27.精霊への 3
ソフィアとアリアの仲間達
え? その剣はエァリエスさんしか抜けないんじゃ?
ネメシアさんはゆったりとした仕草で……鞘と柄を合わせると……虹色の輝きが繋げていく。それはまるで……長巻とかいう握り柄の長き剣。細長い十字架のような業物となった。
「待てっ! その剣を受け継いだのはアタシだっ! 血を吸わせたのも、穢れさせたのもアタシだっ! 何でアンタが責を……」
ネメシアさんは……ゆったりと振り返り……ネメシアさんに、飛びきりの笑顔で応えた。
『この剣は……我が王国の聖宝。遠き昔に戦乱の時の中で失われ、闇の……魔の眷属達によって魔剣と改変されてしまった剣。其方の手に渡ってからの穢れなぞ、我が身が追うべき責に比べるならば塵ほどの……』
「五月蠅いっ! アタシの責をアンタが負うのは赦さないっ!」
泣きながら……エァリエスさんが叫ぶ。
そんなに……エァリエスさんのことを思っていたのだろうか。
いや、それともエァリエスさんの責任感が言わせているのだろうか?
「アタシの命を救ったグレイを……アンタは生き返らせた。それだけで十分な……」
『心優しき、強き者よ。其方が闘いは望んで行ったモノではない。剣が総てを知っている』
剣は……漆黒の刀身の中から輝き始めているかのような……眩い光を帯び始めている。
『……其方の闘いは闇の中で光を求めての闘い。その闘いの中での穢れも……』
グレイさんの方を向き、改めて……微笑んだ。
見ているモノ総ての心の闇を払うような天女のような微笑みで……
『グレイ。其方の法術が穢れを祓い、呪術を封じ……聖剣へと戻す道を示してくださいました。蘇生はその過程での結綬。其方が望む程道ではなかったことは謝罪します。お許し下さい』
ゆったりとした仕草で謝罪するネメシアさん。
いまや……幽霊と言うよりは光の中の妖精のような姿で真剣な面持ちで言葉を繋いだ。
『ソフィア。貴女と知り合えて私は幸せでした。サーラ、アェリィ、ノーラ、ウェンディ。遊んでくれてありがとう。ソフィア達を宜しくね。ヴィオラ。貴女が遠縁でも血が繋がっていることは心強かった。寺院での日々も楽しかったわ。エァリエス、グレイ。其方達にこの剣の運命の一端を負わせてしまったことは我が一族の責。気にしないで下さい。ギザキ、ノィエ。短い間でしたが同じく光の定めに従う者と出会えて幸せでした。そして……』
ネメシアさんは……アタシの方を向いて、にっこりと笑った。
『アリア。ありがとう。貴女が言うとおり、私だけじゃこの遺跡を復活させることはできなかった。そして。ごめんなさい。貴女を助けることはできなくて……』
アタシは叫んだ。叫んでネメシアさんの言葉を止めた。
「いいからっ! そんなのは……そんなのはいいからっ! 消えないでっ!」
ネメシアさんは変らず微笑んでいる。
『アリア……貴女が居てくれたから、貴女が私の場所を尋ねてくれたから私は再びソフィア達と出会えた。剣の運命を改めることができた。我が一族の総てを持って感謝いたします』
「そんなのは要らないっ! 感謝なんか要らないっ! 要らないから残って……」
『我が祖先よ。我らが一族の聖宝、精霊刀『斬岳』に施された総ての穢れを、魔の眷属達の呪いを今、総て祓います。我が身の総てをもって……』
今や……漆黒であった刀身とは信じられぬほどの眩く光となってる剣を……自分の胸に……
「だめぇぇぇぇぇぇっ!」
アタシの叫びと石像の両眼から金色の光が飛び散るのは同時だった。
精霊ノギの石像から飛び散った光は辺りを包み……アタシ達を貫いて……やがて霞となって消えていった。
石像は沈黙する石の固まりに戻り……砂巫女さん達もただの砂の塊となって崩れ落ちた。
残ったのは……空中に浮いている剣。
眩い虹色の光を放つ剣。
不意に糸が切れたように落下して……音もなく砂の床に突き刺さり……総ては終わった。
その剣を抱きしめて……泣きじゃくるエァリエスさんの悲しみの声だけを遺跡の中に響かせて……
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これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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