樹にぶち当たる。それでも勢いは止まらず街路樹を木っ端微塵にして宙を舞い、地べたへ大の字に倒れた。ああ、どうしようついやってしまった。でも正当防衛だよね!? 心臓をバクバクさせながら足早にそこを離れる。周りの大人たちは「なんだ!?」「君、大丈夫かね!?」などと完全に注意がそいつに向いており、犯人が誰かなど見ている人は居なかった。一人を除いては。


「バケモノじゃない……あの子」


 やっとこさ試験会場に着いたニクスは、人数の多さに驚く。見渡す限り人、人、人。いろいろな武器や道具を持った志願者たちがびっしりだ。中心には円状のバトルリングのようなものがあり、南北に金属製の門が備えられている。

 しばらくうろついていると、何やら自分がいる対角線から人が登ってくる。遠すぎて見えない。その人は拡声器のようなものを握ると大声で話し始めた。


「狩人を目指す若い芽よ! 本日はその才覚を十全に発揮すべく、二つの試練を用意した! 各々備えよ、立ち向かえ! まずは……」


 というと、地面が石ではなく土に変わる。そして急に湿気を含んだ生ぬるい風が吹く。周りの志願者は驚いて周囲を見回している。ニクスは別の意味で驚いている。と、さらに声が聞こえた。


「今君たちは、森に強制転移した! ここは『隠れみの森』と呼ばれる場所だ。制限時間は一日! それ以内に突破して先ほどまで君たちのいた場所まで帰ってこい! 制限時間を超えたもの、森から出れないものは失格とする! そしてここは森ゆえに、危険が多数潜んでいる! この程度の状況、突破できないものは狩人にはふさわしくないと考える! たとえ適正だったとしてもだ! ……それでは諸君! 健闘を祈る!」


 途端に蜘蛛の子を散らしたように皆走り出した。とりあえず上を見上げる。太陽が真上にあるので正午であることが分かった。しかし相手は誤算だろうな。実を言えば、ここは近所の森であり、ずっと奥深くまで探検している。虫取りもした。釣りもした。特にこの湿気を含んだ風は自分の能力とは相性がよく、ここではいつも調子がいい。


「適当に歩いてもここは出られないから、とりあえず池だな。池に出れさえすれば家の方向だ」


 歩き出したのだが、少し違和感を感じる。この森は隠れみの森だろうが、自分たちのような《《この森の対処法を知っている》》地元民が志願する可能性を考えないわけがない。実際、いつまでたっても池が見えてこない。むしろ森が深くなっている。


 この森は魔力を帯びた特殊な岩石の産地であり、その影響で能力やステータスに影響が出る。具体的には自然法則を無視できる重力や電磁などの能力は一切使えず、生物系かシンプルな強化系の能力しか使えない。俺は生物系なので問題ないが、計器類や魔道具などは役に立ってくれなくなる。


「そういえば、俺の能力……信じてみるんだったな。よし、頼んだよ」


 初めて自分の意思でカビを表出させた。腕から黒い煙が立ち上るとどんどん広がっていく。すると、一気に視界が広がった。数人が走り回っているのも見えた。視界が上昇していき、ついに森を抜けた。今は森の形を上空から見ているようだ。そして気づいた。ここは隠れみの森ではない。形が丸い森のはずが楕円形になっている。植生を隠れみの森に近づけただけの人工林、それが答えだ。


 胞子たちは風に乗ってさらに流れる。最適なルートを頭の中で作りながら、元来た道を戻っていく。サバイバルの極意は、いかに体力を使わないかだ。一歩一歩踏みしめ、道なき道を進んでいく。それはさながら十五年間の紆余曲折を振り返っているかのようだった。






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