表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/49

拾い物

ホラー回です。少しづつ『不可解』が牙を向いて主人公に迫りますね。敵も増えていくことでしょう

 封殺を行ってから、1ヶ月ほどが経過した。『封殺』と言うよりは『追憶の楔』の挿し直しではあるのだが、なんにせよニクスから戦闘の記憶は押し潰された。またどこかで緩めば、余程危険な状況でない限り同じ工程が行われる。いつしかトラウマが忘れ去られる事を願う。



「右側がお留守よ、そこに兵を置いたらこっちを突破されるから。じゃあ、どうするのが良いと思う?」

「……どうするって言われても」


 囲碁台のような細かいマスのある盤上に、昔の軍師が使ったかのようにボロボロな「凸」型の駒が赤と青の二色置いてある。

 特に、赤側の駒は青よりも少なく、もはや壊滅状態に陥っていた。そして、盤を挟んで向かい合う男女。男性の方は壊滅した赤陣営を見て、悲しそうに頭を抱える。まるで知恵熱が出るような低い処理能力に、自己嫌悪してしまう。少なくとも、カビの胞子で知恵熱を再現する程度には何とかなっているようだ。相手は、組合員では無い。ニクスの所属している組合『ロシェ』のあるネフィア商店街という場所から離れた、別の組合に留学のような形で行かせてもらっている。『留学』とだけ書くと聞こえはいいが、実際は2日に1回程の頻度で通っているだけで、どちらかと言えば塾のような物だ。


「また負けた!」

「ちゃんと全体見て、全ての戦いに言えることよ」

「戦いはやむを得ないだけでやりたくない」


 本心を漏らしたニクスに対し、盤の向こうでゆっくりと目を閉じる女性。すると、その女性の後ろからひょっこりと頭が登場する。金髪の彼女に対し、こちらは真っ黒い髪だ。明らかに年下に見えるこの男の子は、ニクスを見据えながら言う。


「でも君は戦った。『やむを得ない』とか言ったら、君の手にかかった人達に失礼だ。戦闘はただカビをぶっぱすればいいわけじゃないんだよ。今君に叩き込んでいるのは、大事な人を外敵から守るための戦い方だ。彼女に頼み込まれて渋々って感じなんだし、何より俺たちがこんな丁寧に教えることは未だかつて無いから、直ぐにとりやめる事も出来るよ」

「……ごめん」


 彼女というのはフィラファスだ。この組合は、過去何度か起こった暴動をたった数十人の兵力で1週間以上も耐え切り、鎮圧の立役者となった軍師の所属する組合なのだ。組合名を『エクスタ』と言う。メンバーは全て、王直属の狩人や冒険者になれる実力を有しているという。


 ――――数時間後。今日は初めて相手を追い詰めることが出来た、記念すべき日となった。


「ありがとうございましたー」

「また二日後だね。宿題は持ったかな?」


 そんなやり取りを交わし、商店街に帰る。もう辺りは暗くなっており、今にもそのへんの草陰からお化けが出てきそうだ。

 ビビり野郎一級の称号を持つニクスは、後ろから何者かがついてきている(ような気がする)のを感じ、足を早める。と、近くの草陰が不自然に倒されているのを見た。めちゃくちゃ怖いが、それよりも『要救助者かもしれない』と言う思いが勝り、恐る恐る草の向こうを覗く。




 ――どうやら、けもの道だったようだ。脅かしやがって……。




 内心安堵しながらも、落ちてた石を蹴り飛ばし歩き出す。石がけもの道の向こう側に飛んでいき、それを何となく目で追う。この瞬間、ニクスは気づいた。この道はしっかりと整備されており、人の往来も激しい。従って、獣は人をこわがる性質から現れることは無いということを。


「誰か……いるのか?」


 そう呟くと、一瞬空を見る。同時に体が黒化し、夜闇に溶け込む。足音を立てないように慎重に歩き、再度草むらの向こうを確認しに行く。草むらの向こうは確か、川になっていたはずだ。何度か通っているので川の音を聞きながらのんびり組合に帰ることが多い。ニクスの性格は能天気、のんびり屋、ノリが悪いの『3N』である。ちなみにライシスの性格は、苛烈、堅物、感受性が低めの『3K』だ。


