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防衛本能

今回、第七回ネット小説大賞に応募しました。


応援よろしくお願いします!

 アンデッド騒動のあった次の日、ニクスはその件に関する報告書を提出しにネフィア商店街の一番奥にある巨大な建物に来た。この建物は王立、つまりこの国の王の命令で造られた機関のある場所で、なにか不可解な事や危険人物の手配などがある時に頼る場所だ。当然のことながらここにも狩人、冒険者は居る。

 ここで用事の可否が問われ、彼らの管轄になるのか、組合や個人に持って帰り解決すべき問題なのかという事が決定される。狩人として認められた時に1度行くことが義務付けられているので、フィラファスに連れられて行ったことはある。


 受付のカウンターに向かっている途中、大きな掲示板に目が止まった。大きめのポスターに、やはりデカデカとした字で何やら書かれている。



「貴殿、その大会に出る気か?」

「はい!?」


 後ろから突然声を掛けられ、反射的に腕を挙げながら振り向く。目の前には肌色の鎧……胸筋だ、これは胸筋だ。そう、いまニクスの目の前に立つのは2mはあるであろう大男なのだ。目線の高さには一瞬鎧と見間違えるような立派な肉体があり、見下ろす顔は人の良さそうな笑みを浮かべている。歳はこの筋肉量のおかげで全くわからないが、少なくとも成人だろう。


「これはどんな大会なんですか?」

「おお、貴殿はその歳でまだ知らないのか? 良き親を持ったな、結構結構。この大会は武器の使用を唯一許可されているもので、殺し合いに近いのだよ。原則殺しは禁止だが……武器を使う以上死人は出る。日付は再来月と来た、特に今回は王様が視察に来るから参加者は多いだろうよ」

「殺し合い……か」

「血に飢えているなら参加せよ、命が惜しければ退くんだな。貴殿は見たところまだ若人だ。こんな大会出なくともほかの所でやりようは幾らでも有るさ」


 親を褒められて少し嬉しいニクスだが、からからと笑いながら非情なことをサクサク話している彼を見ているだけで分かった、この大会はそう言う人間の集まりだ。ニクスはひとまず掲示板の下に置いてある同じポスターを持ち、教えてくれた彼に礼をするとカウンターに入った。

 受付嬢が目を上げ、こんにちは! と元気な声で挨拶をしてくれる。少し元気になりながら、丁寧に報告書を渡す。


「昨日、ウチの組合員が川岸でアンデッドに襲われた事態があったんで来ました。そこのアンデッドは記録によれば既に撲滅されているとの事でしたが、確認して貰っていいですか?」

「なるほど、了解しました。アンデッドとは災難でしたね。取り憑かれれば命はないですけど、襲われた人は大丈夫でしたか?」

「俺です」


 あぁっ……というような顔をされ、その場に待たされてしまった。悲しいなあ。手に持っているポスターを眺めながら待つと、程なくして応対した人とは違う人がカウンターに来た。服は真っ白いローブで、背中にはローブのように白いクリスタルが2つはめ込まれたロッドを挿している。この武器は狩人の武器ではない。となればあと一つ、冒険者だ。

 世界共通で武器を買う、売る、譲渡する際には職を証明する何かを提示しないと行けない規則があり、その中でも杖と大剣は狩人か冒険者以外に装備が認められていない。


「お待たせしたね。それで、アンデッドについてなんだが、大会前という事で設営や整備で皆出払っていてね……申し訳ないが、君たちで対処して欲しい。掃討の許可は出したから、頼んだよ」

「そうですかー、了解です。お手数かけました」


 踵を返し、建物から出た。一応ポスターは握ったままだが、見れば見るほどやる気を無くしてきた。ロシェの目と鼻の先まで来た時、目の前に数人の影が立った。今回は大して驚かずに連中を見据える。


「てめえ、ヘイズライン杯に出る気だな?」

「出たくねえよ、殺し合いだろ? それに誰だお前ら」

「今回は馬の骨(競争相手)が多いんだ、先に消しとくに越したことはねェんだよ!」


 全く話を聞こうとしない。そればかりか一般人が多く居る中にも関わらず攻撃を仕掛けてくる。数は4人、左端の男が放電したことから遠距離と近距離で、バランスが取れているのだろう。魔法を使えるゴロツキなんぞに遅れは取っていないが、今は槍が無い。カビは不定形のため、槍や剣のような芯棒がなければ形を保つことが出来ないという弱点を抱える上に、一般人が居るためカビの範囲攻撃も出来ない。これはニクスにとって非常に戦いにくい状況である。


