表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/49

蠢く淀み

ついに敵の姿が浮き始めました!

「…………」

「おい、話聞けよ」


 ソファを大きく使い、くつろぎながら新聞を読み耽る男が居る。顔は新聞の影に隠れて見えないが、大柄で力強い雰囲気があり、太い二の腕には血管が浮いている。


「どうした? あー、彼のいる組合が1位の組長の収賄を暴いたうえにぶちのめしたってさ。今は事情聴取されてるそうだ」

「てめぇ、あんな野郎に『彼』なんて付けんな、虫唾が走る」

「どうしてそんな嫌うんだよ、誰が聞いても間違いなくお前が悪いじゃねえか」


 俺ならその場で殺してる、とそれらしく新聞の影からちらりと目だけ動かす。こいつも俺と似ている。が、基本俺の考えや言葉には賛同しない。じゃあなんで俺と行動を共にするのか、それは彼いわく「強いから」だ。何がとは言わない辺り本心からそう思っていないと思う。

 そんなことを考えながらポットから紅茶を注いだ時、伝書鳩が開け放してあった窓から入ってきた。足に括りつけてあった紙を手早く外すと、新聞を読んでいた『奴』もソファから起き上がり、すたすたと歩いていくと出入口の扉を押し開ける。俺は短剣を二本、《《奴の死角》》で装備しようとする。


「必要ないだろ」


 見えていないはずなのに、扉の外から声がする。どうして分かるのか。素早く奴の元に行くと、気のせいか、頭が阿修羅の様に分かれているように見えた。だが、2度見した時にはいつもの後ろ姿だった。不思議そうに首をかしげると質問する。


 そんな俺を見ると、にやっと笑い、こう言った。


「お前、『インバーダ』に属すなら……そろそろ本名と能力を明かしたらどうだ?」

「そうだなあ、名前だけでいいか?」




「………………だ」



「は?」


 お互いに動かない。だが、この目は嘘をついていない。まさか世界に8人しか存在が確認されていない能力者を得るとは。俺はついている。頭数も揃ってきた。さあ、行動を本格的に始めよう。ファデル市街には『デディエール』を向かわせるとしよう。彼女はとんでもない性格だが、実力は折り紙付きだ……


 俺は一人ほくそ笑んだ。


 ―――――――


 同時刻、ようやく起きたニクスは、のそのそと下へ向かっている。夜まで事情聴取と、自分の勧誘を振り切るので死ぬほど疲れた。うまいこと逃げたが、ブラック企業の飲み会並みのノリでまた心の奥がチクリとうずいた気がした。


「おはようございまー」

「おはようニクス。朝ごはんみんな食べちゃったよ」


 どうやら自分は一番ドベだったようだ。朝飯などほとんど残っていない。みんなとビュッフェスタイルで食べるのがここでの朝ごはんだ。それでもかろうじて残っていたパンとスープを食べ、今日は仕事が無いということで、ふらふらと町を歩くつもりだ。出かけようと扉に手をかけたその時、ドアがすごい勢いで開け放たれ、ニクスは弾き飛んで椅子に衝突する。座っていた組合員が『大丈夫?』と声をかけてきた。


「だ、問題ないです」

「ニクス・テラーロックはどこに居ますか!?」


 急に自分の名を呼ばれ、驚いて「俺だけど」と声の主を見上げる。そこには赤っぽい髪の女の子が立っている。背丈は低いが、顔立ちからして12,3と言ったところだろうか。その子がこちらを見ると、泣きそうな顔で用を話しだした。


「私のお父さんが……!」

「なんだなんだ、落ち着いてちゃんと教えて欲しい」

「……変な人に触られたら体が黒くなって……」


 黒くなるのはニクスのカビも同じだが、まさかもう1人カビ能力かそれと酷似した能力を持つものが居るのだろうか。話を近くで聞いていたベクターが教えてくれた。


「ニクス、それは間違いなく『妄執の酔水』だ。それを吸収してしまった対象者は術者が見ている限り、毒が回っているのと同じように酔っ払う。昏睡状態に陥ればまず助からん」

「……見ている? ということはまだその場にいるんじゃないのか?」


 ベクターは残念そうに首を振る。


「言い方が悪かったな。心の目……心眼とは違うが、うーん……そう、生霊のようなものだな。そんな特性のせいで、妄執の酔水なんて使える奴は片っ端から規制された時期があったんだ。ある一族が製法を知ってた時は根絶やしだったそうだ。少なくとも能力じゃねえ。

