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悪魔強化・lv1

二日連続で更新出来たのはでかい。


「フィラーさん、一位の組合から……」

「知ってるよ。マスターである私の方にあなたを名指しで手紙が来たからね。たぶん何か考えがあってのことだと思うけど、あそこのマスターにはよくないうわさも流れているのよねぇ。それに襲撃のこともあるし、どうしようかな」


 もちろんニクスは出たい。が、マスターであるフィラファスの許可がないと組合間の人員のやり取りはできない。彼女は、少し時間が欲しいと言ってカウンターの奥に入っていった。日程について全く聞いていないことを思い出し、聞こうとするとカウンターの端っこで酒を飲んでいたベクターに止められた。


「今はよしときな。マスターは真剣にお前を守ろうとしている。答えが出るまでは待つんだ」

「ベクターさんに言われるとなんか……その」

「俺もガラじゃねえよ、若者を諭すなんて。俺は女好きのおっさんを通したいんだよ」


 意味不明な理論に半笑いを浮かべながら風呂に逃げる。なぜなら後ろから凄まじい殺気が近づいていたからだ。それにちらっと黒髪も見えた。今頃彼はライシスにしばき倒されていることだろう。


 ニクスは風呂を見て驚いた。脱衣所もそこそこの規模だったが、まさか露天風呂だとは。ちょっといい宿の露天風呂なんか比較にならない程美しい。水垢などほんの少しもなく、よく手入れされていると思った。たぶん混浴だ、最後の思春期を過ごすニクスにとっては純粋にうれしい。ベクターがエロオヤジ化するのも頷ける。


 体を洗い、頭を洗い、ゆっくりと湯船につかると天井をぼーっと見る。ふと、自分の体に目が行く。よくここまで鍛えたな、と自分でも思う。が、体を見るということは腰の傷も見ることになる。これを見るたびに怒りがふつふつと沸き立つのが分かる。バスタードは絶対見つけ出して始末してやる。


「ニクス、あんた中々いい体してるじゃない」

「……うわぁ!? いたんですか!」

「敬語じゃなくていいのよ~」


 ニクスの反対側にいたのは、タオルを体に巻き付け、何かをもぐもぐと食べているガレスだ。彼女もでかい。フィラファスはちょっと、よくわからないです。

 と、こちらまですっと寄ってくる。ニクスの目の前にチーズが差し出された。ガレスが食べていたのはこれか。


「食べる?」

「俺、チーズ苦手なんだよ」


 ニクスは、敬語を使わない努力を始めた。それを聞いた彼女は、残念そうにそれを頬張ると先ほどの会話を蒸し返した。


「聞いてたよ。許可が下りるといいねえ」

「友達の誘いを断りたくなくって……」

「わかるけど、あんたの能力は誰の目から見ても『兵器転用』しやすいものだし、今回は大規模かつ影響力のある組合からの怪しいお誘い…………そりゃ、疑るよ」


 確かにごもっともな分析だ。そこまで言われたら、「NO」となったら、せっかく誘ってくれた二人には悪いが、素直に諦めようという気持ちにさせられた。うなだれるニクスを流石に可哀想に思ったのか、ガレスは頭をポンポンと叩く。


『人間、時には「べからず」が必要よ』

「……べからず?」

「そう。行くべからず、見るべからず、口を開くべからず。全ての「べからず」には相応の理由が付いてくるものよ。今回に関しては、ヘッドハンティングの可能性とカビ能力の強奪、私たち組合メンバーの情報の漏洩……あなたを一人で最強クラスの人たちの集結する場所に送るのはリスクが大きすぎると言わざるを得ない。……もし私がフィラファスの立場なら、即答で行かせないことを選ぶわ」

「能力を奪うなんて……できないはず。それに俺の火力は」

「体力がないから逃げ切れないでしょ。それに、あっちの組合員を殺してしまっては私たちは一網打尽に捕まるわ。ニクス一人の問題じゃないよ」


 完璧に論破され、悲しいながら諦めるしかないと湯船に潜った、その時だった。


 風呂の入り口がスパーンと開き、仁王立ちのフィラファスが何もつけずに入ってきた。ニクスは慌てて目をふさぐ。ニクスがいることに気づいたフィラファスは、少し顔が赤くなると「いたのね、ごめん」と言い、タオルを取って体に巻き付けるとニクスを呼んだ。


「考えたんだけどね……」

「諦めます、残念だけど。ガレスさんによく説明してもらったんで」

「ガレスに同行してもらう形で、行ってきてもいいよって……え? 諦める?」


 なんと、許可が下りた。しかも目の前に居るガレスが同伴とは。彼女は自分を抑える力があるうえに、いざというときに守れるのか……それが心配である。

 それが顔に出たのだろう。ガレスが「心外な」と言った顔でむくれる。


「ガレスは最上位の能力者よ。概念に作用する能力で、重力のベクトルを変えることができるのよ」

「普段は使えないけどね。自分で封印してるから」

「ベクトルを!? ということは、ガレスさんがフィラーさんの言っていた『重力』を操る能力者?」

「そうよ」


 これは頼もしい。というか、のほほんとした雰囲気でうさん臭さまで感じていたのが一気に吹き飛んだ。ここで、ベクターの言葉を思い出し、日程を聞いた。


「一月後。場所はこの町から出て一キロ先の草原みたいよ」

「また力を誇示するつもりね、いやらしい」


 2人が不満たらたら、といった様子で語っていることからするとあまり好かれていない組合なのだろうか。フィラファスがこっちを向くと、かなり悪い顔をしながらいう。


「せっかくだから奴らの鼻っ柱を折ってきてくれる? みんなでこっそり見に行くから」

「あんたならできるよ。何ならメンバー全員で戦い方を叩き込んであげるからね」

「ホントか!」


 嬉しそうなニクスに、女性二人は破顔する。そうと決まれば、とガレスが自分の腕を引っ張ると立ち上がらせ、背中を押して脱衣所に向かわせる。心なしか嬉しそうに見える。風呂から上がりぼーっと牛乳を飲んでいると、数人の男たちがこちらに来た。ベクターもいる。


「マスターからのお達しだ。ここにいる全員でお前を文字通り『最強』にしてやるぜ」


 それから一月の間、組合総出でニクスに稽古をつけることとなる。






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