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買い物に行こう

ガッチリネタ会であります! これで追いつきました!

 次の日、ニクスは朝早く目が覚めた。それはさながら、遠足に行く小学生の様に。そう、今日は初報酬で買い物をする日なのだ! この日のためにフィラファスに《《条件付き》》で許可をもらった。


 前日の研究者らしき男たちの襲撃事件により、能力漫画の王道ストーリーである、主人公の能力が狙われる展開。

 まさしくそれで、ニクスの真菌の力と、ひいてはフィラファスの能力が狙われたことが死ぬ直前の奴の発言により発覚した。ニクスが一人で一個師団を蹂躙できるようになるまで、2人の組合メンバーがこっそり護衛に着くことがその条件だ。


 なんというか要求レベルが高すぎやしませんかね。レベル1なんですよ? 一人はお隣さんのライシス。もう一人は『ドラグレア』という名の人だそうだ。なんでも、この組合の強さの基準になっている存在とフィラファスが言っていた。


「それじゃあ、行ってきます」

「気を付けるんだよ。二人が付いてくからね。あ、ドラグレアは出先から帰ったらそのまま行くらしいから」


 クドクドと注意を説明するフィラファスの近くで椅子に座っているセミロングの黒髪の女性。ライシスだ。顔は彼女の能力なのかおぼろげにしか見えないが、それでもわかる豊満な……。


 ――いけない顔になっていたようだ。ライシスが思いっきり嫌な顔をする。


「何見てんのよ」

「な、ナニモミテナイヨー」


 隠しきれない棒読みに、ライシスの顔が露骨にゆがむ。これは二重の意味でいけない。セクハラ的な方と、自分の護衛的な方だ。素直に謝ろう。と、起きてきたベクターが世界の終焉と同等の威力を持つ爆弾発言を投下した。


「おはよう、お前は相変わらず大きな胸してんなぁ! ホッホー、眼福眼福」

「……ベグダァ”ァ”…………死にたいみたいねェ…………」

「ヒェッ……」


 女性とは思えない程の重低音が彼女の口から出た。どこから声が出ているんだろう。昨日の声は女の子らしく高かった。そんな声を聴いたベクターは、してはならないことをやってしまったと理解したようだ。小さく息をのむとそのガタイに見合わないスピードと小物のような走り方でそそくさと逃げていった。が、逃がしてくれるはずもなくスグに捕まり、魔導書でボコボコに殴られている。あんな使い方もあるんだと、思わず感心してしまったがさっさと逃げよう。


「何逃げようとしてんのさ……!」

「ホホ―!」


 たぶんこの時のニクスは、人生を諦めたような顔になっていたことだろう。みぞおちに魔導書がめり込んだ。それからの記憶はほぼないが、カビをぶつけて逃亡したことは覚えている。それも、フィラファスがいるからこその暴挙ではあるが。


 が、肩をたたかれた。振り向くと般若の顔がそこにはあった。驚きのあまり声も出なくなったニクスの前で、そのお面をはずして出てきたのは普通のライシスの顔だった。別段怒っているわけではなさそうだ。ではさっきのアレは一体何だったのだろうか。


「あのエロオヤジは徹底的にやっても喜ぶだけだし、あんたなら苦しそうな顔をするかと思った」

「ドSやんけ」


 言葉が飛び出た。また魔導書が振り上げられ、ニクスは顔をおおって逃げようとした。が、振り下ろされるより先に指をさされた。


「あんたこの町の店、一つも知らないでしょ。案内してあげるよ」

「え、護衛じゃ……いや、助かるよ」


 裏表問わず出てきてしまう言葉を噛み殺しながら礼を言い、何を探そうか思案を巡らせる。すると、横からライシスが提案してきた。


「まずは服じゃない? あんた手持ち少ないでしょ」

「服ってそんなにいる? 一、二枚でよくない?」

「よくない」


 背中をぐいぐい押されて服屋に連行される。ニクスの服のセンスは全くないと言っていい。なぜなら基本、作務衣か上半身裸のどちらかだからだ。上裸なのはアージス譲りで、彼曰く『女じゃあるまいしこっちのほうが動ける』そうだ。確かに筋は通っているが、年頃の男子がこんな格好に洗脳されているのはよろしくないだろう。それを聞いたライシスも同じことを考えたらしく、また顔をしかめるとニクスを鏡の前に立たせる。


 かくして、ニクス改造計画が実行された。彼女はどこからともなく服を持ってきては高圧的に着せる。が、すぐにはぎとられて新しいのを渡される。着せ替え人形状態になっている自分を客観的にみて不憫だと思ってしまう。たぶんアージスとかばあちゃんが見たら大爆笑することだろう。彼らがいなくて本当に良かった、一生消えない心の傷が残るところだった。



 数十分後、ようやく着せ替えから解放されたニクスの手には、少し大きめの紙袋が握られていた。その中には三着の服がきれいに入っている。なかなか重い出費だった……。と、ライシスが少し背伸びをすると、だれかに手を振った。すると、自分の目の前にシュン! と言わんばかりの瞬間移動で、ニクスと同年齢に見える男性が現れた。服装に目が行くが、彼も自分と大して変わらない。


「……また……着せ替え人形……そうか、君が……レベル1の怪物……」

「ドラグレア、ようやく来たのね」

「妨害……された。……とにかく……俺が……君を守ると……命令……された……ビクトリー・ドラグレアだ……」

「あんたがドラグレアなのか……強さの基準になっているっていう」


 フードとマスクに隠れて顔が見えないが、その目には強い意志と、確かな強さを感じ取れた。それに、なぜかこの男には勝てないと、思わされる。次の瞬間、彼の手がマントの下に消える。視線は当然そちらに行くが、左手がぬるりと首に触れた。鮮やかな不意打ちだ。ニクスは思わず立ちすくむ。


「君は……一目でわかるほど……実直……すぎる。戦いに……戦士の高潔さは不要…………機会があったら……不意打ちを……教えてあげるよ」

「お、あ、はい」


 ドラグレアの目が少し笑ったような気がした。瞬きをすると、彼の姿は影も形もなかった。ニクスは思考停止してしまっていた。次元が違う。彼は基準なんかじゃなく、超えられない壁だ――


「ああ見えてあの子、目立ちたがり屋なところあるから。今のも含めてね」

「そうなの?」


 やっとその言葉だけひねり出すことができた。レベル1だろうが何だろうが、アレに対しては勝ち筋の一つも見当たらない。そういえば、今の自分のレベルはどのくらいなのだろうか。見るのが怖いが、多少は成長しているのだろうか。


「さあ、次は雑貨屋よ。部屋をきれいにしないとね」

「なんか俺よりテンション高くない?」


 いいからいいから、とまた背中を押されて市中を引き回される。あちらで買い、こちらで買いを繰り返しているうちに日が暮れてしまった。商店街を抜けてゆっくり変えるニクスの両手は、袋でいっぱいだ。なぜかライシスのものまで持たされているのもある。


 ――風がやんだ。二人の顔が一気に警戒モードに変わる。五人、六人……二十人。ガンドーを襲っていた連中とまたく同じ覆面をした男たちが取り囲んでいる。と、一人が倒れた。その後ろからは真っ赤になった小刀を持ったドラグレアが歩いてきている。周りがどよめいた。


「奴は! 『捨て人』か!?」

「さあ……二つ名なんか……興味ない……三人とも……つわものだ……撤退するなら今だぞ……」

「かかれ!」


 ドラグレアの警告に従わず、全員が襲い掛かってきた。ニクスはその場に荷物を置き、覆面の連中に襲い掛かる。戦闘が始まった。




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