 ……お嬢さんまで名指しするってことぁ、ニクスの能力はあの一件から大きく知られちまったらしいな」


 あの一件とは、組合長収賄事件の事だ。1位の組長を圧倒し、その後も再感染したカビが自白剤として機能した事も後で知り、急に仕事量が増えた。特に、ニクスを名指しする依頼もチラホラ出てくるようになった。嬉しいが、その分忙しくなり、みんなと話す時間が少なくなって寂しい気持ちもある。


「しかしなんで俺を?」

「だって強いんでしょ? ならお父さんを助けられるじゃない!」


 すごい剣幕で怒鳴られ、認識のズレを訂正する余裕もない。どうしようかとフィラファスに指示を仰ぐ。彼女は頷くと女の子の方に歩み寄った。


「彼は強いけど、その方面には秀でていないのよ。幸いなことに、うちには毒物に強い子がいる。その子を向かわせるわ。……ニクス、護衛は頼んだよ」

「了解」


 すると、ニクスがぶつかった椅子に座っていた女性がフィラファスに向けて小さく敬礼をすると、立ち上がる。彼女が毒に強い子らしい。最初に自己紹介してくれたので名前を憶えている。ゼレーアさんだ。その子とニクスを手招きすると、小走りに女の子の家へと急ぐ。体力がないなりに追いかけると、その子が「ここ」と言って一軒の家の前でストップした。ふつうの家だが、苦しそうなうめき声がここまで聞こえてくる。ゼレーアは痛そうな顔をすると家の中へ一歩踏み込もうとする。

 ニクスは偶然足元を見ていたので気づいた。彼女が踏もうとしている場所の色が少し違う。それに何やら花火臭いにおいがする。火薬、つまりは爆弾だ。ニクスは二人の女性を急いで担ぐと後ろに飛びのく。瞬間、ドアと家の窓枠が吹っ飛ぶ勢いで爆発が起き、家が燃え上がった。まずい、中には女の子の父親がいる。父親を失うつらさはニクスが一番よく知っている。あんな地獄は自分ひとりでもう十分だ。吹っ飛んだ窓から家の中に入り、床板をカビで浸食するとめくれあがり、一時的に道ができる。奥のベッドに目当ての人物がいた。事情は話さずに背負い、炎の中歩き出す。道にした床板も炎上してしまい、同時にカビも焼かれて死滅し、床板が倒れると全方位を炎に囲まれる。


「万事休して無いなぁ……白翼!」


 何とか彼を背中にのっけたまま腕を振って風で炎を消す。足元が熱いが気にしてられない。背負いなおすと、走って家から飛び出した。瞬間家が崩れ落ちる。幸いにもこの家だけで火は消し止められた。女の子はショックのあまり走って行ってしまった。お父さんを置いてどこへ行くつもりなんだろうか。ゼレーアは胸をなでおろすと、倒れている女の子の父親の心臓に手をかざす。


「うん、ベクターの言うとおりね。仰々しい名前が付いていても主成分はアルコールだから、肝機能を上げて分解を早めよう。後はかかっている呪いの方だけど……半分除霊みたいになっちゃうわねえ」

「でも誰が爆弾なんか仕掛けたんだ」


 さあ、と肩を少し動かすと治療を続ける。ニクスはその間、犯人はいないかと周囲を見回していた。と、不審な奴がいる。30mほど先の物陰からずっとこちらを見ている。遠すぎて顔は見えないが、明らかに挙動不審だ。カビの制御範囲内ではあるが、アレが犯人である確証がない以上、下手な行動に出られない。とりあえず目を離さないように注意深く監視していると、ゼレーアが「終わった」と声をかけてきた。ニクスは奴から目を離し、彼がゆっくりと起き上がるのを介助する。


「う……あなたたちが助けてくれたのですか……?」

「いえ、あなたの娘さんですよ。彼女が私たちに助けを求めなければ死んでいました」


 彼は、え? と怪訝な顔をする。自分たちは二人ともそんな顔をされる理由が分からない。


「私には娘はいませんよ?」


「……?」


 速攻で「?」マークが浮かんだゼレーアとは対照的に、女の子が走っていった方向と、先ほど不審者がいた場所を交互に見るニクス。幽霊とか非現実的な話ではなく、一瞬よぎった仮説が本当なら、考えた奴は相当頭が良く、なおかつ相当に卑劣だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