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遠い街へ

更新遅れて申し訳ない!

「ニクス、あなたのお仕事よ」

「今回はどんなものなんだろうな」


 ある日の朝、フィラファスから渡された紙には、『無期限』と書かれていた。そして、依頼内容を見て愕然とした。


「……んだとォ!?」

「まあそういうことよ。数か月かかるだろうけど、帰るころにはヘイズライン杯が開催されるわ。腕試しできるよ、せっかくだし出なさいよ」

「ああ……俺は殺し合いなんかに出たくないんですよ」


 本心を打ち明けて拒否したが、フィラファスはどこ吹く風だ。


「なら殺さなきゃいい。んで負けなけりゃいいのよ。あ、依頼にはライシスが同行してくれるから協力してね。くれぐれも襲わないように」

「簡単に言ってくれますね」


 それは二つの意味ね、と軽く煽られると部屋に戻って準備を始める。体を動かしながら、やはり殺し合いなんておかしいなどと呟く。その考えが間違えているとは全く思っていないが、敵の事を考えるとやはり気が沈む。


 頭の中が空になってしまっていたようだ。あまりにも準備が遅いので心配したライシスが入ってきたことにすら気が付かなかった。肩を何度も叩かれ、我に返ると振り返る。


「あ、ごめん」

「なにしてんのよ、まだ体おかしいの?」

「考え事してたんだ」


 嘘はついていない。待たせてしまってごめんと謝りながら組合を後にする。二人の背中を見送るフィラファスは、独り言を呟いた。


「あなたなら大丈夫。あなたの今までの行いに報いようと、みんなが助けてくれるから」


 ニクス達が向かった場所は、ネフィア商店街からかなり遠くに離れた海辺の街である。海産物が特産品で、ニクスも普段食べる魚はこの街のものがほとんどである。今回は、本当の短期留学だ。このセクトオンには三つの組合が存在し、そのうちひとつは一種組合に指定されている。


「初めて来たよ」

「私もだよ。おっきい街ね! 今回はここをしばらく拠点として何するんだっけ?」

「……忘れた」


 ゲンコツを喰らい、頭を抑えてしゃがみこむ。今の痛みで思い出した、目的はバスタードの居るらしい敵組織の構成、能力情報の収集、可能であれば《《一人以上の討伐もしくは無力化》》を無期限に実行せよと言う物だ。なぜ狙われている奴にやらせるのかについては疑問が残るが、囮という事も兼ねているのだろう。

 ニクスはバスタードに死ぬ寸前まで追い込まれており、それだけで組織強度が分かりそうな物だ。ほかの人物は少なくとも奴と同等かそれより強いと考えている。ディエールと呼ばれる奴がその一例だ。攻撃を『透過』する能力という名称を持つ力は存在しない。完全に人の知識を超えている力を意味している。


 実は、ニクスは完全に面が割れたディエールの、大凡の能力を二つの仮説のうち、どちらかであると推測していた。


 ――すなわち、『時空間跳躍による空間歪曲』か『物理法則の反転』である。どちらにせよ人が手にして良い能力では無い。とくに物理法則の反転は、例えば液体と気体の定義がひっくり返されてしまえばその時点で地球の滅亡を意味する。


「怖いのはこの会話が聞かれていることじゃん」

「こんな所に敵が居るわけないでしょ、とりあえず挨拶行こうよ」


 また悠長な……と思ったが、これは自分が神経質になりすぎだ。


 組合のマスターは厳つい顔だが人の良さそうな初老の男性だ。ゆっくりと挨拶をする。


「はじめまして、ニクスです」

「ライシスです。これから数ヶ月、宜しくお願いします」

「二人ともよく来てくれた! まずは旅の疲れを癒すといい、ご飯の用意をしよう」


 ニクスはその懐の深さに驚き、思わず立ち上がりそうになる。なんで立ち上がるのかって? そりゃ、感謝の気持ちを伝えるためさ。社会人ならそうする……?


 しばらく待つと、大広間に通された。そこには大小様々な武器や道具を持った人々がおり、大量の紙が貼り付けられた掲示板が左奥に見える。うちも中の上くらいの組合ではあるのだが、ここはそれ以上に見える。時折こぼれるように聞こえる会話や固有名詞も、出会ったことの無い人や怪物だ。


「そう、最近あのアウローラに会ったぞ」

「歌姫の? 俺もそういや……」


 正直、ジェラシーを感じる。だが、これでもニクスは街ひとつをバスタードから守護しきった男だ。誇れるはずだが、何故誇ろうとしないのか。それは単純に『殺せなかった』『殺されかけた』からだ。


 トドメをさされるはずだったあの瞬間、フィラファスとガレスで押し返し、カビによって動きが鈍ったところを数十人で取り囲んだと聞いている。それでも逃げられていることを考えると、勝負に勝って闘いに負けたという所だ。だから誇らない。


