2度目の敗北
ちゃんと更新していきたいっすね!
「じゃあな!」
蒼いエネルギーの拳がニクスの顔面に迫り来る。初撃、あの一撃のデコピンに全てをかけたが、少し間に合わなさそうだ。ふと、生まれた時から今の今までのことを思い出した。これが走馬灯か。
両親がいた。友達はいなかったが、兄弟のように愛してくれた人たちがいた。そして、だいぶ遅くなったが、友達も出来た。こんな自分を見捨てず拾ってくれた恩人達が出来た。
昔の泣いてばっかりいた子供、木の洞に隠され、生まれついてのハンデを背負い辛い思いをし続けた子供では無くなった。ニクス自身は努力の結果『怪物』と恐れられる程の力を手に入れたのだ。
――――が、バスタードにはそれは全くないだろう。力で押し切ることしかして来なかった人間に、体は負けても精神が負ける道理はない。これだけは恨みつらみ抜きで、哀れみすら覚える。
ニクスの脳と、運は自分を見捨てなかったようだ。声が出る。
「……俺の勝ちだ」
振り下ろされた拳が止まった。見下ろすバスタードの目が、どす黒く染まる。白目も墨を垂らしたように黒くなり、左の頭の閉じていた両目が開く。
「てめえ……あの一撃のうちにカビをッ!」
そう、デコピンの瞬間に毛穴からカビの胞子を感染させたのだ。
しかし、だいぶ前にベルたちに教えた特性がある。それは、体内では特殊な条件を重ねなければ暴走させることが出来ず、免疫細胞に駆逐されてしまう事だ。
あの手この手でバスタードの攻撃を耐えれるようにお膳立てしていたお陰で助かった。奴は胸を抑えて苦しんでいる。どうやら体の基本構造は人間と同じで間違いなさそうだ。
「は……ずかしいな、バスタード……。同じ家の人間に二回も負けたな……少なくとも、お前の勝利条件がターゲットの全滅ならば俺の勝ちだ……」
「なんだと……?」
「増援が来た、俺に恩を売りたい奴らがな……そして……民間人、俺、ほかの組合……一人として……俺が止めた……へ、へへ……」
どの道奴らに力を貸す気は無いけどな、と背を地面に付けながら嗤うニクスであったが、頭に猛烈な衝撃を受け、意識を失った。その寸前、奴の顔が怒りの形相を呈したのを見た。
「今回は俺の負けでいい……だが、てめぇの魂は貰ってくぞ」
――――その言葉はニクスにはもう届いていなかった。
遠くから何者かの声が聞こえる。叫びなのか、嘆きなのか。今の意識では判別不能だ。と、自分の周囲が何か空気のような物に覆われたのを感じる。まさか捕縛されたか?
「……ス! ニクス、生きてるか! 意識があれば手を上げろ!」
野太いが、聞きなれた命令口調で意識が覚醒した。野宿の時に教えて貰った彼の経歴を思い出す。
ベクターは元々国王直属の狩人だったが色々あってやめたそうだ。これはその名残だそうで焦ると命令口調に戻ってしまうらしい。ゆっくり手を動かした。
「頭から血が……!」
「運べ、パルネリアを待機させている!」
ふわっと体が浮き上がると、確かに頭から血の出ている感覚がある。声を出したいが全く出ず、代わりに空気が弱々しく出ていくだけであった。それを見た数人が同時に叫ぶ。
「喋んな!」
寄って集って黙らされ、運ばれた先で誰かに触れられた。直ぐに頭の出血が止まった。手早く包帯をまかれ、少しづつ簀巻きになって行く。ニクスは成されるがままになっていたが、先の戦闘と昔のトラウマで気が休まらない。自然と息が荒くなる。するとようやく戻ってきたフィラファスからバスタードの現在を教えて貰えた。
「あなたのカビで顔の一部を損壊させたわ。あとすこしで捕縛出来たんだけど敵側の増援が1人来て、戦況をひっくり返されたから逃げられたよ」
と言いながら、組合の自室に運ばれ、横たわるニクスにそいつの名を告げた。
「ディエール・ガーヴェイン。聞いたことのない名前だけど、バスタードに与した危険人物として彼も指名手配になった。奇妙な能力でね、攻撃が透過されているかのように当たらないのよ。すり抜けているのか、なにか別の方法でかわしているのか……」
そう言いながら、まだ動けないニクスの体を熱いタオルで拭く。マスター直々にしてもらう事に『特別扱いは嫌だ』と言う抵抗を覚え、辞めてもらいたいのだが言葉が出てこない。体も動かず、多少もぞもぞする程度に収まった。
「寝とけ。お前の足止めのおかげで死人は出なかった。あの時、バスタードは市街地中心に向かう途中だったようだ……。街の守衛は吹っ飛ばされた時に死んだフリして見逃されたらしい」
「虫みたいね。あ、でも奴、昔顔を潰されて左側は見えないってレポートが回ってきたよね」
左側の顔が死んだようになっていたのはそのためか。あれは破壊され、機能していない顔なのだ。しかし、幾つか謎が残る。何故カビの侵食時に《《壊れている左側の顔の目が開いた》》のか? 機能していないのなら閉じた状態でなければ変だ。
(身代わりされたのか……?)
何となく、そんなことを思ったニクスであった。考えてみれば、バスタードの能力は不明のままだ。阿修羅のようになる能力は聞いたことが無い。考えられるのは『体構造改造』のような能力だろう。
程なくして、ライシスが部屋に来た。フィラファスとひと言、二言話すと、近くの椅子に腰掛ける。交代の時間のようだ。
「……かの……人は?」
「元気よ。けが人は数人居たけど、組合メンバーに被害はない。皿がちょっと割れた程度よ」
まだ喋らないで、けが人。と、今まで何度言われたかわからない忠告を受けて静かになる。
と、ライシスが震え声混じりにニクスを諭した。
「その力はみんなを護ることに使って。攻撃したら相手と同じステージに身を落とすことになるよ」
「そこで、あんたの故郷に帰る時だよ。手紙は送ったから、ヴィアドラの所で封殺をし直そうね」
先程出ていったフィラファスが帰ってきた。それをするために出ていったのだろう。初めて聞く言葉なのに、妙に既視感を感じる。まるでつい最近行ったかのような、そんな感じだ。




