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聖霊の街  作者: 葛城 炯
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28.それぞれの道へ 2

 ソフィアとアリアの仲間達

「すみません。剣を貸していただけます?」

 朝食をみんなで済ませた後でソフィアがエァリエスさん……じゃない、イリアさんに頼んだ。

「何をするんだ?」と不思議そうな面持ちながらもイリアさんは腰の二つの剣……幅広のソードブレーカーをテーブルに置いた。

「ちょっと、お呪いを…… アリア。悪いけど、霊精を剣に塗ってくれる?」

 真剣な面持ちでソフィアが頼むからアタシも神妙な気持ちになって、ソフィアが大深鉢いっぱいに作った霊精を慎重に満遍なく塗った。

 ソフィアが何やら小さく呪文を唱え……人差し指で刀身に呪紋を描き始めた。刀を持つことが赦されない白魔導師であるソフィアが剣に触れるのはやっぱり無理があったようで人差し指から白く煙が上がって、みんなが驚いていたけど……ソフィアは止めることなく、熱がることもなく呪紋を一気に描ききった。

「ソフィア。指は? 大丈夫なのか?」とイリアさんが確認していたけど……ソフィアはにっこりと笑い、呪紋様の意味を説明した。

「こちらの剣の片面に炎の精霊、もう片方には土の精霊、こちらの剣の片面に風の精霊、もう片面に水の精霊。それぞれの精霊の力を宿す呪紋様を描かせて頂きました」

 なんでもイリアさんが法力というか法術を鍛錬すると精霊の力を使えるようになるらしい。

「私が生きている限り……そして私の法力が尽きない限り有効です」

 「何でそこまで? 指を痛めてまですることじゃないでしょっ!?」とイリアさんに問われてソフィアが至極あっさりと「だって私の名を選んで頂いた以上はできるだけ健やかでいて頂きたいですから」とにっこり笑顔で応えていた。

 イリアさんは……黙っていたけど、両目に涙を浮かべて喜んでいた。

 そうだ。余計なことだけどイリアさんの紅い右の瞳にはいつの間にか金色が混じっている。たぶん、それも精霊ノギの祝福なんだろう。前は右の瞳を見ていると何か苛立ってきたけど、いまは何とも思わなくなっている。

 ……時々妙に不安になったりもするけど、苛立つよりは良いじゃない? そうだよね?

 そして、ネメシアさんにはネックレスを渡していた。なんでも、浄化の術とかを宝珠に小さく固めたモノらしい。

「妖精となったネメシアさんには余計なことかも知れませんが……霊精が必要なときにお使い下さい」

 ネメシアさんは嬉しそうにしていたな。ん。そうそう。ヴィオラさんが「私には何もないのかい?」って……苦笑していたけど。

 あれ? ヴィオラさんはアタシ達と別行動?

「ワタシはネメシアに付いていくよ。だってね……あの三人だけじゃ怪しすぎて……」

 そうだ。イリアさんはアチコチの国で賞金首となっているらしい。で、その賞金首の解除をしてもらいに旅するといっていた。でも、現賞金首に同行するのが人形遣いのグレイさんとイリアさんの剣の守護妖精のネメシアさんじゃ……どう転んでも特別すぎる一行で無事に済みそうにもないな。

「話の始めぐらいは普通に進めたいからね。マトモのなのが必要だろ?」

 ……え〜と。別に不必要に反論する気はサラサラにないんだけど……ヴィオラさん自体も誰も見たことがないといわれる聖アィルコンティヌ寺院出身の大猫娘なんですけど。

 ま、いいか。

 ギザキさんとノィエはギザキさんの生まれ故郷に向かうと言っていた。闘技大会で優勝したし、路銀にも困らないだろう。所謂、早めのハネムーン旅行だね。


 アタシとソフィアとイリアさんの髪で編んで作った紐は三人の守神。

 ヴィオラさんとノィエも欲しそうにしていたから5人の髪で作ったのを全員が別に持っている。ヴィオラさんの髪は短いから……芙紗に編んで止め紐にしたんだけどね。

 お返しにとノィエからは何枚かの呪符を貰った。

「いい? 困ったときに使ってよ。何の効果かって? それは使ったときに判るから」だってさ。なんだろね。ま、いいけど。


 全員で町はずれまで一緒に歩き……四叉路でもう一度、声を掛け合って別れた。ノィエ達は海辺の町へと向かう道。イリアさん達は近くの要塞都市へと続く道。そしてアタシとソフィアは真っ直ぐに次の町へと続く道。