 やはり、この場で何かあったようだ。人が倒れている。近寄って確認すると、かすかに脈がある。周囲を見回し、ゆっくり担ぐと空いている左手で『あるもの』を取り出す。それは小さな結晶だ。その結晶にカビが巻き付き、バラバラに破壊する。それを放り捨てるとゆっくりと元来た道へ戻る。襲撃は今のところないが、油断はできない。


「ニクス、どうしたの?」

「やっと来てくれたか! この人、拾った」

「ちゃんと説明しなさい」


 この結晶は、ニクスが助けてほしいときに破壊することで組合の上位メンバーに緊急事態が伝わり、フィラファスをはじめとし、五人の精鋭のうちだれか一人が先行して助けに来てくれるのだ。今回はライシスだったようだ。彼女はちょうど、ニクスに一番近い場所で依頼をこなしていた。何かの運命だろうか。本来緊急事態に使うものなので、かなり焦った様子であったが、間の抜けた用事で少しイライラしているようだ。


「ごめんって、この人が帰り道に倒れてるのを見つけたんだよ。さっきから不穏な空気だし、何かにつけられているような感じがしてたし」

「何かに? ……まあいいわ、仕事も終わったから一緒に帰ろう」


 ったく、このビビり。と呆れられながらも一緒に帰ってくれた。やさしい。帰路では、やはり誰かがつけているような気配を感じた。が、振り返ったらとんでもないことになりそうだと判断し、無視し続けた。ネフィア商店街に着く寸前、耳元に突然生暖かい風が吹きつける。ライシスも感じたようで、揃って慌てて商店街の明かりの中に入ると、すごい速さで背後を見る。







 ――何もいないようだ。背負っている人も無事みたいだ。




 すると突然、耳元で小さな声が響く。確かに聞いた。


「……待ってヨ」



 悪い冗談だ。本当に勘弁してくれ。何でこんな寒い時期に背筋まで凍らないといけないんだ。隣のライシスも震えている。こんな都市伝説のようなことが起きることに驚きだ。彼女の手を握ると、引っ張って走り出す。背負っている人はよく見たら男の人だった。だが、今はそんなことはどうだっていい、とにかく組合まで猛ダッシュするしかない。気配が動いた。追いかけてきている。何が悲しくて怪異と追いかけっこしなきゃいけないんだ。確かにアンデット系のモンスターはいくつか確認されてはいるが、これはすこし違うのではないだろうか。


 組合の扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込み、周囲を仰天させる。それと同時に、立ち上がったガレスの能力が《《ニクスの後ろ》》を対象にし、何も見えない場所が凄まじい勢いで押し返される。カウンターから走ってきたベクターが開け放ったままのドアを強く閉め、閂をかけて追跡者を締め出す。

 ニクスは息を切らし、ひいひい言っている。ガレスがにっこり笑うと、ダメ押しに一つの怖い話をしてくれた。


 ――あんた、あの川で振り返ったでしょ。あそこはねえ、だいぶ前はアンデット系の巣窟だったのよ。まだ残党がいたんだろうね、今でもたまに旅人や行商人が行方不明になることがあるのよ。



奴らは仲間が欲しいけど死霊は1度定位置にしてしまった場所から離れられないから、じーっと見続ける。振り返ると、一時的に縛りが外れて、『こいつは見えなくとも感じている』とみなして追っかけるのよ、しつこくね。

 この周辺の組合はたまに掃除しに行くのよ。アンデットのせん滅と、ゴミ掃除ね。きれいな場所には現れることができないから。


最近はとんと見つからなかったんだけどなぁ……。ま、行きはよいよい帰りは怖いって事で、しばらく通らない方がいいわね〜。


「それはなんで?」

「本当に連れてかれちゃうよ」



その夜は眠れず、寝ぼけまなこで不満をブツブツ漏らすフィラファスの布団に逃げたのは言うまでもない。


「あれは昔からあるフォークロアよ……ガレスは好きだから。そのアンデッドについては明日報告書を送るからね、さっさと寝なさい」


報告書ということは、やはりおかしかったのだ。あのけが人のことも心配だが、目が覚めたら色々聞かないと。


それでもやっぱり眠れないニクスだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