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白翼と黒翼

ネタから一気に戦闘へ……!

 何度か説明したと思うが、この俺、ニクスは体力とLvが最低の代わりに攻撃力だけカンストしている。それが何を意味するか、解るだろうか。


「当たらねえ……!」

「力に……体が追いついていない……相手もそこそこの手練……今は……ボク達が……指示通り守る……」


 ドラグレアからそう言われ、ハッとした。いや、彼の一人称が『ボク』なのにも驚いたが、まだ会って数時間も経っていないのに実力や弱点を看破されるとは思いもよらなかった。やはりこの男、強すぎる。今も素手で剣を受け止めると刃を根元から折り取り、それを相手の首に突き刺した。手には切り傷すら付いていない。


 一方、ライシスも凄まじい強さを誇っている。セミロングの黒髪を揺らしながら、何時も持っている魔導書とは違う装飾の書物が四冊、彼女の周囲を浮遊している。そのうちの一冊から、灰色の塊が幾つも出てくる。それが天高く打ち上げられると二冊の魔導書が輝いた。するとその塊は赤熱し、最後の一冊の魔導書が光ると動き出した。最初はゆっくりだったが、いきなり加速して降り注ぐ。


荷電流星群かてんりゅうせいぐん


 こちらにも大量に降ってきた。広範囲を焼き払う魔法らしく、思わず顔を庇う。


「大丈夫……当たらない……」


 既に相手を全滅させたドラグレアが、1人の顔を掴んで引きずりながらそう言う。その通りで、ニクスに向かっていた隕石たちは自分の立つ場所を大きく外れ、残党を消し炭に変えてしまう。


「これで終わりよ、ドラグレアは相変わらず苦戦しないね」

「あまり……やりたくない……」


 ふう、と髪をかきあげるライシスと、自分で倒した人達に軽く一礼するドラグレア。彼の根底には『闘いたくない』思いが強いのだと感じた。言葉が途切れ途切れなので暗い人物に見えるが、彼の付けているマスクの下は優しいのだ。


 ――ニクスの腕に鳥肌が立つ。冷水を浴びせたかのような感覚は、ライシスの後ろ、茂みの中からだ。



「ライシスさん!? 後ろー!」

「え!?」


 最初から隠れていたのだ。覆面の男が茂みからサッと立ち上がり、矢を連射する。ニクスは白翼で矢を弾こうとしたが、風の範囲内にいるライシスも吹っ飛ばしてしまう。『弾き飛ばす』白翼ではどうにもならない。


「《《こっちに来い!》》」


 ニクスは叫ぶと、腕を大きく《《引いた》》。すると、飛翔している矢が全てライシスを外れ、くるくると回転しながらニクスの足元に突き刺さった。思わず半歩ほど後ずさる。


「何!?」

「ラストワンね、ナイスよ!」


 今起こったことが理解できない覆面。彼女の周りに漂っている魔導書が全て閉じると、手に持つ魔導書が開く。そこから縄が飛び出すと、覆面をきつく縛り上げる。


「コイツは一種組合に引き渡すよ。もしかしたら最近噂になってる組織の情報を持ってるかもしれないから」


 一種組合とは、またの名を「警備組合」と言い、犯罪者を実際に捕らえる実働部隊も兼ねた組合なのだ。この国では、犯罪者を捕らえる機関と裁く機関が別々である。


 犯罪を犯す者は基本的に、『ステータス』や『能力』で迫害を受けた、強すぎる力に呑まれると言った、戦闘能力がある人間が多い事もあってか、抑え込める力と人数があり、十分な認知をされている組合がその役目を担っている。


 尚も暴れる覆面の男。ドラグレアとニクスで無理やり立ち上がらせ、歩かせる。道中何度か逃げようとしたが、縄が魔導書に繋がっているので動けない。転倒しては吊り上げられを繰り返しながら先程までいた街へ逆戻りした。そこには一種組合がある。引き渡すだけで良い。


 街に入ると、数人の冒険者が待ち構えていた。おそらく誰かが組合に報告か何かをしたに違いない。


「1人は確保しました」

「他は?」

「……死んだ」


 ニクスとドラグレアで小さく報告し、踵を返そうとする。すると1人の組合員がニクスに向けて一言。


「新入りくんよ、君もわかると思うが君のいる組合は狙われやすい。皆気をつけている事だが、不用意な行動は慎むように」

「気をつけます」


 一言返すと、先を歩いている2人を追いかける。ニクスは荷物を忘れたことに気がつき、ライシスを引っ張って先程の道に戻る。荷物は転がったままで、何も取られたりはしていないようだ。よかった。


「じゃあ……ボクは……次の仕事に行く……」

「組合には戻らないんだ」

「まだ何件か……依頼が残ってる……」

「時間を縫って来てくれたんだよね? 案外良いとこあるじゃん」


 彼女から見た彼の印象はあまり良くないみたいだ。朝の言動からベクターとは関係最悪だろうが、彼は何故そこまで言われているのか……。


 ドラグレアは組合の近くまで来ると、脇道にそれて歩いていった。それを見送ったニクスは、今日こそは風呂に入るぞ! と思い、ズカズカとお風呂のあるカウンターの奥に行こうとするが、横からフィラファスに肩を掴まれて止まる。


「なんです!?」

「お風呂行きたいだろうけどちょっと待って。あなたに会いたいって言う人が居るのよ」

「誰ですか?」


 彼女は両手を挙げて「知りません」と言うジェスチャーをとる。せめてどんな人か教えて欲しいと言ったが、『とりあえず行きな』とだけ言われた。フィラファスがそこまで言うなら敵ではない、行ってみるしかないだろう。

 彼女に言われた場所まで歩く。そこは組合から少し離れた集落で、その中心に目的の人物は居るそうだ。そこに着くと、男女の2人組がこちらを見ていた。間違いない、あれから会ってなかったが、成り行きで試験中一緒に行動した二人だ。ニクスは手を振って声をかける。


「おー! 二人とも! 元気だった?」

「お前、俺達の名前……覚えてるか?」

「ごめん、忘れた」


 嘘だ、本当は覚えている。アレストとベルだ。こうして考えると、自分は非常に性格が悪いのかもしれない。


「それで、用事ってのは?」

「俺達は『クオール・ペイル』に所属したんだ。そこで、うちの組合が主催で祭りを開くことにしてさ、招待しようと思ったんだよ」


 クオール・ペイルは最上位の組合だ。一種組合でもあり、そこの組合員はとんでもなく強いと聞く。最近まで知らなかったことは内緒だが、フィラファスの口の端にも上がっていた所から知った。

 だが、ロシェ・スクアールも負けてないと思っている。何かしらの問題=弱点では無いことをニクスは知っている。その上で、祭りに出た事がないニクスは二つ返事で了承した。


「行く」

「私達の名前は?」

「ベルとアレスト」


 よかった、とベルが胸に手を当てると、『もし忘れてたら絶交』と言いたげな目でこちらを見る。ニクスは次からしないように、と決意した。

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