 壊槍ヘクトルティン重槍ゲーガレスが使えないとなると、残るはシャドーミサイルくらいか。助かったのは、相手の動きは遅い。武器の重さや形状と技量が一致していないからだろうか、体さばきも一目見てわかるほどぎこちない。せっかくの有用な能力も弱点と利点を知り尽くしていないせいで持て余し気味にも見える。


おせェ……アイアンクロー!」

「あッ……!!! 」


 放電中は動けないようだ。向かってきた三人を放っておきながら、人外じみたスピードで走り出すと一人に掴みかかり、こめかみを軽く握る。あまりの痛みに意識が吹っ飛ばされたようだ。直ぐに白目になり、力なく倒れた。火力カンストは伊達じゃない。生まれた時から必死に制御してきたので、後ろから脅かされたりするなど余程のアクシデントさえ起きなければしっかり操れる。

 男たちは白目を向いた仲間を見て、一瞬おどろいたが直ぐに体勢を建て直し、攻撃を続行してきた。自分が言えた事ではないが、倫理もクソも無いな。


 が、これだけでめちゃめちゃ疲れた。先日の恐怖体験でろくに寝れていない事がこんな所で祟ってしまったようだ。もう息が上がってしまっているが、倒れた男の服を掴むと、容赦なく相手に投げつける。仲間を放られて流石に立ち止まった彼らの周囲が薄暗くなる。


 ニクスは深く息を吐くと、口から黒い霧が砂煙のように舞う。素早く屈むと足元の砂利からいくつか手頃な大きさの石を拾い、霧の中に投げ込む。


「この技の存在をスッカリと忘れてたよ。彼岸に在り災禍告ぐ珠(ヨモツミタマ)


 その石を核として、胞子がどんどん集まって行くと、霧が晴れた。否、霧のように成っていた胞子がいくつかの塊になったのだ。


 ――その質量、6つの珠を併せると、およそ古城一つと同等である。


「超質量の海に沈め!」


 珠が男達に向けて、ゆっくりと電動ドリルのような音を立てて動き出した。ニクスの目は真剣そのものだ。腕もワナワナと震えているが、この距離なら当たる。


 3.2.1……今。ニクスはカビとの接続を切り、後ろに飛び退いた。使い手を離れたカビ達は、自分の生存を優先するために金属を探して暴走を始める。そのエネルギーは赤い光線となり、瞬間的な光の塔を顕現する。

 人のいる住居側とは反対の方向、平地を斜めに割る光線に灼かれ、男達は為す術もなく倒れた。大火傷を負っては居るが死んでいない。周りの人は遠巻きに見つめているが、ニクスが立っているのを見て元の生活に戻って行った。


「正当防衛だ、お前らは挑む相手を間違ったんだよ……!」


 ほんの少し漂う胞子は消え去った。ニクスはひとつ深呼吸すると、近くの台車に男達を載せ、近くを通った行商人らしき人物に服のポケットから小さい袋を渡し、この人たちを病院に運ぶよう頼むと組合にのっそりと戻った。それと同時に着弾点に空いた穴に土が戻ってきた。ニクスのカビは、自然界での分解者としての役割を果たしたようだ。しばらくすれば自壊するだろう。




 ――――同時刻。


「お前、大口叩いていた割には1人も殺せず、ターゲットには煽られ、挙句の果てには半身潰されてのこのこ帰ってくるなんて醜態晒しやがって……バスタード」

「あれは失態だった、そこは認める。でも俺からもお前に不満がある。そこのオカマも含めて俺の能力を知らな過ぎだ」


『オカマ』とはっきり言われたディエールは後ろを向いたままでバスタードを諭した。薄紫の髪が揺れる。


「少しは礼儀を知りなさい、バスタード。あんたは自分の事を棚に上げ過ぎているわよ」

「てめぇこそ調子に乗るな、1回来た位でアホくせえ」


 途端にディエールから凄まじい殺気が放たれる。思わずその場の二人が顔を上げる程強い殺意を感じ、ボーレアウは『謝れ』と合図する。


「……言い過ぎた」

「そうね……感情をもっとコントロールしなさい」


 その場の全員からバッシングを受け、機嫌を損ねるバスタードだが、腹の中では少し満足していた。


(ニクスがもっと強くなれば、俺の目的は達される。やり方は悪いが……)


「次は何をするのかしら?」

「もう少し仲間が必要だ。まだ5人だからな。最低後2人は欲しい」

「目星は付けてんのか?」


 ボーレアウは『一人だけ』と前置きしてから、そいつの名を口にした。





「アージス」










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