「飯が口に合わなかったかな?」


 ご飯を見つめたまま押し黙っていたのがそう見えたのだろう、マスターが直々に話しかけてきた。ニクスは慌てて否定する。


「いえ、美味しいです! 最近考え事が多いもので……」

「…………初めてか、敗北の味は」


 組合のマスターってのは、なんでこんなに察しが良いのだろうか。彼は、いや、美味しい飯の時に不味い話を失礼! と謝ってくる。


「敗北の、味……確かに、初めてです」

「全体を守るために君という個人は囮になった、確かに勝負に勝って闘いに負けると言っても差し支えないもんだ。


 ……こんなじいからのアドバイスだが、お前のソレは敗北じゃない、歴とした勝利だ。敗北ってのは、喧嘩売って死んだり敵前逃亡したり……まあ、意志を貫徹しない奴や欲に溺れたやつの末路だ。お前はそうなのか?」

「それは……」


 俺から見たお前は、と前置きしてから彼は続けた。


「力を正しい形で行使してると思うぜ。少なくとも俺ならカビに呑まれて闇堕ちしてる……優しい子なんだよ、お前は。だからちいせえ敗北なんかでくよつく。もっとがっつけ、草食だと損ばっかの人生になるぞ?」


 今の言葉で目が覚めた。自分は負けていなかったのだ。最後の最後にバスタードを煽ることが出来たということは、心が折れているわけではなかった証明だ。




 ニクスは目をつぶると頭を風呂上がりの犬のようにぶんぶんと振り、目を開ける。首筋に黒い胞子が現れるとそれは少しづつ動き、文字を形作る。


 そこには、『continue to have anti(抗い続ける)』と現れた。カビ文字、これがニクスの決意だ。すると、その文字を作っていたカビがさらに動き、もう1つ、文字を浮かび上がらせた。


『I take away(私は奪い去るもの)』


「奪い……去るもの?」

「また文字が出てきたぞ!」


 ニクスの言葉に被せるようにその場の人達が武器に手を掛ける。ただ訳が分からず文字を見ているニクスにマスターが強い調子で声をかける。焦りの色も声から見え隠れしている。


「……意志を持つ能力、自然系統の能力にいくつか確認されているものだ! 基本は攻撃的な思考を持つ、突然で済まないが事と次第によってはここで止める!」


『I'm enemy. But, i like host.therefore he save(私は敵だが、使い手は好きだ。故に私は彼を守る)』

「……お前……」

「ニクス、何してんの? 喧嘩!? ちょっと待ちなさいよ!」


 唖然とする周囲に、組合の奥から戻ってきたライシスが静寂を破った。はっと我に返ると、カビは溶けるように消える。だが、完全には消えずに頸動脈と手首の動脈を覆っている。たまに制御を外れることがあったが、意志があったからなのか。頭の中に念じる。


「もう大丈夫、攻撃は無いよ。だから休んでてくれ」


 カビが消えた。何かが引き金になったから意志が表層に出たのだろうが、それはニクスの中の何かが変わった事なのではないか、と思った。

 ライシスは周囲の人に経緯を聞き、こちらを睨むとずんずんこっちにくる。


「な、なんだよ。そうニラむなって」

「心配をかけるな!!」


 みぞおちに鉄拳を受けた。守ってくれないんですか? 体力がないので一発KO、その場に倒れ込むとうんうんもがく。

 せっかくかっこいい所だったのに……というのは置いておき、その日は終わりを告げた。



 ――――


「はじめまして。『不敗の男』アージス・カタストロフ」

「……よく知ってるぞ、お前ら。それに左端の。バスタード、お前の事だよ。弟子をやりやがって……来いよ、遊んでやる」


 横に並ぶ5人と、それに対抗するように立ち塞がる3人。言葉をぶつけ合っている最中だ。


「弟子か。確かに槍を使ってたなァ。殺せなかったのが残念だ」

「今は戦う気なんか無い。俺はお前を勧誘しにここまで来たんだ」

「勧誘? 正気か? なら無駄足だったな……ここで捕獲して牢にぶち込んでやる」


 すると、ディエールが一歩踏み出すと夕日を背に立つ。指を少し動かしたが、その瞬間に懐にはいられる。


「!」

「何もやらせねえぞ! カリオート、ニヴル! 増援呼んでこい!」


 二人は直ぐに走り出すが、数メートル進むと、今いる場所と同じ場所にもどる。2人の前には趣味の悪い仮面を付けた男が居た。その声は機械のような、取ってつけた無機質な声だ。


《俺は童河岸ドウガシ……と、呼ばれてる。耳が遠くて聞こえなかった、お前らは誰だ?》

「……走れ!」


 カリオートとニヴルは横に走り出す。それを目で追う童河岸だが、一言呟く。


「一つ積んでは……百年前から進歩してねえな、人間って奴は」


 二人を追う無数の影法師。アージスはそれに気を取られた刹那、意識を失った。倒れるアージスを見下ろすディエールの体は、煙を吹いていた。








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