歪む、曲がる、勝つ
カクヨムと同時に更新でございます。
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床下に隠れ、一歩一歩進んでいく四人。ほとんど真っ暗だが両側には酒樽のようなものがたくさん置いてある。床上からは何の物音もしない。動いていないのだろうか。
ニクスは、先ほどの出来事が相変わらず腑に落ちずに、もやもやとしている。誰かと話したような気がするのだ。特に、ディエールとついさっきまで交戦し、始末されかかっていたはずなのだ。とすれば、時間を巻き戻されたということになる。それだけの力を持つ何者かの介入を受けた、それが自然だろう。
階段が見えてきた。ニクスは胞子を放出し壁や床の隙間から周囲の様子をうかがう。すると、割れた机やいすを超えて全員が組合の真ん中に、青白い鎖で縛られている。アレストやベルの姿は見えない。どこにいる?
「……友達、いる?」
「いないな。ここにいると思ったけど」
小声でライシスとやり取りをする。もしかしたらあの後、別の組合に移籍したのかもしれない。音信不通気味だったが、正直あったときに何と話をすればいいのか見当がついていない。
すると、カビに奇妙なノイズが起きた。何かに浸食されている。素早くカビを戻そうとするが、ニクスの変化に気が付かない部隊長ではない。
「ニクス、攻撃を許可する」
「マジ? 了解しました……」
思わずとんでもない言葉が口をついてしまったが、引っ込みかけていたカビはねじれると槍の形状を取る。壊槍である。
五方向から打ち出すが、唯一束縛されていない男性らしき陰に近づくにつれてノイズがひどくなっていく。ついに触れる瞬間、カビの槍は溶けて消えてしまった。
「失敗です」
「突入しよう」
ニクスは、床板に正拳をくらわす。衝撃波が床板を粉砕し、男をモロに打ち据える。その穴から控えていた三人が突入した。一度は吹っ飛んだ男だが、ふらふらと立ち上がる。肋骨が数本折れたらしく、顔は引きつっている。
数歩で間合いを詰め、男の顔面を殴ろうとするが、横によけられた。が、雲を吹っ飛ばすほどの火力を持っている上に《《制御する気のなくなった》》一撃は、衝撃波でまたも床を消し飛ばす。床板が消え、足場を失った男は引きつった顔のままで落ちていくが、ニクスからすればいい的だ。腕を大きく引くと、容赦のないラリアットを食らわせる。
これもモロにくらい、組合の壁を突き破って外に投げ出される。同時に突き破られた壁が一気に崩れ落ちて陽光が差す。敵の方はもう動けないようだ。大の字に倒れている。
「……ディエールってのがいるはずだ」
ニクスは先ほどの現象を『運が良かった』で流してしまうほど馬鹿ではない。記憶が正しければ、虚像を使って陽動を掛けつつ前後で囲み、確実に仕留めてきた。
深紅の光がこちらに向かって接近してくる。やはりいたようだ。聖剣の攻撃だ。だが、そんなものは出し惜しみをしないグーパンで対処可能だ。アッパーカットで光の軌道が真上に変わった。同時に風圧で鳥たちが逃げていく。
「聖剣……銘はガラ・タエナ・アキセリィだったか? お前のことはよく理解したよ、ディエール」
「何だと……? あんた、どうして私の剣を……っ!?」
「これから死ぬんだから理由なんて聞いても意味ねェだろ」
槍を反対方向に投げつけつつ、二回目の攻撃をかわす。狙い通り空気が揺れると反対側に本体がいる。驚愕に目を見開いている。
「お前の能力は『光エネルギーの反射』だ。それで反対方向に虚像を作り出して攻撃の行動のみをさせ、本体は実像側に隠れつつ虚像の動きに合わせて攻撃してた。そいでもって、反射したエネルギーを聖剣の能力で集約して熱エネルギーに変換、揺らめくカゲロウに周囲の景色を投影して背後にいたってことだ」
「そこまで看破するとは……あんたの実力を見誤っていたわ」
虚像が消えると、さらに光がニクスに向かう。目を閉じると、ニクスの周りが黒い霧に覆われる。落ちている木片を核にカビが集まって六つの勾玉の形を形成した。
「|彼岸にありて災禍告げる宝玉」
地面に落ちると同時に赤い光が発生し、聖剣の一撃と真っ向からぶつかり合う。その時の波動が組合をさらに破壊してしまう。またもエネルギーは真上に逸らされた。
ニクスは大きく踏み込むと、腕を大きく引く。三発も放った聖剣は透明になってしまっている。チャージにはそう時間がかからないが、一撃で止めることは十分に可能な時間だ。
「その腹に風穴を開けてやる!」
「それはどうかしら……? アクセローザ、起きなさい!」
ディエールが小石を倒れている男に投げつけると、目を開けた。同時に、ニクスの体が硬直する。左腕がマヒしたように動かない。体内のカビも何か異変を感じ取ったらしく、左腕に集まりだした。この感じは……何かに感染させられたようだ。
「こりゃあ、ウィルスかッ! まさか俺以外にも生物兵器がいるとは……っ!」
「さすがに毒素の耐性は高いわね! 今のうちに撤退よ、アクセローザ」
左腕はマヒしてしまったが、カビのおかげで広がらずに済んでいる。すぐに動くだろうし、右腕も残っている。これが狩人の試験を受ける前なら死んでただろうが。
「逃がすか! 巨人の砲丸!」
「あれは……ディエール・ガーヴェイン!」
騒ぎを聞きつけてほかの組合の人たちも来たようだ。そちらの方を一瞬だけ見てしまったのが運命の分かれ目だった。ニクスのチャージが終わり、ベクターの様にすさまじい音を立てながら斜線上のものすべてを削り取っていく。
ディエールは、背負っていたアクセローザをするりと落とすと、家々の間に滑り込んで逃走してしまった。ベクターレイルが直撃する瞬間、彼は心から絶望した表情を見せた。信じたものに裏切られ、捨てられたのだ。
「そんな! ストップ!!!」
時はすでに遅かった。アクセローザは斜線上で体のほとんどを削り飛ばされ、死亡した。




