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更生

お久しぶりです

――敵組織の構成員である、アクセローザと呼ばれている男を倒した。新聞には大きく『奪還』と載っているが、それは全く事実と異なる。殺したのだ。それも、無残に身体の一部分のみを残して。あの後は彼の遺体を確認していたのだが、残っていたのは頭から右腕にかけてのみ、あとは全て消し飛んでいた。


「俺の名前は伏せて下さい、功績も要らない。もう疲れました……それに、これで依頼は達成です。ライシスは分からないけど俺は元の組合に戻ります」

「君は危険人物を止むを得ず制圧しただけだ、気に病まないでいいんだ。……君がそこまで言うのなら、我々に止める筋合いは無い」


帰宅を許してくれたアレスハーウィンに頭を下げると、ニクスは荷物を抱える。それを見ていた周囲は、『アレより上には行けないな』などと影口をたたいている。要は、いちいち後ろを向いていては動きが曇る、ということが言いたいのだと思うが、それを17の少年に求めるのは重すぎるんじゃないか?


と、後ろから突然ナイフが飛んでくる。マイナスの感情に支配されていたニクスは気づかなかったが、カビが自動で防御した。足元から壁が立ち上がり、ナイフを受け止めると粉々に砕き、吸収した。頭の中に小さな声が聞こえる。


『しっかりしろ』


ニクスはゆっくり振り向くと、ナイフを投げた者を見る。女だ、桜色の長髪に茶色い目をしている。服装は大きなローブを巻いているような感じだが、衣擦れの音に金属音が混ざっている。あの中には暗器が大量に入っているはずだ。


「何のつもりですか」

「せっかくここまで来たんだ、その根性を叩き直してあげるわよ」


言うが早いか、目にもとまらぬ速さで小刀が飛んでくる。それも、薄い赤色に発光している。その程度では動じなくなっているニクスは、カビを細く伸ばして迎撃した。しかし、叩き落としてもすぐに浮かび上がり、攻撃を続行してくる。完全に数本の小刀を破壊した瞬間、後ろから槍が飛んできた。またもカビが自分で守ってくれた。バラバラに破壊したものの、今度こそ前を向いたニクスの前には、首を掴まれたライシスの姿があった。


「何を……はなし……て」

「あんたはね、失うということを言葉の意味でしか知らない。実際に体験しないと理解はできないのよ」

「やめろ!! 離せッ!」


『殺すしかないな』


ニクスの全身と組合の床が真っ黒に染まると、そこから超高速で黒い槍が飛び出す。ニクスの足元からはいくつかの球体が浮かぶ。球体は一つに集まり、日食のような輝きを放つ。窓から見える太陽を丁度覆い隠し、組合が薄暗くなった。小さい声が言う言葉に従うように、同調するように名を告げる。


『……すべからくほろぼす矮星わいせい!』


「ニ…………クス、それは……だめ……」

「うるさいよ」


たびたび起きた暴走。それのたびにこれが発生し、放たれようとしていた。必ず不発に終わっていたが、これが炸裂した予想を見せてもらったことがある。


『そうだ それでいい』


アレスハーウィンの目が黄色く光る。すると、カビが全て消滅した。予想外の出来事にニクスは固まるが、女の方はライシスの首を掴んだままだ。すさまじい形相だと自分でもわかるほどの目つきでアレスハーウィンをにらむ。その目に少し押されたのか、ほんの少しだけ彼の口角が上がる。彼は口を開くと、一言だけ言った。


「覚悟を決めろよ」


『続けろ』

「……俺だけでやる!」


それだけ言うと、カビが外に出られないように気力で抑え込む。頬が膨れると、圧縮されたカビが最大火力で吐き出される。レーザーよりもまがまがしく、当然の様に強い。





――愚策だった。相手は容赦なくライシスを盾にした。その姿が、ディエールと重なる。


怒りで火力がさらに上がる。だが心は悔やんだままだ。また同じ轍を踏んだ。自分の学習能力の低さに死にたくなるほどの嫌悪感を感じた。だが、先ほどと同じだ。放たれた技は戻らない。時を巻き戻すことは理論上できない。


まだ間に合う。自分にできることは、引っ込めることではなく逸らすこと、もしくはレーザーより早く動いて自分が盾になることだ。ニクスは口を閉じると、すぐにカビの前に飛び出した。槍を突き出すと驚いたことに槍の中に食い込むような形で消えていく。こういう止め方もできるのか。良い発見をしたが、だいぶ現実的ではない。


「そいつを離せ!!」


槍を首筋めがけて振り下ろす。この振り方だと彼女を離し、後ろに下がらねば確実に首が飛ぶ。すると、首を掴まれていたライシスが消えた。同時に女はかがむと、手をかざした。するとニクスが弾き飛ばされる。どう見ても重力変化としか思えない能力に、ニクスは思わず『ガレスさんと同じ能力だと!?」と言ってしまった。


「あの子は重力でしょ? 私も近い系統だけど、音波を操っただけよ。音は振動だからね、衝撃波も発生できる」

「君の連れは誰も殺そうとしてないよ、君は幻覚を見ていたんだ。俺の能力でな」


女の人も、先程の冷徹さはどこへやら、優しい顔になっている。それでもニクスの腸は収まらず、アレスハーウィンも「やり過ぎだ」と周りの人達に釘をさした。


すると、本物のライシスが上から降りてきた。こちらを見ると、すごい勢いで近づいてきた。


「はっ……!!!」

「騒ぐな!!」


顔の骨が変形したのではないかという一撃を喰らい、力なく崩れ落ちるニクス。それを引きずりながら『もう少しお世話になります』と言ったライシスに、彼はうなづく。


「それでいいよ、もっと精進してくれ」


一日が、また過ぎていった。ニクスはもう、何も考えなくなっていた。




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