 みんなに手を振ってから……振り返ってノギの町を見る。

 元々は精霊ノギの神殿城下町。

 誰かが……闇の眷属達が呪いをかけ、戦乱の世の中で神殿も破壊され、城下町であることすらも忘れ去られた。そして、呪いを増幅・継続させるための闘技大会。それらがそのままだったら……多分、精霊ノギは魔王に従う存在となっていたのか……少なくとも、人間達に味方することはなかっただろう。それが……ソフィアが現れ、闘技大会での呪いの継続が妨害され、呪いをかけて『闇の剣』へと変貌させることに成功した精霊ノギの剣もネメシアさんが呪いを浄化し続けていた。そして……アタシが精霊神殿の入り口を見つけて……妨害しようと、その夜に襲撃しに来た。いや、町の人達を使って襲撃させた。

 それが闇の一族。魔王の眷属達。

 狡賢いというか、せせこましいというか。

 まともに立ち向うと……ソフィアの前には一溜まりもないのだろう。いや、ソフィアじゃなくてもネメシアさんやヴィオラさんでも一蹴できる相手。そしてそれが判っているから正面から向かわずに影でこそこそと動き回って魔王に荷担しようとする眷族。


 ソフィアが立ち向う敵の正体が判った。

 でもね……


 どんな手を使ってもソフィア達には歯が立たないんだから、おとなしく何処かの影で何にもせずに魔王が倒されるのを待ってなさいっての。

 見つけたらただじゃ置かないわよ。例えアタシ一人だとしても、眷族の下っ端の二、三人ぐらいは蹴散らしてあげるから。


「何してるの? 早くしないと次の町に辿り着けないわよ」

 ソフィアは眩しいぐらいに微笑んでいる。

 黙ってノィエの城を直して、頼まれもしないのにみんなの傷を治して……それが精霊ノギへの呪いの増補を防いでいたなんて……。さらには剣の呪いを一人で解いていたネメシアさんへ法力の源である霊精を望むままに渡して……

 町のみんなはソフィアがしたことなんて誰も知らないんだろうな。でもソフィアはそれが役目とばかりに黙って闇の眷族たちから、みんなを護っているんだな。


 魔王なんて……きっと片手間で倒してしまうんだ。


「ん。次の町ではちゃんと遺跡とか宝物があると良いね」

「どうかしら? また無駄足かもよ」

「いいじゃない。無駄足に勝る宝はないってね」

「へー? それ誰の言葉?」

「大遺跡探検家であるアタシの言葉。下手な宝物があるよりも何にもない方が次の遺跡の楽しみが増えるってコト」

「なんか、負け惜しみにも聞こえるけど?」

「いいの。人生、そんなに良いことがあるとは限らないけど、最悪を普通と考えたらどんなことでも良いことになるって意味なの」

「はいはい。判りました」

 アタシ達は急がずに先へと進んだ。

 この刻を楽しむかのように……



29.それから……

 そうそう。あれからノギの町は精霊神殿城下都市国家として栄えているらしい。周辺の国や都市国家も精霊の怒りが怖くて攻めてこれないみたいだ。というのか闘技場で祈りを捧げた人々は石の身体となって剣が効かなくなるんだから無敵だよね。でも有効期限がせいぜい7日間だけらしいから、強大な軍事国家にも成れないらしいけど。ま、そのぐらいが丁度いいのかもね。

 結果として、近くの都市国家と同盟を組んで都市国家連合となって平和に過ごしているらしい。

 それと精霊神殿にも精霊の力にあやかろうと参拝者が列を成しているとのことだ。

 ただ……きちんと順序を踏んで精霊に逢えるのは……誰もいないらしい。

 それでも……誰かが尋ねているのは精霊ノギにとっては嬉しいことに違いない。


 いままで……何百年もずっと一人でいたんだからね。

 読んで頂きありがとうございます。

 これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。

 次回は「精霊の島」(仮)の予定ですが、未定です。

 感想などいただけると有り難いです。

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