2.宿にて 2
ソフィアとアリアの仲間達
ん? というような、きょとんとした表情で一瞬止まってからヴィオラさんは高笑いしてから応えた。
「かははは…… ワタシはね。黒魔法はからきしダメ。どっちかというと体術……蹴るとか殴るとかだね。まぁ一応、黒魔法は飛礫形態ぐらいかな」
「でも使っちゃダメですよ。ヴィオラさんの飛礫形態をこんな所で使ったら……」
「どうなるの?」
ソフィアが止める理由はなんだろう?
「私の飛礫形態が小石程度だとすると、ヴィオラさんのは……」
ちょっと言葉を止めて、考えてから……いや、思い出してから言葉を続けた。
「3階建ての宿屋ぐらい……かな?」
待てぃ。ソフィアの鞭形態自体がアタシの陣形態に匹敵しているんだぞ?
「かははははは……まぁ、そんなモノかな? 火炎飛礫一つで山火事になりかけたこともあるからね」
お〜い。そんなのアタシの陣形態以前に軍事国家オーヴェマで編成されているという黒魔術師戦闘部隊をも遙かに凌駕しているじゃないかっ!
聖アィルコンティヌ寺院出身者って化け物揃いかいっ!
「はぁ……それって寺院の修行の所為?」
「違うわよ。ヴィオラさんは特別。三大修行尼僧って呼ばれていたんだから」
「三大? って何が?」
「清き光の浄化のネメシア。解毒と施術の鋭きラディア。そして治癒と膨大法術量の巨大なワタシ……という訳さ」
ん〜。何となくラディアさんだけには逢いたくないような気がするのは何故だろう?
「んでさ、ソフィ姉ぇはなんて呼ばれてたの?」
ソフィアとヴィオラさんは視線を合わせて……噴き出すヴィオラさんをあたわたと止めるソフィア。
ん〜? あまり良くない通り名のようだな。
「ソフィアはね……最初は『だんまりのソフィア』だっけ? 寺院に来たときはなんにも喋らなかったのさ。その後は……すぐに実力発揮で『強靱のソフィア』とか『頑強のソフィア』で、最終的には『聖なる超絶法力のソフィア』だったよね」
最初のは兎も角……なんにしても凄そうだ。
「ソフィ姉ぇの『超絶法力』とヴィオラさんの『膨大法術量』って似ているような気がするんだけど?」
「ん〜 ワタシのは単に一回の法力の量が多いってだけだからね。ソフィアのは特別。尽きなくて尚かつ強靱だからね」
「? よく判らないけど……」
「んとねぇ。例えるならワタシのは湖の水。幾ら汲んでも尽きることはないけど怖くはないでしょ? ソフィアのは見渡す崖全体から落ちてくる大瀑布。尽きるどころか圧力で潰されそうになる。そんな感じなのさ。法力の質が私達とは段違いに強靱だしね」
あ〜 何となく判るような気もしなくはない。……かな?
「つまり……ソフィアは法術の効果が人より強くて、ヴィオラさんは強さは普通だけど法力の範囲が大きい……という事?」
「そ。そんな感じ。しかし……ソフィア。あんまり法力使ってないんじゃない? 法力酔いしかけているみたいだけど?」
ん? 法力酔い? 何ソレ?
ヴィオラさんの説明によると……あまり、法力を使ってないと悪酔いしたような風邪を引いたような状態になるらしい。う〜む。法力があるというのも面倒くさいんだな。
「確かに……あんまり使ってませんけど……まだ、大丈夫ですよ」
力ない感じでソフィアが額の汗をぬぐいながら応える。ヴィオラさんが心配げな視線でソフィアを見て、それからアタシを見てから何かを思い付いたように言い出した。
「そうだ。アリアちゃん。アンタ凄い術、知っていたね。法力振動数は?」
法力振動数? また判らん単語を……
「振動数って何が? それにアタシを呼ぶときは呼び捨てで良いわよ。『ちゃん』づけしないで欲しいな」
ちょっと怒ったアタシににんまりと笑って、ヴィオラさんは新しい取り皿……じゃなくて小さい深鉢をソフィアに渡した。
「判ったよ。アリア。んじゃ、ソフィア。霊精を宜しく〜」
ソフィアは片手で小深鉢を持って……薬指を深鉢の底を指したまま二度三度と振ると……小深鉢に虹色に煌めく透明な液体が満たされた。
「え? なにそれ?」
「それが霊精。普通の僧侶……そだね。人間界の賢者クラスの人で一滴作り出すのに一晩は掛かるかな? 法力の源を物質化したモノだよ」
賢者クラスが一晩で一滴が見る間に小鉢に一杯……ソフィアってやっぱり凄いな。
「じゃ……アリア。テーブルに小深鉢を置いたまま両手で包むようにして……目を瞑って……心を落ち着かせてみて」
ソフィアに言われるままに……両手で小深鉢を持って瞑想してみる。
「もういいわよ」
ソフィアに言われて小深鉢を見ると……六角形の波が……これって?
「めずらしい。振動数が6なんて……しかも綺麗な六角形」
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これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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